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あたしらが事件を起こしてどうすんだ!?編

第12話「激おこシーちゃん!? ほうれん草おいしいなぁ!」

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 あたしは、カバさんに変身して校舎の一番高い場所でみんなの注目を引いた。
 学校中の生徒が見ているから、もう誰もカバの存在を疑わないはず。
 そして頃合いを見計らって、カバさんの姿のあたしは、中庭の方へとジャンプ。
 落下している間にもう一度、スズメに変身して、そのまま目立たない場所まで飛んで行ったというわけ。
「実は地面に激突するんじゃないかって、すごくこわかったんだけどね。うまくいってくれてよかったぁ」
「なにも、よくなんかないわよ!! なんてことしてくれたの!!」
 ひえぇぇぇぇ!
 シーちゃんが、めちゃくちゃ怒ってる!!
 ここは、あたしの部屋。
 カバさんの騒動のあとに、おうちに戻ってきたところだ。
 シーちゃんは椅子の上にちょんと座り、あたしはカーペットの上に正座させられていた。
「あなたねぇ! ほんとに、もう! なんてことを!!」
「だって……あのままだったらユカリちゃんが、うそつきのままになっちゃうんだもん。ああやって、みんなの前にカバさんの姿を見せれば、ユカリちゃんがうそを言ってないってわかってくれるでしょ?」
「ユイの言うこともわかるけど! 私たちは魔法のアイテムが引き起こす事件を解決するのが仕事なのよ! それなのに、あなたが事件を起こしてどうするのよ!!」
「そ、それは……ほんとに、ごめんなさい」
「ごめんで済めば、ルミナス・セイバーはいらないのよ!! このおばか!!」
 ひぃ!?
 かわいいぬいぐるみの姿なのに、なんておそろしい迫力!?
 その迫力を前に、あたしはとにかく謝るしかなかった。
「ごめんなさい。あたしのせいで、ユカリちゃんをかわいそうな目に合わせているのが耐えられなかったんだよ。ユカリちゃんは何も悪くないのにさ」
 シーちゃんが、「はぁ」と重いため息をついた。
「ユイの友だちを思う心とか、そういう優しい面は評価しているわ。でなければ、私の代わりをお願いしたりしなかったもの。今回の件も、ユカリって子を思っての行動だっていうのは理解しているわ」
「よ、よかったぁ! わかってもらえて!」
「だ・け・ど!! 理解はしても納得はしてないからね!! この、おばか!!」
 ひい!?
 また怒られちゃった!?
 ぬいぐるみの目がなんだか逆三角形になったような気がする!?
 あと鬼の角みたいなのも生えてるイメージが伝わってくる!?
 うちのお母さんの次にくらいにこわいよぉ!!
「そもそも! 私になんの相談もなしに行動したのが一番、気に入らないのよ! どうして一言、私に相談してくれなかったのよ!!」
「だって、あたしがしようとしてることを相談したら、シーちゃんはあたしのこと止めたでしょ?」
「そりゃそうでしょう!」
「ほら! やっぱり! 相談したって、けっきょく同じことじゃんか!!」
「同じじゃない!!」
 シーちゃんの声の感じが変わった。
 その雰囲気の変化に、息を呑んでしまう。
「あのとき、ユイがやろうとしたことをそのまま実行するのだったら、私は止めたわよ。でも相談してくれれば、もっと良い考えを思いついたかもしれないじゃない。私たちは出会ってから日が浅いけど、それでも今はパートナーでしょう。ひとこと相談してほしかったわ」
「シーちゃん……。そうだよね。あたしたちパートナーだったはずなのに、相談もせずに自分の考えだけで動いちゃった。ほんとうに、ごめん」
 あのとき、もっと冷静になってシーちゃんにユカリちゃんのことを相談していれば、あんな大騒ぎを起こさなくて済んだかもしれないのに。
 ほんと、あたしっておバカだな……。
「謝るのは私もよ」
「え? シーちゃんが? なんで?」
「そもそも、この世界では珍しい存在のカバの姿に変身したのがまずかったのよ。こちらの世界の事情に詳しくないのだから、どんな動物なら目立たずに学校の中を見回れるかと事前に相談していれば、めんどうなことにならなかったはずだもの」
 それもそうだよね。
 前もって相談してくれていれば、カバさんには変身させなかった。
 相談さえしてくれていれば、どこにいてもおかしくないスズメや猫なんかに変身したらどうかなって、提案していたはずだ。
「そっか! 元はと言えば、シーちゃんがうかつなのがいけなかったんだよね!」
「う、うるさいわね! 私が言いたいのは、とにかくふたりの連携が上手くいってなかったってこと! お互いに、相談するべきことをしなかったのがまずかったってことよ!」
「その結果が、今日のカバさんパニックだもんね。ごめん。今度からは、ちゃんとシーちゃんに相談するよ」
「私も今度から何か行動するときはユイに相談するわ。私もユイも、パートナーへの『ホウレンソウ』を大切にしていきましょう」
「ほうれん草! 美味しいよね! ほうれん草! あたし、ほうれん草大好きだよ。ポン酢をちょいちょいってつけて食べても美味しいし、胡麻和えにしたのも好き! あれ? でも、ほうれん草を大切にしていくってどういう意味?」
「ちがうちがうちがうちがう。『ホウレンソウ』はお野菜の『ほうれん草』じゃなくて、一緒に何かに取り組む際に、とても大事な3つの要素『報告、連絡、相談』の最初の1字を繋げたものよ。こっちの世界でも、使われてる言葉のはずだと記憶してるんだけど」
「ああ! なんか聞いたことあるよ! アヤちゃんが委員会の集まりの時に『ホウレンソウを徹底してください!』って言ってたけど、あれって『報告、連絡、相談』って意味だったんだねぇ」
「つまりね。これからは、何かあったときは報告と連絡と相談をしっかりしていきましょうって言ってるの。でないと、今回みたいなグダグダなことになりかねないもの」
「わかった! 報告、連絡、相談だね! きちんとやってみるよ!」
「ええ、私もしっかり心がけるわ。だって、私たちパートナーなんですものね」
「そうだよね! これからは、ホウレンソウを大事に一緒にがんばってこう!」
 今日は、あたしのせいで大変なことになっちゃったけど。
 こうやって話すことで、シーちゃんとの距離がすこし縮んだような気がした。
 雨降って地固まるってやつ?
 明日からもふたりでがんばっていこう!


 読んでくださりありがとうございます!
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