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第2章 幼年編
106 乙女レベッカ
しおりを挟む朝にデニーホッパー村の家を出る。
風の精霊シルフィの力を借りて2日かけて走り続けて。
まもなく夜になろうとするころ、ヴィヨルド領領都ヴィンランドの領都学園の男子寮に着いた。
横長。三階建石造の建物は、質実剛健な雰囲気を漂わせる学生寮だ。
◯ ヴィヨルド領
王国でも有数の武門の領主が治める地。
領内全体も尚武の気風が高い。武勇を誇る王国騎士団の騎士もここヴィヨルド領から数多く輩出している。
領内には中原屈指のダンジョンを擁し、その攻略を通して領民の武力向上に資している。
武を尊ぶ気質柄、ヒューマン、亜人の区別は少ない。強者となれば獣人といえど重用する。
前領主のヘンドリック・フオン・ヴィヨルドはその全盛期は我が父アレックス・ヴィンサンダーを凌ぐ中原でも1、2を争う武勇を誇っていたという。
ヴィヨルド領領都学園もまた、その武勇の気質から質実剛健を尊ぶ学風にあると聞いていたのだが・・・
くんかくんか。
何か花のいい香りがするなぁ。ひょっとしてここ女子寮併設だったりして。
「すいませーん、ごめんくださーい。今日からお世話になるヴィンサンダー領から来たアレクでーす。お願いしまーす」
「はーい、ちょっと待ってねぇー」
なぜかしわがれたおっさんの声が聞こえた。
はうっ!
なななな‥‥
直後、俺は見た。
人生初、衝撃的な乙女を。
ダミ声にマッチョ、上半身裸エプロンのおっさんがにゅーっと現れた。
いい香りってまさかまさかの裸エプロンからだよ‥。
自然に目線が2つのボッチにいってしまう哀れな俺‥。
デカっ!
背はモンデール神父様よりデカいかも。
身の丈2mの偉丈夫。
手足はまるで丸太のようだ。筋肉ダルマって言うやつ?
頬の蒼い髭剃り跡が生々しい‥。
それでも眉毛はきれいにカットされ、目元にはラメ入アイシャドウ。
なんだこれは‥
夢を見ているのか俺は‥。
「はーい、ようこそ男子寮へ」
ばちこーんとウィンクをするおっさんが出迎えてくれた。
刹那、俺は脳裡を駆け巡る危機回避能力から正解をひねくり出して挨拶をした。
「あ、は、はじめまして、お、お姉さん。ヴィンサンダー領から来ましたア、アレクと言います。今日からよ、よろしくお願いします‥」
90度の礼をする。
そしてそーっと窺うように前を見る。
「・・・・・・」
眼光鋭く、裸エプロンのマッチョなおっさんが俺を睨むように見つめる。
5秒だろうか、10秒だろうか。ひょっとして永遠に続くのかもと思われた沈黙を破って、「お姉さん」が応えてくれた。
「まっ、お姉さんだって!この子、素直ないい子ねっ!」
満面の笑みを見せる「おねえおっさん」だった。
(セーフ、セーフ!ナイス俺!)
すると、俺の後ろから走ってくる人の気配を感じる。
はーはーぜーぜー
「あーなんとか間に合ったわー。げっ!なんやこの変態!」
「なんじゃとー!こんガキー!」
瞬時に般若の形相の「おねえおっさん」が俺の後ろから現れた奴の頭を上から掴んで持ち上げた。
(ひぇー、人間UFOキャッチャーだよ!この人‥)
「もう1回言うてみさらせ、ガキー!」
UFOキャッチャーに挟まれた頭からミシミシと聞いてはいけない音がする。
「あうあう‥お、お姉さん‥今日から入寮するハ、ハイルです。よろしゅーお願いしましゅぅー‥」
「まっ、この子も素直ね。仕方ないわね。早速案内するわね」
UFOキャッチャーがゆっくりと降ろされた‥。
フリルが付いた上半身裸エプロン姿のマッチョな「おねえおっさん」が言う。
「アレク君にハイル君ね。ようこそ男子寮へ。ワタシが寮長のレベッカよ。男子寮は2人部屋ね。ちょうどあなた達2人同じお部屋。3階の1番奥よ。はい、これがカギ。無くしたら身体で払ってもらうわよ!」
「「ぜったい無くしませんっ!!」」
脳裏に浮かぶのは、ハリウッド映画の海兵隊の入隊シーン、鬼軍曹にシメられる新兵の図だ。
サー イエス サー
「食事は一階の食堂ね。朝と夜の2回ね。朝は6点鐘から8点鐘の間。授業は9点鐘だから遅れたらダメよ。夜は午後の5点鐘から7点鐘の間ね。食べないときは前の日までにお姉さんに言うこと。言わなかったらお姉さんプンスカ怒っちゃうんだから!」
「「ぜったい言います!!」」
「あとわからないことはいつでも聞いてね」
「「はい、わかりました!!」」
▼
そんなこんなで混乱いっぱいの中、入寮した俺。部屋は3階の16号室だ。
部屋は2段ベット、机が2卓。狭いが、まぁこんなもんだろう。
「わしハイル。よろしゅーな」
UFOキャッチャーに掴まれた彼が頭をさすりながら挨拶する。小柄でいかにもすばしっこそうな人間だ。
「俺はアレク。よろしく!」
「「はぁー‥」」
さっきまでの出来事が強烈過ぎて、なんだか疲れきっていた2人だった。
「とりあえず、メシでも食うかアレク?」
「ああ、そうしようハイル」
2人して食堂に行く。
食堂は50人ほどが食べられる大きさだ。
食事は自分で好きなものを取りに行くカフェテリア方式だ。
肉、魚、芋、サラダ、スープ、パン。
料理はもちろんレベッカ寮長の手作りのようだ。
「うまっ!」
「えー!うまいじゃん!」
そう、レベッカ寮長が作る料理はかなり美味しかった。その昔、まだ屋敷で食べていた料理よりもずっと。繊細な味付けは見た目に反する(見た目とおり?)のものだった。
ただ少し怖かったこともあった。
「あら?アレク君にハイル君、食べる量がすくないわよ。男の子だからもっと食べなきゃ」
ドーン!ドーン!
ちょっと油断していたら皿を大食いタレント並みに爆盛りにされてしまった。
「はーい、どーぞ!残したら怒るわよん」
「「絶対残しません!!」」
黙々と早く食べる。
食事中は喋らない。
食べたら即食堂から離脱する。
男子寮暗黙のルールにすぐに適応する俺たちだった。
食後は食堂横の談話室へ。
先輩や同級生が20人ほどいた。
目線で感じるシンパシー。
誰もが男らしい姿に、
一安心した俺たちだった。
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