アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

465 入浴・溶解

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 「さてメシも食ったことだしクロエ風呂行くぞ」

 「あんた何言ってるの?」

 「オ前ウチニハ風呂ナンテナイゾ」

 「アレクあんた‥‥」



 「風呂は作った。
 ああ家の改造は許可もらってるからな。
 お前らの父ちゃんからは何やってもいい、どんだけ屋敷を壊してもいいってな。お前らもぶん殴ろうが殺さない限り何してもいいってな」

 「「えっ(エッ)!?」」


 しめしめ。こいつらあらためて俺が恐怖の大王だと思い知ったぞ。

 「違うわよアレク。変態大魔王だって思ったのよ。ハンバーグ好きだし」

 腰をフリフリしながらシルフィが言った……。

 「ほら早くあくびしなさいよ!」

 「‥‥」






 「(またさね。変態アレクが1人で話し始めたさね)」

 「(お兄ちゃんあいつなんなのよ?)」

 「(俺ガ知ルカヨ)」



 ((妹(お兄ちゃん)と話したって何年ぶりだろう?))




 「ほらお前らも今日から風呂に入れよ。まずは説明してやる」

 そこには本来あった部屋はなくなってからびっくりしただろうな。

 「ここが脱衣所だ。まずはここで服を脱ぐ」

 「洗ってほしい服はこのランドリーバックに入れとけよ。それとアリサ。下着は入れるな。下着は自分で洗え」

 「当たり前よ!」

 「服を脱いだらこっちが風呂だ」

 「「「‥‥」」」

 風呂は畳2畳分ほどちょっぴり大きめな浴槽にしたんだ。
 いずれデーツもアリサもクロエも友だちとお泊まり会をするだろうからね。

 「あんたこれって?」

 「ん?俺が掘った」

 「あんた土魔法‥‥」

 「あのな俺が魔法の何を使えるのかは人には言うなよ。じゃないとお前らに迷惑がかかるからな」

 「「?」」


 「風呂は源泉かけ流し。いつ入っていいたらな」

 排水は下水完備の帝国だから便利だよね。
 しかも下水道に行くまでに石で作った下水管をわざと屋敷内を迂回させるように浅めの地中に通したんだ。
 こうしておけば食堂を含む1階部分は温泉熱の床暖房だからね。
 門扉まで積雪しても大丈夫だろうし。



 「冬はデーツもアリサも1階の部屋にきたほうがいいぞ。温泉熱で暖かくなってるからな」

 「常識ハズレダ‥‥」

 「あんた‥‥土魔法でそんなことまで‥‥」

 「あはははは。傑作さねアレク。あたしゃ神話の世界に来てるのかね」








 「バブ婆ちゃんも覚えろよな。
 これが湯船だ。
 湯はどんどん湧き出てくるけどもし足りなかったらこの赤い蛇口をひねればお湯が出てくるぞ。
 熱いようなら青い蛇口をひねればお水がでるからな。

 それとこっちがシャワーだ。こっちも蛇口の色でお湯、水が変わる。

 身体はこの石鹸を泡立てて使え。
 洗髪はしばらくこの石鹸で我慢してくれ。
 そのうちシャンプーとリンスも作るからな。
 ああでもこの石鹸は米糠だからそれなりに髪もツヤツヤになるぞ」

 「あたしゃ風呂なんて初めてだよ」

 「バブーシュカ私だってほとんどないわよ」

 「俺モダ」

 「それから1つ2つ約束。家族ルールだ。
 風呂は湯船に入る前は必ず身体を洗え。いきなり湯船に入ったら絶対ダメだぞ。
 あと湯船にタオルを入れてもダメだ。みんなが使うものだから綺麗に使えよ」

 「「「‥‥」」」

 「もし決まりを破ったらどうなるか。
 ほらデーツ、アリサ。バブ婆ちゃんもだよ。
 3人はここに立て。
 クロエにはお兄ちゃんは痛いことしまちぇんからねー。
 風呂のルールを守らないとこうだ。
 ほんの少しだけ雷を流したよ。足下が水だから伝導率が高いからね。

 ビリビリビリビリ‥‥

 「「キャーーッッ!」」
 「アアァァァァ!」

 「約束を破ったらこんなもんで済まさないからな」

 「あ、あ、あんたそれ何の魔法よ!?」

 「これか?雷魔法だ」

 「「「‥‥」」」








 「それと着替えはこの棚だ。それぞれ名前が書いてあるだろ。そこがお前ら1人1人の場所だからな」

 「アレクあんた‥‥これなんて書いてあるのさ?」

 「バブ婆ちゃん見たらわかるだろ。
 これはデーツ、これはアリサ、これはクロエ、これは俺、これはバブ婆ちゃんだ」

 「あんた!なんて書いあるのかわかんないさね!」

 「なんでだよ!俺の字が読めないのかよ!」

 「あんた‥‥これゴブリンが書いたのかい?」

 「プッ」

 一瞬アリサが笑った気がしたんだ。

 「ゴブリンは字書けねえよ!失礼なバブ婆ちゃんだな!」

 「(読めるかいデーツ様)」

 「(読メナイ)」

 「(アリサ様は?)」

 「(読めるわけないわよ!)」

 「「「(ゴブリンだ‥‥)」」」



 「さてクロエお兄ちゃんと風呂に入るぞ」

 「あんたクロエが泣くわよ!やめなさい」

 「ヤメロ」

 「大暴れするさね」

 「うるさい!クロエが泣き叫ぶのも想定内だ」

 「そんな!かわいそうよ」

 「カワイソウダ」

 「クロエは泣き叫ぶさね」


 「ばか!かわいそうなのはお前らだ」













 「「?」」

 「いいかお前らは絵を描いたり、人に怒りをぶつけたりする逃げ道がある。
 だけどクロエはどうだ?
 小さなクロエに逃げ道なんかないんだよ!

 じゃあどうしたらいいかわかるか?アリサどうだ?」
 
 「ゆっくり時間が経てば治るわよ!」

 「これまで5年辛い思いをしたんだぞ?さらに辛い思いをしてもまだ我慢か?」

 「そ、それは‥‥」

 「デーツお前はどうだ?」

 「バブ婆ちゃんは?」

 「「「‥‥」」」












 「いいか。クロエが笑顔を取り戻すのに必要なのは愛情だけなんだよ。
 それは家族の愛情だけなんだよ!テメーらの保身や逃げ道なんかどうでもいいんだよ!
 何があってもクロエを守り抜くっていう愛情だけあればいいんだよ」

 「「「‥‥」」」

 「だから俺はクロエと風呂にも入る。この先何があってもクロエを守り抜く。
 クロエが笑うまではこの生命にかけてもな。
 お前らも一緒だ。何があっても俺が守る」















 「じゃあ俺たちが記念すべき1番風呂だ。
 クロエがどんだけ泣き叫んでも気にするな。
 あとはお前ら順番に入れよ。気持ちいいぞ。
 ああ1日中お湯はでるからな。休養日の昼間か風呂に入ると気持ちいいぞ」

 「「「‥‥」」」

 「ん?なんだ?アリサも一緒に入るか?」

 「だれがあんたなんかと!」







 人形のように無表情だったクロエの服を脱がせる。
 イヤイヤしだしたクロエはフランス人形からまるで電池が入ったオモチャのように暴れ出したんだ。

 「クロエちゃん服着たままお風呂は入れまちぇんよー」

 「はいよくできまちたねー」

 「まずはシャワーを浴びましょうねー」

 まずはシャワー浴びさせたんだ。

 「ウーーウーーウーーウーー!」

 歯を食いしばったクロエがら暴れること暴れること!
 手足をばたつかせたり爪で俺を引っ掻いたり。ついには全力で俺の腕まで噛んできた。

 ガブッッ!

 「痛っっ!」

 我慢だ。クロエの心の痛みに比べればこんな痛みなんかたかがしれてる。

 俺は腕を噛まれたままクロエをじっと抱きしめたんだ。

 「クロエ大丈夫だ。お兄ちゃんがついてる。クロエ大丈夫だ‥‥」


















 ずっと俺の腕を噛んでたクロエが噛むのを諦めた。

 「さあクロエ身体を洗おうな」

 流れる湯がみるみるうちに濁っていく。
 ああこりゃ風呂も湯を張り替えなきゃな。

 「クロエ頭も洗うぞ。目が沁みるからな目を閉じとけよ」

 米糠石鹸を手で泡立ててから頭を洗う。頭皮の皮脂でカチカチになった頭はなかなか泡立たず解れもしなかった。
 それでも2度3度と米糠石鹸の泡を通していくうちになんとか綺麗な栗色の髪が戻ってきた。

 「よーしよく我慢したなクロエ。風呂に入るぞ」


 たぷんっっ

 じっと目を閉じて我慢しているクロエの手を握って話しかける。

 「気持ちいいかクロエ。風呂はな歌歌ったっていいんだぞ。
 今度クロエの歌を聴かせてくれよ」

 「アレクあんたは絶対歌っちゃダメだからね!この子ますます怖くて泣いちゃうから」

 「なんだよそれ!」



 あれ?
 クロエが目でシルフィを追っていたんだ。

 「クロエ!シルフィが見えるのか!」

 コクコク

 「マジか?やった!やった!凄いぞクロエは!」

 「時間が止まってたからでしょうね。この子が私を見えるなんて」

 「それってシルフィ?」

 「ええ。きっと誰か精霊が憑くわ」

 「ううっ‥‥よかったなクロエ。お前に1番の親友ができるぞ!お兄ちゃんと一緒だよ!」

 嬉しくって涙が出たよ。



 なんとか風呂も終わりクロエに下着と服を着させる。そしてクロエをおぶって部屋に戻った。

 部屋は綺麗に掃除したんだよ。
 ベットのシーツも新しく買ってきたんだ。

 ハンド(手)ドライヤーでクロエの栗色の髪を乾かす。

 「お兄ちゃん明日はクロエ専用の櫛も勝ってくるからな」

 じっと目を閉じているクロエ。気持ちいいのかな。そうだといいな。

 「さあクロエ今日はよく頑張ったな。
 お兄ちゃんと寝るぞ。おやすみクロエ」

 再び人形となったクロエ。
















 「うっうっうっ  うわあああぁぁぁぁぁん!」

 クロエは夜中に大きな叫び声を上げて泣き始めたんだ。

 「大丈夫だクロエ。お兄ちゃんがついている。大丈夫だよ‥‥」

 たぶんクロエは今辛い過去と闘ってるんだ。

 「うわあああぁぁぁぁぁん!」

 「大丈夫。大丈夫だ。クロエにはお兄ちゃんがついてる。大丈夫だ‥‥」

 スーッッ  スーッッ  スーッッ‥‥

 やがて静かにクロエが寝息を立て始めたんだ。
 でも。
 1点鐘もしたら再び大声で泣き叫びはじめたんだ。

 「うっうっうっ  うわあああぁぁぁぁぁん!」

 「あんたクロエは大丈夫なの?」

心配したアリサが部屋の外に来た。

 「ああ大丈夫だ。心配してくれてありがとうなアリサ」

「うわあああぁぁぁぁぁん!」

 「大丈夫大丈夫。クロエは大丈夫だ。お兄ちゃんがついてるからな大丈夫‥‥」

 泣き叫んでは暴れて寝て。また目が覚めて泣き叫ぶ。

 これが朝まで何度も続いたんだ。

















 翌朝

 「アリサおはよう」

 「おはよ」

 「昨日ちゃんと風呂に入ったか」

 「入ったわよ」

 「どおりできれいな肌になったな」

 「!」

 アリサが紅くなった気がするけど気のせいだよな。


 「デーツおはよう」

 「オハヨ」

 「デーツも風呂入ったな?」

 コクコク

 「バブ婆ちゃんおはよう」

 「おはよ」

 「婆ちゃんも風呂入ったな?」

 「ああ気持ちよかったよ。あたしゃ風呂に入ったのは初めてだったんだよ」

 「そうかい。そりゃよかったよ。毎日入ってたらもっと肌もツヤツヤになるぞ」

 「あんたあたしの風呂覗くんじゃないよ!」

 「誰が覗くかよ!」

 ヒッヒッヒッ
 ワハハハハハ
 くすっ

 ああアリサも少し笑ってくれたな。









 「いただきます」

 「「「いただきます(イタダキマス)」」」


 今朝の第1回朝ごはん。

 焼きたての白パンとベーコンエッグ。
 粉芋(マッシュポテト)とカットリンゴー。カウカウのミルク。

クロエには温めたカウカウのミルクにメイプルシロップを垂らしてパンを浸したパン粥にした。

 「クロエちゃんあーん」

 クロエの口にパン粥を近づける。

 ぱくっ
 モグモグモグ‥‥

 「えらいえらいクロエはえらいぞ!今日もたくさん食べようなクロエ」


 デーツもアリサも朝ごはんを残さず食べたよ。

 「じゃあバブ婆ちゃん俺学校行くからクロエを頼むよ」

 「あいよ。任せときな」


 「デーツお前もそろそろ学校行けよ。今日帰りに絵の具買ってくるからな」

 コクコク

 「アリサ一緒に行くか?」

 「嫌よ!」

 「なんだよアリサ!お兄ちゃんと学校行くのが恥ずかしいのかよ」

 「当たり前じゃない!何で変態のあんたなんかと行かなきゃいけないのよ!」

 「クッ」

 もう変態確定かよ!鼻血も出してねぇのに!

 「お前の服アイロンしといたからな。他もあれば出しとけよ。ああ下着は絶対出すなよ!」

 「あっちいけ変態!」


 アリサの服は手を広げて温風の手製アイロンをかけたからパリッとした折り目の見た目も綺麗なゴスロリ服だよ。
 やっぱこいつ綺麗だよな。自慢の妹だよ。

 「誰があんたの妹なのよ!この変態!」

 「なんだとー!お兄ちゃんが妹を可愛がってなんで変態なんだよ!」

 「あんたの存在自体が変態なのよ!」

 「そんな‥‥お兄ちゃん傷つくぞ‥‥」

 「死ね!」

 ぐはっっ!キ、キつっ!
 だが‥‥それがいい。

 「アレクキショ!」


 「(また独言始めたよヒッヒッヒ)」


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