アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

382 鎮台ジャビー

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 【  ゼニコスキーside  】

 「ジャビー伯爵様どうかミーをお助けください!何卒ご助力をお願いするざます!」

 ゼニコスキーが土下座をせんばかりに床に頭を垂れて請い願う。 そして靴を舐めんばかりにその靴を頬ずりして。

 「よいよいゼニコスキー。わかっておるわ」
 「さすがは鎮台様。いや次代ご領主様」
 「ふん」

 横柄に応えるのはジャビー伯爵。ジャビーはアザリア領領都アネッポの経済から守護のすべてを掌握している男である。別に鎮台様と呼ばれている。

 身の丈180セルテ。
 全身に纏うのは煌びやかな宝飾品の類い。その宝飾品よりも見る者誰もが注視せざるを得ないほどの体型。
 体重300K。それは見事なまでの超肥満体型。船に載せた水樽もかくやというものだ。
 両の眼は厚い脂肪に覆われて感情さえもわからない。
 そしてその風貌はかえってこの男に有利に働いた。丁々発止の政争の世界において他者より感情表現をわからなくさせているのは利点が大きかった。
 出身地経歴ともに不明。
 それは隣領に於いて権力の中枢に食い込んだ男とほぼ同時期のことであった。

 そして現在。
 この世界において飽食が許されたジャビーの体型が権力の顕れとなった。
 世に伝わる2つ名は「アネッポの水樽」。
 その水樽はジャビー伯爵の栄華を証しであった。


 「仕方ない。我が息子ジャビーJr.を連れていけ。
 武技に優れているとはいえ彼奴にも戦場の雰囲気を教えねばならんからの。
 この貸しは大きいぞゼニコスキー」  
   「おお。ジュニア様をお遣わし下さるざますか。なんと畏れ多いことざます」
 「ジュニアには供回りに騎士団員も幾人か付ける故、冒険者なぞきっちり始末をしてこい。

 おおそうじゃった。サンデーは見目麗しいと聞くが相違ないか?」
 「小柄ではありますがその美貌は確かかと思うざます」
 「よし。ならば連れてこい。余の種を授けてミカサ商会もろとも喰ろうてやるわ」
 「ははあ。鎮台様必ずやサンデーを鎮台様の下へ」
 「ゼニコスキー。必ず明日中に始末をつけろ。明日はヴィヨルドから竜が来るからな」
 「仰せのとおりにするざます」



ーーーーーーーーーーーーー



 「(おい賊はおろか魔獣も来ねえぞ)」
 「(商会長さんも執事の爺さんも静かだし、あの新入も静かだよな)」
 「(いいじゃねぇか。正直このまま何もなけりゃあいいんだよ)」
 「「「だな」」」


 テンプル先生が言ってたとおりになった。野営を含めて2日間とも何事もなく過ぎたんだ。

 最初の日のお昼ごろは俺が持ってきたおにぎりを馬車の中で食べたんだ。野営にはお米をスープに入れて雑炊風で。ベースには顆粒コンソメを入れたからリゾット風かな。

 「おいしいわねお米って」
 「でしょー」
 「てか話には聞いてたけどアレク君の食事はめちゃくちゃ美味しいわ」
 「あはは。本当はもっとちゃんとしたもの作りたいんだけどね」
 「充分よ。お昼のおにぎり?で今のりぞっと?お米はまるで違う形になるのね」
 「うん。粉に挽けばパンにも麺という調理にもなるんだよ」
 「へぇー」
 「先生はお米を知ってましたか?」
 「ワシも初めて食べるの。アレク君と同じでワシもたしか古い文献で読んだような記憶はあるがの」
 「先生もそうなんですね(やっぱ昔は米があったんだな)」
 「いいわアレク君。来年の春までにアレク君が好きにできる畠をどこかに用意しておくわね」
 「うん。よろしくね」









 馬車でも余裕で越えられる低山を越えてアザリア領に入った。
 眼下には広々とした平野が広がっているのが見える。さらに先には西海も見える。
 街っぽく見えるのが領都アネッポだろうな。



 「さていよいよじゃの」
 「「はい」」
 「アレク君ならどう攻める?」
 「はい先生。
 まずはこの平野の真ん中あたりまで俺たちを引き寄せます。それから退路を断つ意味からも囲みますね」
 「そうじゃの。ワシもそうするな。そして主攻は騎馬じゃろうな。数を頼り。おそらく正攻法で来るじゃろうな」
 「はい」
 「でアレク君のやることはなんじゃい?」
 「はい。賊の中にいる権力者を探してそいつの手腕を射るんですよね」
 「ハハハハ。そのとおりじゃ」


 ワハハハハ
 あはははは


 「なんかアレク君テンプル先生の弟子になったみたいよねー」
 「あはは。そうなれたらうれしいです」
 「そうかい。
 じゃあアレク君ヴィヨルドの学園を卒業したらワシと一緒に中原中を旅するか」
 「はい先生。
 ぜひぜひお願いします!」

 なんかね、本当にテンプル先生と中原中を旅してみたいって思ったんだ。
 テンプル先生は今までに会ったことのない‥‥そうだなぁ、やっぱりビリー先輩の師匠だけあるからかな‥‥とっても広い心の持ち主なんだって思ったんだ。一緒に旅をしたのはたった3日間だけだったんだけどね。

 ゴロゴロゴロゴロ‥

領都アネッポまでは馬車で飛ばせば1点鐘もあれば着くだろう距離で。

















 「先生やっぱりいましたね」
 「ホッホッホ。アレク君の言うとおりになったの。しかもたーくさんおいでなすったわい」
 「ホントねー。先生とアレク君の言うとおりになったわ。アレク君がどう料理するのか楽しみねー」

 フフフフ
 わははは
 あははは


 予想が当たったと気楽に話し合うアレクたち3人の前で。
 鉤爪の3人は身体中から流れ落ちる嫌な汗を実感していた。

 「(おいおい‥‥)」
 「(あと少しだっていうのに‥‥)」
 「(なんだよあの数は!)」
 「(俺たち‥‥死んだな)」
 「「「ああ‥‥」」」
















 前面で待ち構えるのは凡そ20騎。
 いつのまに回ったのか後方にも10騎。
 左右にもそれぞれ10騎。
 あわせて50騎の賊が待ち構えていた。

 えーでもこいつら賊なのか?正面の奴らなんか佇まいがきちっとしてるぞ。歩行の賊は4、50人だな。
‥‥あー昨日いた奴らもいるな。こいつらはガッツリ賊だな。
合計100人からなる賊軍団だ。

 賊軍団?うーんイマイチだな。悪者騎馬集団?悪人と50騎の馬?ス◯夫と100人の盗賊?うーん……。

 「アレク!もう!センスないんだから無駄なこと考えないでよね!」
 「えっ?!」
 「わかった?」
 「はい。さーせんシルフィさん……」



 「テンプル先生、サンデーさん。領都の目と鼻の先の近くでこんだけの賊を動かせるってことはそういうことだよね?」
 「そうね。間違いないわ」
 「ワハハハハ。これはまた大物が釣れたのアレク君」

 フフフフフ
 ワハハハハ
 あはははは


 「(おい‥‥商会長も執事の爺さんもハイルもみんな笑いだしたぞ?)」
 「(そりゃあんだけいるんだ。100人だぞ!俺たちだって‥‥諦めるわ)」
 「「(‥‥だな)」」

 サンデーを守る商隊の前に現れた騎馬の賊の一団。それはあれよあれよと言う間に退路を断つようにぐるり円となって包囲する形に。
 そしてその円はすぐに狭め始めた。

 「ど、どうするリーダー?」
 「ど、どうするって?」
 「に、逃げるか?」
 「バカ!この数だ。逃げられるわけねぇだろ」
 「「「‥‥」」」













 「俺なぁ‥‥アレクに手も足も出ずにやられてから‥‥
 毎日がけっこう楽しかったんだよ。お前らと馬鹿やるにしてもなんか充実してたんだよな」
 「「ジェイブ‥」」
 「正直アレクに負けたのは悔しかったけど‥‥
 負けてよかったって思ってるよ。



 だからな弟分が俺たちの背中に傷があったって聞いてがっかりさせるわけにはいかねぇだろ?」
 「「ああ!そうだな」」
 「受けた依頼を果たさずに逃げるなんて死んでもできるかよ!まあ死ぬがな」
 「最後に華々しく戦うか」
 「「だな」」


 「サンデーさん。
 サンデーさんと執事の爺さんはこのままこっちの馬車の中に乗っててくれ。
 ハンスお前は後ろの馬車に乗れ。今から来た道を後退して逃げる。サンデーさんと執事の爺さんは合図で左へ。ハンスは右へ行け。
 向かってくる騎馬は俺たちが引き受ける。全力で逃げてくれ。


 ハンス、俺たちがお前を守るって嘘ついてごめんな。


 それとサンデーさん、執事殿‥‥依頼を果たせずに悪かった」 

 「「悪かった」」

















 「よい若者じゃのお『ハンス』君」
 「はい先生」
 「フフフ」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥



 逃げる隙間を阻むようにさらに接近してくる騎馬の賊。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥


 「おい爺さん早く!」
 「何やってんだよハンス!」
 「「ハンス!」」





 「「「早く、早く逃げてくれ!」」」





















 「じゃあ先生いきますよ!」
 「任せたよアレク君」
















 「土遁  2重堀の術!」



 ―――――――――――――――




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