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あつこさん
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それはひょんな事から始まった。
3月、高校を無事卒業し大学へ進学するまでの短い休みの間。颯太は友人の周平と一緒に遊ぶことが多かった。
この2人、高校2年生の時に同じクラスになってからの付き合いだったが、趣味が合うのか馬が合うのか兎に角、いつも一緒に遊んでした。
ある日、いつものように2人でセンター街をぶらついていると、周平が「占いの街」という施設があるのに気が付いた。
それはセンター街に面したビルの3階のフロアにあり、その中に4畳半程度の広さの占いブースが10個ほど並んでいるといった施設だった。
客は最初に3000円のチケットを買って気に入った占い師に相談するという仕組みだった。
「なあ颯太、あそこに行ってみない?」
と3階の「占いの街」という看板を指さした。
「あそこって占いの街?」
「そう、そこ」
「なんだ?お前、占いなんかに興味があるのか?」
「まあな」
どうせ目的もなく、ただぶらぶらしているだけだったので颯太に断る理由は無かった。
ビルの1階は通路を挟んで両側にブティックが店舗を構えていた。
そのブティックの間の通路を入ると一番奥にエレベーターがあった。
颯太は周平の後をついていった。
エレベータに乗って3階で降りた二人は、中が思ったより広くてきれいだったのに驚いた。
「へ~。ここって出来たばっかりなんだ。」
周平は入り口に掲げてあった、利用方法の説明を読むとさっさと自動販売機でチケットを買った。
「なあ、周平、何を見てもらうの?」
「これからの俺の人生。」
「俺さ、大学受験で第一志望落ちただろ。浪人しても良かったんだけど、なんだか年下と同級生になるのが嫌でさ、第2希望の大学に行く事にしたじゃん。だからさ、やっぱり浪人して第一志望をそのまま狙った方が良かったかって結構気になっていたんだ」と周平は応えた。
「なるほどなあ……そんな事言っていたなぁ。周平。」
颯太は運よく第一希望の大学……いや、ダメ元で受けた有名私立大学に奇跡的に受かっていた。
「お前は良いよな。奇跡的とはいえ、あんな大学に行けて」
周平は心から颯太の事が羨ましかった。
「まあな。本当に受験って運だよな。これからは俺の事をマークシートの神様と呼んでいいぞ」
颯太も変に慰めの言葉をかけても何にもならない事を知っているので、あえて明るく応えた。
「今度受験する事があったら、お前の事を神と崇め奉らせてもらうわ」
と周平も笑いながら応えた。
「それにしても迷うな……どの占い師が良く当たるんだ?」
チケットを買ったは良いが、周平に占い師のあてがある訳ではない……と言うか全くない。
「まあ、どの占い師にあたるかも含めての運命だからな。お前が良いと思ったのにしたら?」
と、颯太は他人事のように応えた。
事実、颯太にとっては他人事だ。占いには何の興味も無かった。
周平がある占いブースの前で立ち止まった。
そのブースは四方をつい立てて囲まれていて外からは中が覗けないようになっていた。
入り口はカーテンで目隠しが出来るようにされていたが、その時はちょうど開いていた。
たまたまその前を通りかかった周平が、そこの占い師と目が合ったようだ。
看板には「霊感占い・あつこ」と書いてあった。
他の占い師のブースには難しい漢字やカタカナとかで、それっぽい仰々しい名前が並んでいたがここは「あつこ」だった。それもひらがな。
「ここにするわ」と周平はほとんど即断で決めた。
そこには20代半ば位の長髪でおかっぱ頭の女性がTシャツにジーンズという姿で座っていた。
女性の前には白いテーブルクロスが掛かった小さなテーブルが置いてあった。
中に入るには靴を脱ぐようだったので、颯太は「面倒だな」と思って入るのを躊躇したが、一人で外で待つのも寂しいので靴を脱いで周平の後に続いて中に入った。
「あの~占って欲しいんですけど……」と周平がテーブルをはさんで切り出すとその女性は
「どうぞ。お座りください」と自分の前の席に周平を誘(いざな)った。
颯太は「どこにでもいる普通のお姉さんだなぁ。本当に占いできるのかぁ……全然それっぽくないぞぉ」と心の中で思っていた。
「お連れの方はその辺に座ってください」と言われ、颯太は手短なところに腰を下ろして胡坐をかいて座った。
「初めまして。あつこです。主に霊感占いをしています。さて、何を今日はお占いしましょうか?」
口調によどみはない。感情を表に出さないように表情も淡泊だが、緊張で表情が硬い訳ではない様だ。
もうそれなりに経験を積んだ占い師の様だと周平は思った。
「あの、大学に入学したんですが、本当にこの大学で良かったのか迷っています。もしかしたら浪人して上位校を目指した方が良いのではないかと思ったり……でもまた失敗したらどうしようとか思ったり……」
「そうですか……それでは、まず、ここに名前と生年月日を書いて下さい」
周平は机の上に差し出された紙に名前と生年月日を書いた。
「中山周平さんですね。生まれは5月5日。良い日ですね。まずこのまま今の大学が良いのか、それとも本当に行きたい大学に行く方が良いのか見てみましょう」
占い師あつこは自信を持った声でそう答えると、周平の顔をじっと見つめた。そして周平の右肩の上空を見て何かと確認しあっているような素振りをした。
「そうですね。このまま今の学校に行った方が良いとあなたの背後霊は言っています。」
「背後霊?」
「そう、分かり易く言うとあなたの先祖の霊です。」
「へえ。ご先祖様がそういうのかぁ」周平はちょっと驚いたように呟いた。
「はい。もし浪人して上位校を目指してもまた落ちるだろうとも言ってます」
「え、そうなんですか?」
「はい。あなたは根本的に勉強が嫌いだから浪人すると、成績が下がる事はあってもあがる事はないと言ってます。要するに浪人しても勉強しないだろうという事です。」
横で聞いていた颯太は笑いながら
「周平、厳しいご先祖様だな。」と横やりを入れた。
「うるさい!颯太……でも、そう言われたらそんな気もする。」
「俺もお前のご先祖様に激しく同意する。」颯太も頷いた。
占い師あつこは言葉を続けた。
「このまま、今の大学に通うとあなたはあなたの人生でとっても大きな影響を与える人に出会えると言ってます。」
「もしかして彼女ができるとか?」周平は尋ねた。
「そうです。彼女も出来ます。でも私が今言ったのは彼女の事ではありません。あなたの人生を変える可能性がある人物です。」
「どんな風に変わるのですか?」
「それは分かりませんが、悪い風に変わる事はないと思います。」
占い師あつこの物言いははっきりとそして自信満ちていた。
ここまで言われると嘘でも信じたくなる。
「いいじゃん。周平。彼女も出来るし、人生大きく変わるんんだろう?」
「うん。まあなぁ……」
颯太が占い師あつこに聞いた。
「彼女って美人ですか?そこまでは分かりませんか?」
「美人かどうかは好みですからね。でも美人の部類に入るでしょう。」
「顔って見えないんですか?」
「見えますよ。」
「え?分かるんだ。じゃあ、似顔絵なんか描けたりします?」今度は周平があつこに聞いた。
占い師あつこは嫌な顔見せずにもう一枚紙を取り出して、似顔絵を描きだした。
天井の角をじーと見つめてから紙に向かいボールペンを走らせていた。
暫くして
「絵は下手なんですよ」
と言って見せてくれた似顔絵はお世辞でも上手いとは言えなかった。
「これって美人の部類に入るんですかぁ・・・」と颯太は聞いた。
「ごめんなさい。絵が下手なもんで……」
「本当に下手ですね……」颯太は容赦がない。周平もそれを見て心の中で「俺の方が上手い」と呟いた。
「要するに、髪の毛が長くて、ちょっとえらが張っていて目が大きな女性ですか?」颯太が聞いた。
「そうです。えらが張っているのではなく、ちょっとぽっちゃり目ですけどあごのラインがはっきりしている女性です」
颯太は立ち上がり、占い師あつこからボールペンを貰うと新しい紙を貰ってテーブルの上で似顔絵を描きだした。
「こんな感じですか?」
「そうそう、目はもう少し吊り上がっているかな。鼻筋はすっきりと……眉毛はもう少し細くて良いわ……ああ、上手ぅ、そうそうそんな感じ」
と占い師あつこは明るい声で喜んだ。
「絵、上手なんだぁ」あつこは感心して颯太が描いた絵を褒めた。
「絵は自信がありますから」と颯太は応えた。
「え~そうなんだ。凄いなぁ」
出来上がった似顔絵はちょっと美人風だが性格はきつそうな女性の顔だった。
「あ、そんな感じ。うまいうまい!!」
と占い師あつこは喜んだが、さっきまでの占い師の雰囲気はみじんも無かった。
「なんか占い師の先生がその辺のお姉ちゃんみたいになってるぞぉ」と颯太が笑った。
「あ、ごめん。そうなのよ。元々占い師なんて柄じゃないからね。少しでもそれらしく見せようとしていたんだけど……ダメだなぁ」
「良いんじゃないですか?そっちの方が僕らは好感持てますよ。なあ周平」
「うん。ちょっと驚いたけど、俺もそう思う」と周平も頷いた。
「ありがとう。あなた方の前では普通でやるわ」
「それの方が良いとあなたの背後霊も言っている」と颯太が言った。
あつこと周平は一緒に笑った。
あつこは笑いながら
「そうかもぉ。そういう意味であなた方を連れて来てくれたのかも。そんな気がするわ。」
颯太は「なるほどね」と思った。
「しかしこの絵は美人かぁ?周平どう思う?」
「不細工ではないと思うけどなぁ……美人と言われたらなぁ……」
占い師あつこから普通の人あつこに戻ったあつこは
「実物は似顔より美人なの」
と否定した。
「まあ、とりあえず楽しみやん周平。これで彼女ができる事は確定したようなもんだし」
「まあなぁ……」と周平はイマイチ納得が出来ていないようだった。
「もっと美人に描いてくれたら良かったのに……」と恨めし気に周平は颯太の方を睨んだ。
「そんなもん知るか!俺は言われた通り書いただけだぞぉ」
「うん。颯太君の絵は上手だったよ」と占い師改め単なるあつこは言った。
「だから余計に現実に近いじゃないですかぁ……俺きつい女はダメなんだ」
「性格はきついと決まったわけじゃないだろう?その辺はどうなんですかあつこさん」
すでに颯太の中では占い師あつこは普通のお姉さんあつこになり下がっていた。
「う~ん。残念ながら性格はちょっときついかも……でもいい人みたいよ。はっきり言って、その時は周平君も大人になっているから好みも変わっているわ。女性を見る目も少しは出来ているし」
占い師あつこは単なる友達のあつこになっていた。
「そうかぁ……」と周平は何とか納得した様だった。
「ま、お前も早く大人になる事だな。」と颯太が周平をからかった。
「それよりも、俺の人生を変える影響力を持った人ってどんな人なんだろう……気になるなあぁ」
と美人か否かで話題が終わりそうなのに気が付いて周平は話題も戻した。
颯太にとっては周平の人生がどうなろうと知った事ではなかったのでどうでもいい話だったが、改めてそう言われると少しは気にしてあげよという気持ちになった。
「周平の人生を変える人ってどんな人なんですか?」と取って付けたように颯太も聞いた。
「う~ん。そうねえ。年上の……先生、教授かな?兎に角、周平君が尊敬するような人ね。将来の仕事についてかもしれない。」
「それって分かるもんなんですか?この人だ!!って」
周平も身を乗り出して聞いてきた。
「そんな感じではないなぁ……どちらかと言えば、最終的にはそうなっていたみたいな感じかな」
「じゃあ、ドラスティックに人生が変わるという訳でもないんですね」
「そうだね。ドラスティックな感じは全然しないわ」
「そっかぁ……」
ため息交じりに周平は納得した様だった。
ーどんな風に変わるんだろう……まあ、悪くは変わらないって言っていたからなぁ。それで良いかー
周平は取りあえず今の大学に進学した方が良いと言われたので納得した。
その時に普通のお姉さんあつこが占い師あつこに戻った。
3月、高校を無事卒業し大学へ進学するまでの短い休みの間。颯太は友人の周平と一緒に遊ぶことが多かった。
この2人、高校2年生の時に同じクラスになってからの付き合いだったが、趣味が合うのか馬が合うのか兎に角、いつも一緒に遊んでした。
ある日、いつものように2人でセンター街をぶらついていると、周平が「占いの街」という施設があるのに気が付いた。
それはセンター街に面したビルの3階のフロアにあり、その中に4畳半程度の広さの占いブースが10個ほど並んでいるといった施設だった。
客は最初に3000円のチケットを買って気に入った占い師に相談するという仕組みだった。
「なあ颯太、あそこに行ってみない?」
と3階の「占いの街」という看板を指さした。
「あそこって占いの街?」
「そう、そこ」
「なんだ?お前、占いなんかに興味があるのか?」
「まあな」
どうせ目的もなく、ただぶらぶらしているだけだったので颯太に断る理由は無かった。
ビルの1階は通路を挟んで両側にブティックが店舗を構えていた。
そのブティックの間の通路を入ると一番奥にエレベーターがあった。
颯太は周平の後をついていった。
エレベータに乗って3階で降りた二人は、中が思ったより広くてきれいだったのに驚いた。
「へ~。ここって出来たばっかりなんだ。」
周平は入り口に掲げてあった、利用方法の説明を読むとさっさと自動販売機でチケットを買った。
「なあ、周平、何を見てもらうの?」
「これからの俺の人生。」
「俺さ、大学受験で第一志望落ちただろ。浪人しても良かったんだけど、なんだか年下と同級生になるのが嫌でさ、第2希望の大学に行く事にしたじゃん。だからさ、やっぱり浪人して第一志望をそのまま狙った方が良かったかって結構気になっていたんだ」と周平は応えた。
「なるほどなあ……そんな事言っていたなぁ。周平。」
颯太は運よく第一希望の大学……いや、ダメ元で受けた有名私立大学に奇跡的に受かっていた。
「お前は良いよな。奇跡的とはいえ、あんな大学に行けて」
周平は心から颯太の事が羨ましかった。
「まあな。本当に受験って運だよな。これからは俺の事をマークシートの神様と呼んでいいぞ」
颯太も変に慰めの言葉をかけても何にもならない事を知っているので、あえて明るく応えた。
「今度受験する事があったら、お前の事を神と崇め奉らせてもらうわ」
と周平も笑いながら応えた。
「それにしても迷うな……どの占い師が良く当たるんだ?」
チケットを買ったは良いが、周平に占い師のあてがある訳ではない……と言うか全くない。
「まあ、どの占い師にあたるかも含めての運命だからな。お前が良いと思ったのにしたら?」
と、颯太は他人事のように応えた。
事実、颯太にとっては他人事だ。占いには何の興味も無かった。
周平がある占いブースの前で立ち止まった。
そのブースは四方をつい立てて囲まれていて外からは中が覗けないようになっていた。
入り口はカーテンで目隠しが出来るようにされていたが、その時はちょうど開いていた。
たまたまその前を通りかかった周平が、そこの占い師と目が合ったようだ。
看板には「霊感占い・あつこ」と書いてあった。
他の占い師のブースには難しい漢字やカタカナとかで、それっぽい仰々しい名前が並んでいたがここは「あつこ」だった。それもひらがな。
「ここにするわ」と周平はほとんど即断で決めた。
そこには20代半ば位の長髪でおかっぱ頭の女性がTシャツにジーンズという姿で座っていた。
女性の前には白いテーブルクロスが掛かった小さなテーブルが置いてあった。
中に入るには靴を脱ぐようだったので、颯太は「面倒だな」と思って入るのを躊躇したが、一人で外で待つのも寂しいので靴を脱いで周平の後に続いて中に入った。
「あの~占って欲しいんですけど……」と周平がテーブルをはさんで切り出すとその女性は
「どうぞ。お座りください」と自分の前の席に周平を誘(いざな)った。
颯太は「どこにでもいる普通のお姉さんだなぁ。本当に占いできるのかぁ……全然それっぽくないぞぉ」と心の中で思っていた。
「お連れの方はその辺に座ってください」と言われ、颯太は手短なところに腰を下ろして胡坐をかいて座った。
「初めまして。あつこです。主に霊感占いをしています。さて、何を今日はお占いしましょうか?」
口調によどみはない。感情を表に出さないように表情も淡泊だが、緊張で表情が硬い訳ではない様だ。
もうそれなりに経験を積んだ占い師の様だと周平は思った。
「あの、大学に入学したんですが、本当にこの大学で良かったのか迷っています。もしかしたら浪人して上位校を目指した方が良いのではないかと思ったり……でもまた失敗したらどうしようとか思ったり……」
「そうですか……それでは、まず、ここに名前と生年月日を書いて下さい」
周平は机の上に差し出された紙に名前と生年月日を書いた。
「中山周平さんですね。生まれは5月5日。良い日ですね。まずこのまま今の大学が良いのか、それとも本当に行きたい大学に行く方が良いのか見てみましょう」
占い師あつこは自信を持った声でそう答えると、周平の顔をじっと見つめた。そして周平の右肩の上空を見て何かと確認しあっているような素振りをした。
「そうですね。このまま今の学校に行った方が良いとあなたの背後霊は言っています。」
「背後霊?」
「そう、分かり易く言うとあなたの先祖の霊です。」
「へえ。ご先祖様がそういうのかぁ」周平はちょっと驚いたように呟いた。
「はい。もし浪人して上位校を目指してもまた落ちるだろうとも言ってます」
「え、そうなんですか?」
「はい。あなたは根本的に勉強が嫌いだから浪人すると、成績が下がる事はあってもあがる事はないと言ってます。要するに浪人しても勉強しないだろうという事です。」
横で聞いていた颯太は笑いながら
「周平、厳しいご先祖様だな。」と横やりを入れた。
「うるさい!颯太……でも、そう言われたらそんな気もする。」
「俺もお前のご先祖様に激しく同意する。」颯太も頷いた。
占い師あつこは言葉を続けた。
「このまま、今の大学に通うとあなたはあなたの人生でとっても大きな影響を与える人に出会えると言ってます。」
「もしかして彼女ができるとか?」周平は尋ねた。
「そうです。彼女も出来ます。でも私が今言ったのは彼女の事ではありません。あなたの人生を変える可能性がある人物です。」
「どんな風に変わるのですか?」
「それは分かりませんが、悪い風に変わる事はないと思います。」
占い師あつこの物言いははっきりとそして自信満ちていた。
ここまで言われると嘘でも信じたくなる。
「いいじゃん。周平。彼女も出来るし、人生大きく変わるんんだろう?」
「うん。まあなぁ……」
颯太が占い師あつこに聞いた。
「彼女って美人ですか?そこまでは分かりませんか?」
「美人かどうかは好みですからね。でも美人の部類に入るでしょう。」
「顔って見えないんですか?」
「見えますよ。」
「え?分かるんだ。じゃあ、似顔絵なんか描けたりします?」今度は周平があつこに聞いた。
占い師あつこは嫌な顔見せずにもう一枚紙を取り出して、似顔絵を描きだした。
天井の角をじーと見つめてから紙に向かいボールペンを走らせていた。
暫くして
「絵は下手なんですよ」
と言って見せてくれた似顔絵はお世辞でも上手いとは言えなかった。
「これって美人の部類に入るんですかぁ・・・」と颯太は聞いた。
「ごめんなさい。絵が下手なもんで……」
「本当に下手ですね……」颯太は容赦がない。周平もそれを見て心の中で「俺の方が上手い」と呟いた。
「要するに、髪の毛が長くて、ちょっとえらが張っていて目が大きな女性ですか?」颯太が聞いた。
「そうです。えらが張っているのではなく、ちょっとぽっちゃり目ですけどあごのラインがはっきりしている女性です」
颯太は立ち上がり、占い師あつこからボールペンを貰うと新しい紙を貰ってテーブルの上で似顔絵を描きだした。
「こんな感じですか?」
「そうそう、目はもう少し吊り上がっているかな。鼻筋はすっきりと……眉毛はもう少し細くて良いわ……ああ、上手ぅ、そうそうそんな感じ」
と占い師あつこは明るい声で喜んだ。
「絵、上手なんだぁ」あつこは感心して颯太が描いた絵を褒めた。
「絵は自信がありますから」と颯太は応えた。
「え~そうなんだ。凄いなぁ」
出来上がった似顔絵はちょっと美人風だが性格はきつそうな女性の顔だった。
「あ、そんな感じ。うまいうまい!!」
と占い師あつこは喜んだが、さっきまでの占い師の雰囲気はみじんも無かった。
「なんか占い師の先生がその辺のお姉ちゃんみたいになってるぞぉ」と颯太が笑った。
「あ、ごめん。そうなのよ。元々占い師なんて柄じゃないからね。少しでもそれらしく見せようとしていたんだけど……ダメだなぁ」
「良いんじゃないですか?そっちの方が僕らは好感持てますよ。なあ周平」
「うん。ちょっと驚いたけど、俺もそう思う」と周平も頷いた。
「ありがとう。あなた方の前では普通でやるわ」
「それの方が良いとあなたの背後霊も言っている」と颯太が言った。
あつこと周平は一緒に笑った。
あつこは笑いながら
「そうかもぉ。そういう意味であなた方を連れて来てくれたのかも。そんな気がするわ。」
颯太は「なるほどね」と思った。
「しかしこの絵は美人かぁ?周平どう思う?」
「不細工ではないと思うけどなぁ……美人と言われたらなぁ……」
占い師あつこから普通の人あつこに戻ったあつこは
「実物は似顔より美人なの」
と否定した。
「まあ、とりあえず楽しみやん周平。これで彼女ができる事は確定したようなもんだし」
「まあなぁ……」と周平はイマイチ納得が出来ていないようだった。
「もっと美人に描いてくれたら良かったのに……」と恨めし気に周平は颯太の方を睨んだ。
「そんなもん知るか!俺は言われた通り書いただけだぞぉ」
「うん。颯太君の絵は上手だったよ」と占い師改め単なるあつこは言った。
「だから余計に現実に近いじゃないですかぁ……俺きつい女はダメなんだ」
「性格はきついと決まったわけじゃないだろう?その辺はどうなんですかあつこさん」
すでに颯太の中では占い師あつこは普通のお姉さんあつこになり下がっていた。
「う~ん。残念ながら性格はちょっときついかも……でもいい人みたいよ。はっきり言って、その時は周平君も大人になっているから好みも変わっているわ。女性を見る目も少しは出来ているし」
占い師あつこは単なる友達のあつこになっていた。
「そうかぁ……」と周平は何とか納得した様だった。
「ま、お前も早く大人になる事だな。」と颯太が周平をからかった。
「それよりも、俺の人生を変える影響力を持った人ってどんな人なんだろう……気になるなあぁ」
と美人か否かで話題が終わりそうなのに気が付いて周平は話題も戻した。
颯太にとっては周平の人生がどうなろうと知った事ではなかったのでどうでもいい話だったが、改めてそう言われると少しは気にしてあげよという気持ちになった。
「周平の人生を変える人ってどんな人なんですか?」と取って付けたように颯太も聞いた。
「う~ん。そうねえ。年上の……先生、教授かな?兎に角、周平君が尊敬するような人ね。将来の仕事についてかもしれない。」
「それって分かるもんなんですか?この人だ!!って」
周平も身を乗り出して聞いてきた。
「そんな感じではないなぁ……どちらかと言えば、最終的にはそうなっていたみたいな感じかな」
「じゃあ、ドラスティックに人生が変わるという訳でもないんですね」
「そうだね。ドラスティックな感じは全然しないわ」
「そっかぁ……」
ため息交じりに周平は納得した様だった。
ーどんな風に変わるんだろう……まあ、悪くは変わらないって言っていたからなぁ。それで良いかー
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