僕らの熱血先生 2(本当の姿)

101の水輪

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僕らの熱血先生 2(本当の姿)

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ー 僕らの熱血先生  1(今どき流行んないよ)の文末 ー

石沢が校長室に呼ばれた。
「まずいんですよ、石沢先生。生徒にケガさせちゃ言い訳できません。先ほど教育委員会から電話があり、しばらく自宅で待機するようにとの指示がありました。しかたないですが、しばらく家庭の方に居てください。追って連絡します」
「分かりました、従います」
 石沢は一切の言い訳をせず、校長室を後にした。職員室に戻っても誰一人声をかけない中で、大学の後輩の中村が近づいてきた。
「先生は悪くない、すぐに戻れます。早く帰ってきてください」
 中村の励ましに勇気づけられる。
「当たり前よ、明日も来るぞハハハ」
 最後まで憎まれ口を叩きながらも、背中はどこか寂しそうだった。  


ー 僕らの熱血先生 2(本当の姿)ー はここから

   翌朝七時半から緊急の職員会が開かれた。緊急メールが回り、教職員37人全員が出勤してきた。ゆっくりと校長が話し始めた。
「早くから集まっていただきありがとうございます。今朝、石沢先生が心筋梗塞で倒れられました。命に別状はありませんが、当分の間お休みになられます。早い回復を願っています。このあとの動きについては、教頭先生の方から話してもらいます」
 教頭にバトンタッチする。
「それでは詳しい動きについては、私の方から話します。まず生徒への・・・・」
 石沢が倒れた。昨日学校を後にしたときは、あんなに元気が良かったのに。誰もが信じられない、いや信じたくないこの出来事を、にわかに受け入れることはできない。
  
 学年主任の村田が、2年1組の教室で生徒たちに説明する。
「今朝、石沢先生が倒れられました」
 生徒たちの驚きは相当だ
「えっ死んだの?」
 中には泣き出す生徒も出てきた。
「幸い命に別状はないですが、ただしばらく学校はお休みです。仮担任として・・・・」
  生徒たちには明らかに動揺が広がっていく。
「もし不安なことがあったら先生に言ってください。ちなみに、ご家族としては、お見舞いは遠慮してほしいとおっしゃられてます」
 そこまで言うと、村田は教室を出て行った。
「おい、やばくない?あの石沢が倒れるなんて。見舞い行くやつなんていないだろ」
  そこかしこと、生徒たちの集まりができていく。
「何かあったのかな、いま話題の働き方?」
「きっと俺たちをさんざんいびっていたので天罰」
「ダメだろう、言い過ぎ。それより次の担任誰かな?」
 さすがに言葉が過ぎる。今言う言葉ではない。

 動揺してたかと思うと、すでに生徒の興味は、仮担任に移っている。
 そんな中でも、拓斗と千夏は、石沢のことが気にかかっている。
「石沢ってそんないやなやつだったけ」
 拓斗が千夏に尋ねた。
「まあ、女子の間ではあんまり評判よくなかったけど」
 それは事実かもしれない。
「そりゃ全員に好かれることはないだろ。でも叶翔の事件についても石沢が悪いことないって。不可抗力ってやつ?確かにすぐキレるのは、さすがによくないけど」
 ここで千夏から提案があった。
「拓斗、土曜日に石沢先生の入院している病院へ行ってみない?」
 でもそれは禁止されているはず。
「村田がダメだっていってたじゃないか」
 千夏も引かない。
「大丈夫、突入すれば」
 拓斗もどうしても確認したいことがあったので、結局は一緒に行くことにした。
 
「すみません。石沢さんの病室は何号室ですか?」
 二人は石沢先生が入院している病院の受付に着いた。
「308号室だけど面会謝絶ですよ」
 予想だにしなかった答えに、一瞬引いてしまう。
「えっ面会謝絶って会えないってこと?」
「親族の方ならOKですけど」
 そこで、
「僕たち石沢さんの甥と姪です、今日しか休みがないんです」
と、とっさのうそで警備員も丸混んでしまった。

「まあ、こんなウソうそもしかたないか」
 2人はこっそり308号室に向かう。しかし、そこには面会謝絶の札が。
 そのとき、偶然にも扉が開き女性が出てた。ここぞとばかりに、拓斗が話しかけた。
「あの~、僕たち石沢先生のクラスの生徒です。ほんと言えば来ちゃいけなかったことは知っていましたが、どうしても会いたくて」
 しかし、つれない言葉が。
「ありがとう。せっかく来てもらったのに主人には会えないのよ」
 どうやら妻の里美のようだ。
 話によると、その日の朝、石沢先生が起きてこないので寝室に行ったら、意識がすでに無く、すぐに病院に運ばれ一命は取り留め最悪の事態は免れたが、植物人間の状態になってしまった。奥さんが気丈に振る舞う分、よりそのつらさが伝わってくる。
「あっそうだ、ちょっと待って」
 そう言うと、病室から一冊のノートを持ってきた。
「えっと君が拓斗君で、あなたが千夏さんね」
 ノートを見た里見が名前を明かしてみせた。
「どうして分かるんですか?」
 当然の疑問だ。
「ここにみんな書いてあるもの」
 そう言って、ノートを見せてくれた。
 そこにはクラスの生徒の顔写真と、横にはコメントがぎっしりメモられている。
        
    相島拓斗(15歳)
     戸田小学校出身 中肉中背 学級委員長 少し気が弱いが頼りにされている・・・
        ・・・・・・・・
        
    赤田和哉(15歳)
       塚本小学校出身・・・・・・
  
 拓斗は、そのコメントの多さと正確さに驚いてしまう。さらに、かつて受け持った教え子たちのノートまで見せてくれた。 
「びっくりしたでしょう。これが主人の宝物なの」
  拓斗たちが知らない事実がそこにはあった。
「いつも楽しそうに書き加えていたわ。これが俺の自慢の教え子たちだって。あの人の学校での評判どうでした?」
 里見からの不意な質問に、少したじろいでしまったが、 
「え~と、その~人気者でしたよ、ねえ千夏」
 と、事実でないことを言ってしまった。
「そうそう、人気者かな」
 千夏も話を合わせてしまう。
「じゃあよかった。いつも気にしてたのよ、俺って言いすぎるところあるから嫌われているんじゃないかって。でも主人は生徒が大好きなの。その主人は、倒れてからは言葉も出すことすら出来なくなってしまってー・・・」
  そこまで言うと、里美はは泣き崩れてしまった。拓斗と千夏は、かける言葉が見当たらない。
「ごめんなさい。泣いちゃって。さっきも主人に誓ったの、もう泣かないって。今日は本当にありがとうね。きっと聞こえてると思うから、枕元で主人に伝えておくね。かわいい教え子さんたちが来てくれたって。きっと喜ぶわ」
  里見が病室へ戻るとき、拓斗と千夏は、里見のお腹が膨らんでたのに気付いた。
「先生喜んでたなあ、40にして初めての子どもだって。誰も聞いてもいないのに授業中ずっとしゃべり続けていたっけ」
 石沢の満面の笑顔が思い出される。

 あのとき、どうしておめでとうって言えなかったのか

 帰り道の2人には会話はなかったが、同じことを考えていた。

 明日みんなに、真実を伝えよう

 ウザいと思う先生でも、きっとあなたも思ってるよ。教師とはそういうもの。
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