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12. 地下牢改装計画
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「あー食った。……これで文句ないだろ」
最後の一口を胃に流し込んだアスターは、自分の身体に何かがあったらすぐに抗議できるよう、証人となり得るクロエを、傍にいさせたかった。
ただ黙っていては彼も落ち着けない。普段通りでいたい。とはいえ、何を話せば良いものか。ずっとリンゴの芯と見つめ合っているわけにもいかない。
「私が勝手にやったことだから、マゼンタを責めるのはお門違いだからね。お腹壊したら、真っ先に私のせいにしていいから」
アスターは腹部を軽く撫でる。まだ痛くなってはいない。
身体の内側も外側も、リンゴを理由とする悪い変化は見られない。感じているのは、飢えから解放された喜びぐらいだった。
「コレって、お前が用意してくれたのか。……癪だけどうまかった。腹が減ってたから余計にそう感じてたのかもしれないけど、お世辞じゃなくて本当にうまかった」
ここでアスターは口を閉じてしまう。人間としてのプライドが崩れ落ちるのがイヤだった。何の能力もなくても、それだけは大切にしてきたので、失いたくなかった。何をすれば失うのか、ロクにわかっていなかったが、おそらくはそういうことなのだろうと、置かれている状況から答えを導き出した。
『ありがとう』──この言葉が、アスターを苦しませていた。
人間に同じことをされたなら、通常は何の疑問も持たずにお礼を言う。これまで生きてきた中で、何度あったことか。
いつもならすぐに言えたことなのに、なぜ今はこんなにも辛いのか。
クロエは当然のことをしただけではないのか。
──いや、早まるな──
彼女が人間だったらよかった。しかし事実は違う。姿形に惑わされそうになるが、今アスターと共にいるのは、人ならざる者。
──堕ちるな俺。罠の可能性を常に考えるんだ──
アスターは思い返してみた。
リンゴには、傷ひとつついていなかった。それどころか、不自然な点を見つけろというのが無理難題だった。どこをとっても、これまで人間界で口にしてきたのと寸分違わぬ果物だった。
──素人目にはわからないだけだ──
「魔界のリンゴ、人間界のより甘いってマゼンタが言ってたよ。私は食べた記憶ないけどね」
「そうかもしんねーな。味は認める。……あのマゼンタってさ、お前の部下なんだろ? 今の言い方だと、お前には一切食わせたことないみたいに聞こえるけど……部下としてどうよ?それともアレか? あまりにもマズいので、主君には差し上げられません、みたいな? 魔族の味覚なんて知らねーけど、俺もたまにあるからな、ハズレを引くのは」
クロエは上を向いて答える。
「ううん、本当に記憶にないだけ。私、覚えてることってあんまりなくて。やっぱりたくさん眠ってたせいなのかな……」
クロエの意識が、壁と背中の間にある剣に向けられる。
「理由は……あんまり思い出したくないけどね」
「あ、いや、別に強制とかはしないから!秘密ならそれでいいんだ! 俺に話したら話したで、口封じっつってバッサリ、なんだろ? それならお互い黙ってりゃいいんだ。お前は嫌なこと思い出さずに済む、俺は命が助かる。うん、まさに一石二鳥じゃないか」
殺しのアイディアとも言えるアスターの発言に、クロエはよくもまあ思いつくものだと感心するばかり。
「秘密ってほどでもないし、もしかしたら私から話しちゃうかもだし。それで鬱まっしぐらにはならないと思うよ。……ところで、あれだけゴチャゴチャ言ってたけど、身体に何か変化はあったの?」
「今のところは……何も」
よほど変な性格でない限り、責められて喜ぶ者はいない。魔族とて然り。クロエは堂々と言っていた。つまり発言に自信を持っていた。
──こんな食べ物ひとつで、良くないことなど起こるワケ、ないに決まっているじゃないか──
彼はいつまでビクビクしているのか。クロエは心の内で嗤っていた。
少し経ってアスターに元気が湧いてきたが、それは紛れもなく『良いこと』である。
──本当にただのリンゴだったのかも──
疑念という名の雲が、わずかに取れる。
これ以上待つのは疲れるので、いい加減この暗い地下を出て身体を動かそうと、アスターが思った時。
マゼンタが来た。両手に剣と思われるものを持って。
「あら、やっと食べてくれたんですね。ごめんなさい、お邪魔しないとのお約束でしたが、クロエ様がどうしてもと仰るものですから、アスターさんが起きなければセーフということで」
「それな。もし俺が初めから起きてたら、お前らアウトだったかもしれないぜ。うまくやってくれたモンだな。おかげで一個まるまる食べてしまったってワケだ。話は変わるが、それ……何のつもりだ?」
アスターは戦慄していた。マゼンタがなぜ今『それ』を持っているのか。
「……そうか、読めたぞ。俺を処刑しに来たんだろ? ってことは、コレが最後の晩餐ってやつだったワケか。地味な俺にはピッタリかもな」
皿の上の残骸を見て嗤うアスター。勘違いと知るのは、この直後だった。
「違いますよ。これはアスターさんにお渡しするために、配下に持ってきてもらったものです」
「俺に?」
マゼンタは剣を鞘から抜いて、アスターに見せた。
全長は八十センチメートルほど。ありふれた形状で装飾はなく、人間界の武器屋で安く売られていそうな印象を受けた。
「今日はアスターさんにも、ある計画のことでおつき合いしてもらおうと思いまして。これから行く所には魔物がたくさんいるでしょうから、アスターさんも何か武器を持っていた方が良いかと。それで、簡単なものではありますが……」
マゼンタは鞘に剣を戻す。
「計画? 何を企んでるんだ? 話ぐらいは聞いてやるよ」
「よくぞ訊いてくれました。実は……この地下牢をリノベーションしたいのであります!」
アスターとクロエの頭上に、クエスチョンマークが浮かび上がった。二人とも、この言葉を耳にしたのは初めてだった。
「リノ……何だって?」
胡座の姿勢のまま、アスターが訊いてみた。
「リノベーション。簡単に言えば、お部屋を改装することです。アスターさん、人間界では地下牢は何のために作られたか、ご存知ですか?」
「それくらい……。悪いことした奴を閉じ込めるためだろ?」
「そう。しばらくの間……あるいは死ぬまで」
マゼンタは正座で続きを話した。
「大体は、お城にあるイメージですよね? それに倣って、こちらでもだいぶ昔に作ってみたのですが……実際のところ、ほとんど使われていません。王の意に背いた者は、投獄するまでもなく即座に殺してましたから。たまにお掃除に来るたびに、ここを有効活用するには、なんて考えていましたが、なかなか難しいもので。けど、アスターさんが来てくれたおかげで、良い案が浮かびました」
「それが、リノなんとかっていう改装のことか」
マゼンタは「ええ」と頷いた。
「自分のお部屋が地下にあるのって、憧れません?」
「いや……わかんね」
「ここはたまに私が出入りする程度で、あとは誰も近寄りませんから……言い換えれば、顔見知りしか来ませんから、小心者のアスターさんのお部屋にするのにピッタリです。けどこのままの雰囲気では落ち着かないでしょうから、イメージを変えていかないと」
──さりげなく悪口言われた──!
「その、イメージ刷新に必要なのが、『珪藻土』というものです」
「けーそーど?」
今度はクロエが訊ねる。
「珪藻土というのは、珪藻というプランクトンの化石が堆積してできたものです。あ、プランクトンというのは、水中に浮かんでいるとっても小さな生き物です。塵も積もれば山となる、なんて言いますね。加工すれば、壁などの材料になりますよ。たくさん必要なので、人数があった方が良いでしょう」
「わかった、今日はそれを採りに行こうってことね?」
「ピンポーン♪ さすがクロエ様。では、善は急げです。ささ、アスターさんもコレ持って!」
「え? え?」
アスターは躊躇しているうちに、マゼンタが持ってきた剣を握らされてしまった。
まだ返事も何もしていなかったが、アスターも一緒という前提で話が進められていたのは確かだった。
「ちょっと待てよ!」
アスターがクロエたちを止めた。
「何してんの? 早くおいでよ」
「だから……ちょっとだけ待てっての!」
「どうかしました?」
アスターは眉をひそめて言った。
「足が……痺れた……」
一行が外に出ると、マゼンタが指をさす。指先の延長上に見える山に行くというのだが、いかんせん距離が大きすぎて、徒歩では膨大な時間を要する。
朝のはずなのに、空の色が紫色のままだとアスターが言及すると、この世界の空は紫色か灰色かのどちらかだと、マゼンタが教えた。
「アレです。あの山を私たちは、『吸血鬼の山』と呼んでいます」
「早々に物騒な情報投げつけてくんなよ。……で、どうやって、あんな所まで行くんだ?」
「モリ君に乗って行くよ」
クロエの言ったことに、アスターは耳を疑った。
モリ君は、昨日アスターを魔王城に連れてきた太っちょコウモリで、スライムを粉々にするくらいの攻撃技を持つ、クロエの友人的存在。
──乗る──!?
大きさは、所詮はコウモリ。一人ですら無理だろうに、三人もあの背に乗れるわけがない。一体どういうことだろうと、アスターが首を捻っているうちに、モリ君が来てしまった。
「あ、ヘッポコ人間も一緒だー」
毒を吐くモリ君に、
「なんだと、デブコウモリ!」
アスターも負けじと言い返す。
「むー、デブじゃないやい! お前こそ口先だけのくせに!」
一人と一匹は向き合い、バチバチと火花を散らす。どうでもいい喧嘩は、マゼンタによってすぐに強制終了となった。
クロエがモリ君に、呼んだ理由を話す。
「それならボクにおまかせ! 行くよー! むむむむ……」
モリ君は魔力を全身に集め、やがて──
「それッ!」
ドーーン!
縦、横共に二メートルほどにまで巨大化した。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
アスターは腹から声を出して驚愕した。
「じゃーん!ボクはこんなに大きくなれるんだ。参ったか人間!」
「……ああ、参った参りました」
棒立ちのアスターを横目に、クロエとマゼンタはモリ君の背に乗り込んだ。
アスターも乗せてほしいというクロエの願いを、仕方なく受け入れたモリ君。
「乗るんなら早く乗ってよ。置いていってもボクは構わないんだけどね」
「うるせーな、今乗るから動くなよ。ぃよっ……と」
皆がいること、いつでも飛ぶ準備はできていることを確認したクロエが、モリ君に命じた。
「そんじゃ、珪藻土を採りに吸血鬼の山へ、レッツゴー!」
最後の一口を胃に流し込んだアスターは、自分の身体に何かがあったらすぐに抗議できるよう、証人となり得るクロエを、傍にいさせたかった。
ただ黙っていては彼も落ち着けない。普段通りでいたい。とはいえ、何を話せば良いものか。ずっとリンゴの芯と見つめ合っているわけにもいかない。
「私が勝手にやったことだから、マゼンタを責めるのはお門違いだからね。お腹壊したら、真っ先に私のせいにしていいから」
アスターは腹部を軽く撫でる。まだ痛くなってはいない。
身体の内側も外側も、リンゴを理由とする悪い変化は見られない。感じているのは、飢えから解放された喜びぐらいだった。
「コレって、お前が用意してくれたのか。……癪だけどうまかった。腹が減ってたから余計にそう感じてたのかもしれないけど、お世辞じゃなくて本当にうまかった」
ここでアスターは口を閉じてしまう。人間としてのプライドが崩れ落ちるのがイヤだった。何の能力もなくても、それだけは大切にしてきたので、失いたくなかった。何をすれば失うのか、ロクにわかっていなかったが、おそらくはそういうことなのだろうと、置かれている状況から答えを導き出した。
『ありがとう』──この言葉が、アスターを苦しませていた。
人間に同じことをされたなら、通常は何の疑問も持たずにお礼を言う。これまで生きてきた中で、何度あったことか。
いつもならすぐに言えたことなのに、なぜ今はこんなにも辛いのか。
クロエは当然のことをしただけではないのか。
──いや、早まるな──
彼女が人間だったらよかった。しかし事実は違う。姿形に惑わされそうになるが、今アスターと共にいるのは、人ならざる者。
──堕ちるな俺。罠の可能性を常に考えるんだ──
アスターは思い返してみた。
リンゴには、傷ひとつついていなかった。それどころか、不自然な点を見つけろというのが無理難題だった。どこをとっても、これまで人間界で口にしてきたのと寸分違わぬ果物だった。
──素人目にはわからないだけだ──
「魔界のリンゴ、人間界のより甘いってマゼンタが言ってたよ。私は食べた記憶ないけどね」
「そうかもしんねーな。味は認める。……あのマゼンタってさ、お前の部下なんだろ? 今の言い方だと、お前には一切食わせたことないみたいに聞こえるけど……部下としてどうよ?それともアレか? あまりにもマズいので、主君には差し上げられません、みたいな? 魔族の味覚なんて知らねーけど、俺もたまにあるからな、ハズレを引くのは」
クロエは上を向いて答える。
「ううん、本当に記憶にないだけ。私、覚えてることってあんまりなくて。やっぱりたくさん眠ってたせいなのかな……」
クロエの意識が、壁と背中の間にある剣に向けられる。
「理由は……あんまり思い出したくないけどね」
「あ、いや、別に強制とかはしないから!秘密ならそれでいいんだ! 俺に話したら話したで、口封じっつってバッサリ、なんだろ? それならお互い黙ってりゃいいんだ。お前は嫌なこと思い出さずに済む、俺は命が助かる。うん、まさに一石二鳥じゃないか」
殺しのアイディアとも言えるアスターの発言に、クロエはよくもまあ思いつくものだと感心するばかり。
「秘密ってほどでもないし、もしかしたら私から話しちゃうかもだし。それで鬱まっしぐらにはならないと思うよ。……ところで、あれだけゴチャゴチャ言ってたけど、身体に何か変化はあったの?」
「今のところは……何も」
よほど変な性格でない限り、責められて喜ぶ者はいない。魔族とて然り。クロエは堂々と言っていた。つまり発言に自信を持っていた。
──こんな食べ物ひとつで、良くないことなど起こるワケ、ないに決まっているじゃないか──
彼はいつまでビクビクしているのか。クロエは心の内で嗤っていた。
少し経ってアスターに元気が湧いてきたが、それは紛れもなく『良いこと』である。
──本当にただのリンゴだったのかも──
疑念という名の雲が、わずかに取れる。
これ以上待つのは疲れるので、いい加減この暗い地下を出て身体を動かそうと、アスターが思った時。
マゼンタが来た。両手に剣と思われるものを持って。
「あら、やっと食べてくれたんですね。ごめんなさい、お邪魔しないとのお約束でしたが、クロエ様がどうしてもと仰るものですから、アスターさんが起きなければセーフということで」
「それな。もし俺が初めから起きてたら、お前らアウトだったかもしれないぜ。うまくやってくれたモンだな。おかげで一個まるまる食べてしまったってワケだ。話は変わるが、それ……何のつもりだ?」
アスターは戦慄していた。マゼンタがなぜ今『それ』を持っているのか。
「……そうか、読めたぞ。俺を処刑しに来たんだろ? ってことは、コレが最後の晩餐ってやつだったワケか。地味な俺にはピッタリかもな」
皿の上の残骸を見て嗤うアスター。勘違いと知るのは、この直後だった。
「違いますよ。これはアスターさんにお渡しするために、配下に持ってきてもらったものです」
「俺に?」
マゼンタは剣を鞘から抜いて、アスターに見せた。
全長は八十センチメートルほど。ありふれた形状で装飾はなく、人間界の武器屋で安く売られていそうな印象を受けた。
「今日はアスターさんにも、ある計画のことでおつき合いしてもらおうと思いまして。これから行く所には魔物がたくさんいるでしょうから、アスターさんも何か武器を持っていた方が良いかと。それで、簡単なものではありますが……」
マゼンタは鞘に剣を戻す。
「計画? 何を企んでるんだ? 話ぐらいは聞いてやるよ」
「よくぞ訊いてくれました。実は……この地下牢をリノベーションしたいのであります!」
アスターとクロエの頭上に、クエスチョンマークが浮かび上がった。二人とも、この言葉を耳にしたのは初めてだった。
「リノ……何だって?」
胡座の姿勢のまま、アスターが訊いてみた。
「リノベーション。簡単に言えば、お部屋を改装することです。アスターさん、人間界では地下牢は何のために作られたか、ご存知ですか?」
「それくらい……。悪いことした奴を閉じ込めるためだろ?」
「そう。しばらくの間……あるいは死ぬまで」
マゼンタは正座で続きを話した。
「大体は、お城にあるイメージですよね? それに倣って、こちらでもだいぶ昔に作ってみたのですが……実際のところ、ほとんど使われていません。王の意に背いた者は、投獄するまでもなく即座に殺してましたから。たまにお掃除に来るたびに、ここを有効活用するには、なんて考えていましたが、なかなか難しいもので。けど、アスターさんが来てくれたおかげで、良い案が浮かびました」
「それが、リノなんとかっていう改装のことか」
マゼンタは「ええ」と頷いた。
「自分のお部屋が地下にあるのって、憧れません?」
「いや……わかんね」
「ここはたまに私が出入りする程度で、あとは誰も近寄りませんから……言い換えれば、顔見知りしか来ませんから、小心者のアスターさんのお部屋にするのにピッタリです。けどこのままの雰囲気では落ち着かないでしょうから、イメージを変えていかないと」
──さりげなく悪口言われた──!
「その、イメージ刷新に必要なのが、『珪藻土』というものです」
「けーそーど?」
今度はクロエが訊ねる。
「珪藻土というのは、珪藻というプランクトンの化石が堆積してできたものです。あ、プランクトンというのは、水中に浮かんでいるとっても小さな生き物です。塵も積もれば山となる、なんて言いますね。加工すれば、壁などの材料になりますよ。たくさん必要なので、人数があった方が良いでしょう」
「わかった、今日はそれを採りに行こうってことね?」
「ピンポーン♪ さすがクロエ様。では、善は急げです。ささ、アスターさんもコレ持って!」
「え? え?」
アスターは躊躇しているうちに、マゼンタが持ってきた剣を握らされてしまった。
まだ返事も何もしていなかったが、アスターも一緒という前提で話が進められていたのは確かだった。
「ちょっと待てよ!」
アスターがクロエたちを止めた。
「何してんの? 早くおいでよ」
「だから……ちょっとだけ待てっての!」
「どうかしました?」
アスターは眉をひそめて言った。
「足が……痺れた……」
一行が外に出ると、マゼンタが指をさす。指先の延長上に見える山に行くというのだが、いかんせん距離が大きすぎて、徒歩では膨大な時間を要する。
朝のはずなのに、空の色が紫色のままだとアスターが言及すると、この世界の空は紫色か灰色かのどちらかだと、マゼンタが教えた。
「アレです。あの山を私たちは、『吸血鬼の山』と呼んでいます」
「早々に物騒な情報投げつけてくんなよ。……で、どうやって、あんな所まで行くんだ?」
「モリ君に乗って行くよ」
クロエの言ったことに、アスターは耳を疑った。
モリ君は、昨日アスターを魔王城に連れてきた太っちょコウモリで、スライムを粉々にするくらいの攻撃技を持つ、クロエの友人的存在。
──乗る──!?
大きさは、所詮はコウモリ。一人ですら無理だろうに、三人もあの背に乗れるわけがない。一体どういうことだろうと、アスターが首を捻っているうちに、モリ君が来てしまった。
「あ、ヘッポコ人間も一緒だー」
毒を吐くモリ君に、
「なんだと、デブコウモリ!」
アスターも負けじと言い返す。
「むー、デブじゃないやい! お前こそ口先だけのくせに!」
一人と一匹は向き合い、バチバチと火花を散らす。どうでもいい喧嘩は、マゼンタによってすぐに強制終了となった。
クロエがモリ君に、呼んだ理由を話す。
「それならボクにおまかせ! 行くよー! むむむむ……」
モリ君は魔力を全身に集め、やがて──
「それッ!」
ドーーン!
縦、横共に二メートルほどにまで巨大化した。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
アスターは腹から声を出して驚愕した。
「じゃーん!ボクはこんなに大きくなれるんだ。参ったか人間!」
「……ああ、参った参りました」
棒立ちのアスターを横目に、クロエとマゼンタはモリ君の背に乗り込んだ。
アスターも乗せてほしいというクロエの願いを、仕方なく受け入れたモリ君。
「乗るんなら早く乗ってよ。置いていってもボクは構わないんだけどね」
「うるせーな、今乗るから動くなよ。ぃよっ……と」
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