遥かな宇宙 久遠の絆

藤原ゆう

文字の大きさ
2 / 10
1.瑠璃の章

1.帝国と反帝国同盟

しおりを挟む
 その街は海のすぐ側にあった。
 波の穏やかな透明度の高い海で、珊瑚礁があり色とりどりの魚たちが泳ぐ。
 湾を入った港には、たくさんの漁船が停泊しており、その近くにはセリが行われたり屋台が建ち並ぶ広場があって、たくさんの人で賑わっていた。
 しかし、そんな広場の賑わいに水をさすかのように、空にはどんよりと雨雲が立ち込めている。
 今にも雨が落ちてきそうな気配に、人々は早々に用を済ませ、家路へと向かっていた。
 大きくはない街だった。
 素焼きレンガの平屋がほとんどを占める。
 しかし、きちんと計画を立てて造られた街のようで、石畳の道路は整然と走り、最後には中心にすべてが集まるのだ。

 その中心に位置している建物は、割としつらえの良い、白亜の屋敷だった。
 門扉の両脇にはその外観に似つかわしくない、重装備の警備が立ち、装甲車が停められている。
 そして屋内の一室では、やはり優雅な建物には似合わない、剣呑な空気が漂っていた。

「奇襲が功を奏し、我が軍がまずは先手を打ったという所でしょうか」
 そう言いながらも表情ひとつ崩さないのは、隻眼の男。 
 黒皮の眼帯で覆った左目から頬にかけて、肉のえぐれた古傷がひと筋走っている。

 その隻眼の男が対しているのは、漆黒の髪と瞳を持つ青年だった。
 真の闇を映したような瞳を半ば伏せ、青年は「そうか」とだけ呟いた。

「何かご不満がおありのようですが」
 漆黒の青年よりもいくらか年長に見える隻眼の男は、それでも意外そうな素振りを見せることなく淡々と問い掛ける。
「不満などない。ようやくここまで辿り着いたんだ。あとは最後まで突っ走るだけだ。そうだろう?」
 初めて隻眼の男の表情が動いた。
 満足そうに微笑んでいる。
「総統の迷いは、すぐさま全軍に波及し足枷となるのです。どうぞ迷うことなく、ただ一心に前を向いておられますように」
 総統と呼ばれた漆黒の青年は、力強く頷いた。
「迷うことなど何もない」
 という言葉とともに。

 そして彼は窓辺に寄り、できたばかりの新しい街に目をやった。
 ここに来たころは、まだ掘っ立て小屋のような家ばかりだった。
 それを、傍らの隻眼の男とともに、ここまでの街にした。
 『すべての人に等しい幸福を』
 帝国にいては叶えられないその願いを胸に。
 10代の終わりからの数年を費やしたのだ。
 
「皇帝と元帥の首を取るまで俺は止まることはない」

 漆黒の青年の言葉に、隻眼の男の眼帯に隠されていないほうの目が鋭い光を宿した。

「どこまでもついて参りましょう。あなたさまの理想の国ができるまで」


 そして、その日、反帝国を旗印に結集した南の大陸の同盟軍は、海を隔てた先にある帝国への総攻撃を開始した。
















 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...