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第2章 幼年編
490 ノートとランドセル
しおりを挟む「お兄ちゃんのプレゼントは何なの?」
オークを狩った帰り。リアカーに乗ってご機嫌なアリサがこう尋ねたんだ。
「俺?俺はなランドセルだよ」
「らんどせる?」
「ああランドセルだ。ランドセルは背中で背負う鞄なんだよ。もう1、2年もすると帝国でも紙やノートがもっと普及するからな。
羊皮紙じゃない紙でできた教科書も1人何冊も配られるようになるぞ。
クロエが教会学校から持って帰る勉強道具も増えるんだよ。だからそれを入れる鞄も要るだろ。それでランドセルなんだよ」
「へぇーそれアリサも欲しい」
「わかったよ。じゃあアリサにも作るからちょっと待っててな」
「うん!」
クロエへの誕生日プレゼントはランドセル。
カウカウの皮革で作ったんだ。昔俺が爺ちゃんからもらったランドセルの記憶をそのままに再生したもの。
土魔法で皮革を圧縮したり伸ばしたりしながら型を作っていって作ったんだよね。
ミルクを出さなくなったカウカウ。これまではその肉を食べたあとの皮革は刀や防具の一部に使われることはあっても大きく消費されることはなかったんだ。
だからその一部を除いて皮革を廃棄しているのは王国も帝国も同じなんだ。
だけどこのランドセルの有用性が広まるとすぐに普及するだろうからね。
これまで捨ててた皮革も無駄なく有効活用できるんだよ。
もちろんゴム底の革靴の需要も今後は増えてくだろうし。
両手が自由になるランドセル(背嚢)は軍関係者や冒険者は必ず興味を示すだろうな。
俺がクロエ用に作ったランドセル。もちろん赤く染色したかわいいやつだよ。
それとは別にもう1つ試作品を作ったんだ。黒いランドセル。
なんで試作品を作ったかっていうと、クロエ用に作ってるときからハチが興味津々で
ね。
「団長、そのらんどせる僕も欲しいっす。父ちゃんに売って僕の小遣いにするっす」
「ハチ‥‥お前正直だな。よし1個作ってやるけど俺にもなんか奢れよ」
「仕方ないっす。団長にも少し分け前をあげるっす」
「なんでお前が上から目線なんだよ!オラオラオラ」
「痛い痛い!団長やめて!」
ハチの頭をぐりぐりしてやった。
結局黒いランドセルはハチ経由で父ちゃんのカクサーンが商談を進めるだろうなって思ってたんだ。
俺はまぁハチのもらった小遣いから少し奢ってもらえればいいかなって思ってたけど、話がどんどん大きくなっていったみたい……。
「団長。父ちゃんが今日の帰りに店に寄ってくれって言ってるっす。らんどせるのことで軍の調達課の偉いさんのところに行くそうっすよ」
「えーめんどくさいよ俺。ハチの父ちゃん1人で行けばいいじゃんか」
「たぶん団長はそう言うと思ったっす。いつまで経っても来てくれないってへそ曲げてる商業ギルド長も一緒についてくるそうっすよ」
「余計嫌だよ。俺この1年は商売的なことはお前の父ちゃんに任せる気でいたからさ。ハチ、父ちゃんにうまいこと言っといてくれよ」
「別にいいっすけど‥‥商業ギルドの受付嬢も来るっすよ。団長の好きなボッキュボンの猫耳女子っすよ、ケモミミっすよ?」
「いくいく!絶対行く!ハチついて来い!」
「がってんだ団長!」
(団長は獣人女子が好きだからなぁ)
ランドセルは軍関係者から大好評だった。なんとすぐに正式採用が決まった。帝国全土の軍人1人1人に配布するんだって。そのためのアレク工房を作る土地も建屋も軍から融通するんだって。
(たぶん前皇帝のおっさんかペイズリーさんの入知恵だろうな)
そんなわけで、商業ギルド長もハチの父ちゃんのカクサーンも目がGになって大喜びだった。
そうそうハチの父ちゃんカクサーンはハチがそんまんま1.8メルくらいになった感じなんだ。信楽焼きの狸の置物がそのまんま人族になったみたいなんだよね。
併せてしかも‥‥帝都の商業ギルド長は1.7メルくらいの狸の置き物だった。
兄弟狸かよ!
「(ハチ、父ちゃんとギルド長って兄弟か?それともお前の父ちゃんは商業ギルド長かよ?)」
「(‥‥ちょっと心配になってきたっす‥‥)」
「帝都に鞄専門のアレク工房に、紙専用のアレク工房もできるっすよ」
俺が帝国に優先的に輸入してもらってる紙。裁断してノート化する技術も製本化する技術も伝えたから今後は紙だけ王国のヴィヨルド領から輸入して製品化は帝国でするんだって。
だったら紙の製造も帝国でやればいいのにね。
でもハチの父ちゃん曰く、いろんな大人の事情があるんだって。
なんにせよ、帝国にもアレク工房ができた。俺やっぱ何にもしてないけど……。いいのかな。
▼
「ノーツ学園長お呼びですか?」
「ああアレク君。ペイズリーから聞いたけど紙を印刷することから製本化するまでの大まかな道すじが決まったそうだね?」
「そうらしいですね。正直俺あんまり知らなくて‥‥すんません。あはははは」
「まったく君って子は‥‥」
あー学園長にまであの顔で笑われたよ。トホホ。
「まあいずれにせよ
大量に製版できる教科書もこの1、2年のうちに帝国中の子どもたちにまで届くだろうからね。子どもたちの教育はぐんと捗るよ。ありがとう」
「いや俺に感謝されてもあはは‥‥」
「アレク君‥‥」
ランドセルは俺の予想どおり、帝都の騎士団から配布が決まったみたい。戦争に加担することになる武器は反対だけどランドセルみたいなものはいいかなって俺的には思ってるよ。今後はその境界線をもっと考えなきゃいけないんだろうな。
来年帰ったら親戚のおじちゃん(ヴィヨルド学園長サミュエル)に相談しなきゃな。
元々の日本のランドセルも江戸時代の終わりにオランダ軍の背嚢にヒントを得たとかいうもんね。皮革ならで丈夫さと耐水性の高さは従来の布製のものとは比べるまでもないからな。
先に先生方と学園生に配ったノートは、その後すぐに先生方から追加注文がどんどん入ってきた。予定どおりだね。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
アリサのネックレスも、デーツの絵も、バブ婆ちゃんのニット帽も、俺のランドセルも準備万端!
いよいよ誕生日の準備が整った。
「ペイズリーさん。皇帝のおっさんに今度の休養日前の夜。必ず帰ってきてって伝えといてください。クロエの誕生日に家族全員揃うのが当たり前だからって」
「もちろんだよ。というか大殿はクロエちゃんのプレゼントをどうしようか毎日頭を悩ませているよ」
「あはははは」
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