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第9章アウトロ大陸

大召喚士

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ショモラマン山脈の頂が見える。

アウトロ大陸を南北に横断する街道を、シドとイツキはのんびりと馬の背に揺られていた。
目の前には大空と高くそびえるショモラマン山脈が見える。その山脈のひときわ高い山がエーレントス山だった。
そこの中腹にあるツーロンという村を目指していた。
 この村は村というよりは街と言った方が良いほど開けていた。ショモラマン山脈とエーレントス山から湧き出た地下水からなる大きな湖ペレン湖と周辺に広い大地を持ち農業と漁業が中心に栄えた村でありながら、その風光明媚な景色が観光地としても人気が高かった。

そんな村にアルポリ軍は攻め込んだ。
大砲を使わなかった事だけが幸いして村には大きな被害はなかったが、畑として耕していた台地は戦場となりそれは無残にも荒らされた。

シドとイツキはそれを唖然としながら見ていた。
「今年の収穫は諦めるしかないな」
イツキはぽつりと呟いた。
戦をするのも時期と場所という暗黙の了解がある。まだこの世界はそれさえもない戦争自体がどういうモノになるか分かっていない世界だった。

2人は街道から外れ山あいの道をゆっくりと相変わらず馬の背中で揺られながら登って行った。

「お主、ここであの軍隊と戦うとしたらどうする?」
シドが聞いてきた。
イツキは暫く考えて
「あのレベルの軍隊であれば的中突破から、後方かく乱ですかねえ……数の勝負だけは避けますね」
と答えた。

「ほほぉ。お主でもそうするか」

「まあ、人間だけで戦うとしたらですけどね。その場にいたら多分召喚獣を召喚しまくって度胆を抜いてやったと思います」
と笑いながら言った。

「召喚獣をのぉ……」
シドは顎鬚を撫でながらそう言った。

「何だったらオーフェンでも呼びましょうか?師匠もこの頃オーフェンに会ってないでしょう?それともイフリートとかシバとかバンバン呼んじゃいましょうか?」
とイツキは楽しそうに言った。
 アルポリ軍の戦いぶりを見てイツキは何をやってもあそこだけには負ける気がしなった。一人で戦っても勝てる気がしていた。それほどアルポリ軍は未熟だった。

その時、イツキは頭に激痛が走った。

「おのれは、まだそんな不遜な事を言っとるのかぁ!!]
という叫び声とも罵声ともつかぬ声と共に杖でイツキは頭を痛打された。

 それは空から急に湧いて出たという表現が一番しっくりくる登場だった。
1人の小柄な老婆がイツキの頭上から思いっきり魔法の杖を振り下ろしていた。

イツキは驚いて馬から転げ落ちた。

「なんだぁ?!」とイツキは叫んだ。

さっきまでイツキが乗っていた鞍の上には、その老婆が座っていた。
「召喚獣をそんなにええ加減な使い方をしてはならん!もっとお主は謙虚になれ!」
とまたその老婆は叫んだ。

イツキは頭を擦りながら馬上を見上げた。
その老婆の顔を見るなりイツキは「モモンガババア……」と言った。

「モモンガではないモモガだ、バカもん」
 その老婆はモモガと言う先祖代々由緒正しい召喚士の家に生まれ、この世界でも人々から尊敬される最高級の召喚士だった。

「急に出てくるな、そしてどつくな!このババア」
とイツキは珍しく毒づいて言った。

「ふん!お主が舐めた事を言うからじゃ」
モモガはイツキの話など一向に気にする様子もなかった。

「おお、モモガのばあ様かぁ。懐かしいのぉ」
シドはこのやり取りを笑いながら見ていた。そして懐かしそうにモモガに声を掛けた。

「シドもそこにおって、この間抜けに言いたい放題言わすとは何事ぞ」
モモガはシドにも怒りの矛先を向けようとしていた。

「そういうなって、イツキもこれでも結構、分別が付くようにはなって来ておる。今のは単なる戯言じゃ」

「シド、お主がそう甘やかすからこの小僧は図に乗るのじゃ!」
とモモガ婆さんは手を緩めない。

「小僧って……俺の事を幾つのガキだと思っているんだ?もう俺も30だぞ」
イツキはモモガに食って掛かった。

「ふん!歳を取って図体ばかりでかくなっても、人としての器は未だに小さいようじゃのぉイツキよ」

「け、あんたにだけは言われたくないわ」
そう言いながらイツキは立ち上がった。

「で、そのモモンガのババアがなんの用じゃ?」
シドがモモガに聞いた。

「モモンガではない、モモガだ」
そう言い直すとイツキに向かって
「お主はワシの孫娘のアレットを見なかったか?」

「アレット?ああ、あのお転婆かぁ、両親に似ず性格がババアに似てしまった不幸なアレットか?知らんな」
イツキは全く興味も関心も無いように返事をした。

「不幸かそうでないかはさて置き、行方不明にでもなったのか?」
シドはモモガに聞いた。

「そうではないが、あ奴は家を出て行った。そしてイツキに会うと言っていた。よりによってこんな愚か者に会わずとも良いものを……」
モモガはそういうと忌々しそうにイツキを見た。

「イツキよ、お主、また何かやったのか?」
シドはイツキの顔を見た。

イツキは頭を大きく振り
「何もやってませんよ。アレットとはもう5年以上も会ってませんよ」
と答えた。
「第一、アレットはモモンガの婆さんが無理やり魔法学校の召喚士養成講座へ放り込んだんじゃなかったっけ?あそこは全寮制でしょうが……魔法学校の寮でも脱獄したかぁ?」

「ワシはモモンガでもないし孫は脱獄した訳でもない。帰省中にあのバカは召喚士にはなりたくないと言い出しおった」

――そりゃそうだろう、こんなババアになりたくないもんな――

イツキは心の中でそう思ていた。
そこへ魔法の杖が飛んできた。

「痛たたた……何すんだ?」

「お主、今不埒な事を考えただろう。ワシには伝わって来たぞ」

「何を証拠に……」
とイツキはまた頭を擦ったがやはりこのババアは侮れんと心の中で思った。

「アレットは我がクリムゾン家の唯一の跡取り娘じゃぞ。それが召喚士を継がずに何を継ぐというのじゃ!」

「だから何も継がないって言ってるんじゃないの?」
とイツキが言うか言わないかというタイミングで魔法の杖がイツキの頭を襲った。
イツキはまたもや道に転がった。

「だから痛いんじゃ!このババア」

「いちいち下らん解説は要らん!」
とモモガは言った。

「で、その召喚士を継がんと言った孫娘が何故イツキに会うと?」
シドは冷静に話を進めた。

「おお、そうじゃ、そうじゃった。今、こやつは就職相談員をやっとるじゃろう?」

「俺はキャリアコンサルタントだ」

「そう、その就職相談員にこれから自分に向いている職種を相談に乗ってもらうと言っておったのじゃ」

「ババァ、俺の話を全然聞いてないだろう?」
どうやらイツキはモモガの前ではこの世界に転生してきた16歳に言動が戻るようだ。

「いちいち、男が細かい事にこだわるでない」
モモガはバカにしたような顔をしてイツキに言った。

「イツキよ、アレットはまだ来ぬと?」

「来てませんよ。そんな奴は。どうせこのババアに適当な事を言って逃げたんでしょう。それにここ最近はほとんど師匠と一緒にいたじゃないですか」
イツキはそんな話はもうどうでもよかった。それよりも早く風光明媚なツーロンに行きたかった。

「それもそうだのぉ……モモガ婆さん、それだけは本当だ。イツキはワシとず~と一緒におったでな。その間にあんたの孫娘とは会っとらんな」
シドはモモガにそう言った。

「そうか……まだ来ておらぬか……」
モモガは落胆して肩を落とした。

「というかさあ、ここに俺がいるなんてアレットにはどうやって分かるんだ?」
とイツキはモモガに聞いた。

「本当にお主は三流召喚士じゃのぉ。アレットは我が家系の血筋を継いだ召喚士だぞ。生まれながらの召喚士で魔法の力も生まれながらに持っておる。そんなアレットがお前ごときを探し出すなんて造作もないことじゃ」
 モモガはとっくの昔にアレットはイツキと会っているものだと思っていた。それが未だに現れていないという事に非常に不安を覚えた。

「そんな生まれながらにして大召喚士様なら、心配する事はないだろう?」
イツキは兎に角さっさとこの場から離れたかった。
もうババアの相手はゲップが出そうだと思っていた。

「まあ、良い。お前の横にいればその内アレットとも出会えよう」

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