アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

218 ゲージ

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【  ゲージside  】

ギギギギギーーーー

「この箱ん中はオイには狭かったぞギャハハ」

棺を開けて外を見渡すゲージ。
その先には自分と同じように棺から出てくる
ゲージがいた。

「!」

獣人ならではの勘の良さか。
即座に戦闘モードに入るゲージ。

ジリジリとにじり寄る2人。まるでシンメトリー、合わせ鏡のような動き。

 「よぉ」

 「よぉ」

 「闘るかい?」

 「ああ闘ろうか」

挨拶代わりに。

ブンッ!

最初は尻尾の一撃を見舞う。
尻尾は鰐獣人ならではの攻撃武器だ。
正面立ちの後方から、強く振り回させるのはゴツゴツした突起のある硬い尻尾。

ゲージの尻尾と闘うのが、並の鉄級冒険者のナマクラ刀だとする。
尻尾を斬るどころか逆に刀身の半ばから刀はポッキリと折れるだろう。
生身の人間ではたちどころに吹っ飛ぶ代物と化す凶器が尻尾だ。
 
 ブンッ!
 ブンッ!

向かい合っての尻尾の一撃は、双方のゲージの腰から肩を直撃する。

 ガッツン!
 ガッツン!

 「痛ぇなぁオメーの尻尾」

 「お前の尻尾もな」

瞬時に赤く腫れあがった肌は、酷い擦過傷となる。

 ブンッ!ブンッ!
 ブンッ!ブンッ!

 ガッツン!ガッツン!
 ガッツン!ガッツン!

 「引かねぇわな」

 「お前もな」

2人のゲージはさらに接近した。向かい合う2人の距離は尻尾の連撃が最も効果的となる距離に達した。

 ブンッ!ブンッ!
 ガッツン!ガッツン!
 ブンッ!ブンッ!
 ガッツン!ガッツン!

双方の身体を強撃していく鎧のような尻尾。

 「オイは引かねぇぞ!」

 「オイもな!」

 ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!…

 ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…

 ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!…

 ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…

先に避けたほうが負けとばかりに、超至近距離で尻尾を撃ち合う2人のゲージ。

 じゅわ じゅわ じゅわ…
 
 「痛ぇ…」

赤く腫れあがった肌からは赤い鮮血がじわじわと滲み出る。

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

滲み出る鮮血は、相手の尻尾に巻きついては、遠心力に応じて飛び散る。
それはまるでタオルに浸した水を振り回したときのように。飛び散る水滴のように周囲の床を赤く染めていく。
尻尾の動きに合わせて拡散していく赤い液体…。

パッパッパッパッパッパッパッパッ…

飛び散る血飛沫。

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ


やがて双方の足元の床は赤く滲んだ水溜まりのようになってきた。

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

 「ハーハー。オメーもガマン強いなギャハハ」

 「ゲージ、お前もなギャハハ」

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

 「それでもオイは負けんぞ!」

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ


痛さの我慢比べか、出血による体力勝負か。

殊にゲージから引くことはない。


学園きっての武闘派筆頭と思われているのがゲージ。脳筋の自覚はある。

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

 「どちらが最後まで立っているか勝負だギャハハ」

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ

ジューーッ  パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ ジューーッ パッ



既に痛みは感じなくなってきた。
それどころか、だんだんと眠くなってきた。

ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…

肩や腰にかかる衝撃もリズミカルにさえ感じる心地よさにも思える…。


 「あ~夜も遅いし、そろそろオイも寝るかな…」


ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…


 「誰だ?床にいっぱい飲みもんをこぼしたのは?そそっかしいオニールかリズか…」


ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…


 「オイの尻尾も…濡れてしまったぞ…」


ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…


本格的に眠くなってきた。
 「オニール…うるさいぞ…もう先に寝かせてくれよリズ…リズ……」


ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…



 「ゲージ ゲージゲージ‥」


ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!ガッツン!…


もう少し眠るかな…






 「ゲージ ゲージゲージ‥」







 「ゲージ!ゲージ!」



 「!」


 「すまねぇな。オイはやっぱり負けるわけにはいかねぇんだギャハハハ」


途切れかけた意識を呼び戻したゲージが、再び渾身の力で尻尾を振り抜いた。


 ガッツン!
 ガッツン!
 ガッツン!
 

いつしか相手からの攻撃は止んでいた。



 「ゲージ、お前の勝ちだ。よく持ち直したな」

 「ん?途中で意識がなくなったから、オイが負けたと思ったぞギャハハ」

 「この先も諦めるなよゲージ」

 「ああ。ありがとうな。オイも最後まで諦めない気持ちを持ち続けるぞギャハハ」

 「ああ、それがいい。最後にお前の渾身の一撃で先に行け」

 「そうか、ありがとうな。ギャハハ」


ブンッ!ブンッ!

持てる力のすべてを込めて。
ゲージは尻尾を振った。





目の前のゲージを倒したあと。
前方の光り輝く道の先へとふらふらと進むゲージ。

 「リズに回復魔法をかけてもらわないとな…」

眩しい。
まるで漆黒の闇が一気に明けたみたいだ。

 「眩しいぞ…」

目を閉じたゲージはそのまま意識が遠のくのだった。







 「ん?」

 目が覚めたゲージが起き上がって外に出る。

そこはつい先程、スライムを抱えて中に入った棺の中だった。

 「やあゲージ、無事に終わったみたいだね」

 「ああ、ビリー。オイは何も覚えてないけどなギャハハ」

 「僕もそうだよ。僕とそっくりさんと闘ったはずなんだけどね、ははは、何も覚えてないや」

そうこうするうちに、ギーーっと他の棺も開き出した。

 ブーリ隊の5人、全員の帰還である。

 「タイガーどうだった?」

 「ああ。俺は今年も何も覚えてないんだよ。だが、なぜかスッキリしてるんだよな」

 「あータイガーもか。オイも血を流しすぎた気がするんだけどな。なんともないぞギャハハ」

 「ゲージもかよ。俺もなんかスッキリしてるんだよなー。でも俺、たしか顔か首あたりを切られたような気がするんだけどなぁ」

しきりに首筋をさわるオニールだ。

 「リズは?」

 「私もなの。覚えてないけど気分はいいの」


チームの5人が揃ってしばらくして。


ゴゴゴゴゴゴォォォーーーー

セーフティエリア(休憩室)の扉が現れた。

 「じゃあ休憩室に行くの」

 「「「ああ」」」
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