恨み晴らします1(屈辱)

101の水輪

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恨み晴らします1(屈辱)

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  金城友梨は、13歳の中学1年生。部活動はバスケットボール部だが、身長は153cmと決して高いほうではない。細身でとてもバスケットボールで活躍できるような体格や体力は持ち合わせていない。それどころか度の強い牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡を掛けていて、、図書館で本をめくってる姿の方がピッタリな感じだ。
 友梨には3歳下の妹の早樹がいる。両親は共働きのため、早樹の世話はもっぱら友梨がみている。父の健三は帰宅が遅く日をまたぐことが度々で、母の佳枝もバリバリのキャリアパーソンで、やはり夜の9時10時過ぎ。そんな2人を助けているのが友梨で、夕食の支度や洗濯、早樹の宿題の面倒、寝かしつけと、まるで母親に代わり、いや母親としての務めをこなしている。でも決して世話をいやがってるわけではなく、どちらかというと楽しんでるようにさえ見受けらる。早樹も友梨にべったりで、佳枝がいないさみしさをみじんとも感じさせない、仲のいい姉妹だ。

 今日も1日の授業が終わり、部活動が始まろうとしている。友梨は親友で同じバレーボール部の結月と、練習前のコートの整備をしていた。
「友梨、皆藤拓のコンサート見た?」
「誰それ?」
「えっ知らないの!アイドルグループ〝ヤリッシュ〟のセンターじゃん。私の推し」
「そうなんだ」
 友梨には、一切興味がなさそうだ。
「友梨って好きな男の子っていないの?芸能人でもいいから」
 そういえば友梨の会話の中で、男子のことを聞いたことがない。
「そうね、あえて言えば信長かな?織田信長」
「ねえふざけないで、こっちは心配してあげてんだから」
 本気とも冗談ともつかない一言に、結月も少しあきれ気味だ。
「集合~」
 隣のコートから声が聞こえてきた。男子バスケ部の練習が始まろうとしている。
「ねえ見て見て、男子やるみたい。八神先輩って本当にカッコいい」
 部員を集めて中心で指示するのは、キャプテン八神天馬。ドリブルとスリーポイントシュートが得意で、U15世代では、その名を知られた逸材だ。将来はNBAも間違いなしと言われていて、イケメンなのはもちろん性格も温厚なため後輩から慕われている。
 練習が始まると一気に女子のギャラリーがコートを囲み、アイドルの親衛隊のごとく黄色い悲鳴がこだまさせる。中には彼を見たくて、近隣の中学校からわざわざ見学に来ている追っかけまでいる。まさに非の打ち所がない少年とは、彼のことを言うのだろう。
「そうかなあ、別にカッコいいとは思わないけど。それよりそろそろ先輩たちが来るよ」
 友梨の反応は相変わらずで、それどころか頭の中は今晩作る夕食のメニューで一杯だ。

 友梨が帰宅すると、佳枝が珍しく早く帰っていた。
「ママ、早いじゃない、どうかしたの?」
 普通の家では、母親が娘に掛ける言葉だが。
「明日からリモートの仕事が始まるから、今日はその準備のために早く帰られた」
「じゃあ家での時間が長くなるんだ。うれしい~」
「そうね、あなたには色々やってもらってたから、これからはママがね」
「ママは家でも仕事が忙しいんでしょ。今まで通り私がやるから。でも早樹もよかったね」
 会話を聞いていた早樹は、その言葉に反応もせず、背を向けて黙って部屋に入って行った。
「おかしな子、まあいいか。じゃあ夕食作るね、食材買ってあるから」
 友梨は嬉しさの余り、鼻歌交じりで料理を始めた。メニューは得意の肉じゃがとブリの照り焼き。

 就寝前、友梨は佳枝にようやく話しかけることができた。
「ねえママ、少し話していい?」
「もちろんよ。そういえばあんまり長い話したことなかったわ。ゴメンね」
「ううん、いいの。ママも私たちのためににがんばってくれてんだから。あのね、結月が私に好きな子いないのかって。いないよと言ったらとても驚いてたんだけど、やっぱり私って変なのかなあ?」
「そっか、別に変じゃないよ。そのうち好きな人なんてできるって。大丈夫心配なし」
「だよね、人なんて無理に好きになるもんじゃないよね」
「さあもう休みなさい。明日も早いんでしょう?ほんといつもありがとう」
 友梨はやはり興奮していて、すぐに眠りにつくことが出来ずスマホをいじり出した。
「結月が言ってたのは皆藤何とか?えっとヤリッシュのヤね」
 そこまで打つとふいに友梨の手が止まった。
「ヤ、ヤ、ヤガミさんだっけ」
 すると友梨の指は、自然と〝八神天馬〟と打ち込んでいた。そこからは多くの情報があふれ出してきた。
「へえーかなり有名人じゃん。同じ学校の子にこんな人がいたなんて」
 友梨は時間を忘れるほど検索に夢中となり、眠りについたのは夜中の2時を回っていた。

「ねー友梨、大変大変。あんた何かした?」
 翌朝登校すると、結月が慌てて駆け寄ってきた。
「昨日部活帰りに八神先輩が声掛けてきたの。舞い上がっちゃって」
「えっまさか告白?」
「そうだといいけど。私じゃなくて、友梨あんたによ」
 友梨にはにわかに理解できるはずがない。
「土曜の部活が終わったら、体育館の裏に来てほしいんだって、この~いいなあ。モテ期到来」
 何で自分なのか、何が起こってるのか。動揺と同時に〝ほんわか〟とした気持ちが、友梨の心にわいてきた。

「ママ聞いて、私にも春が!」
 帰宅した友梨は、マンションの扉を思いっきり開けると、中に駆け込んでいった。
「あれ、いない。ママは?」
 テレビを観ていた早樹が、友梨に気づき答えてくれた。
「ママの会社、リモートでなくなったんだって。お姉ちゃんにご飯作ってもらってだって」
 せっかく一番にママに伝えたかったのに残念だったが、その反面、早樹が妙に機嫌が良さそうだ。
「そう。ちょっと外出てくるからお留守番しててね」
 友梨は、佳枝からの了解を得た上で、牛乳瓶の裏ガラスからコンタクトレンズに変えに行った。そしてブティック、コスメ店等、今までは全くといっていいほど縁がなかった店をハシゴした。昨日まではいなかった友梨が、明らかにそこにはいる。それもすべては・・・。
 
  帰宅すると部屋に閉じこもり、さっそく鏡との睨めっこが始まった。
「きれいになれ、きれいに。そんな魔法ってないかなあ」
 部屋からあまりにも出てこないので、早樹も困り果ててしまっている。
「ねえ、お姉ちゃん。ご飯まだ?」
 『早樹ちゃんごめんね。まだです。お姉ちゃんの頭の中は、ただ一つだけなの』

 あっという間に時が過ぎ、土曜日となった。今日も両親とも早朝から勤めに出ていて、なぜか早樹が場の空気を読んだのか、ソワソワしているのが伝わってくる。
「早樹、部活行ってくるね」
「お姉ちゃん頑張って、上手くいくといいね」
 いつもはつらい練習も、今日は終えるのを早く感じられた。
 後片付けを済ませるといよいよだ。早樹の心臓の高鳴りが聞こえてきそうだ。
『もし行ってもいなかったらどうしよう?それより告白でも何でもなかったら』
 余計な心配が友梨を押しつぶそうするが、勇気を奮って指定された体育館の裏に向かった。そして恐る恐る校舎角から覗き込むと、確かに天馬がそこにはいた。不安を感じながらも緊張した面持ちで近づいて行った。
「やあ、金城さん。本当に来てくれたんだね」
「八神先輩、いつも遠くから見てました。話すのは初めてですけど」
「ありがとう、じゃあズバリ言うね、俺と付き合わない?」
「えっ、何て?」
 友梨の喜びが頂点に達した。夢じゃないか、今すぐ大声で叫びたい気持ちとなった。ところが。
「あっ、今のうちに言っとくけど、俺には2人の彼女がいるんだ。だから金城さんが3人目ね。それでよければ付き合ってくんないかなあ?」
 友梨は耳を疑った。先ほど以上の驚きだ。
「この人、正気なの?」
「まあ今すぐ返事くれなくてOK。そんなに急がないから。明日の日曜日にこの場所で教えてくれ。よく考えろよ、俺と付き合えるなんて幸せ者だぞ」
 そう言うと、天馬は去って行った。友梨には何が起きているのか、頭が爆発しそうだった。
                                                                                                                                   
                                      つづく
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