27 / 63
第1話 夕希
27
しおりを挟む書き写したメモの住所は、夕希の脳にインプットされていた。
タクシーでその場所を告げ、家の近くで降ろしてもらう。まだ新しそうな淡いブルーの壁にダークグレーの屋根の家の表札には、淳弥と麻衣香、そして結衣の名が刻まれてる。
昨夜見かけた白い車も、ガレージに収められ、脇には自転車と三輪車。
(これが淳さんのもうひとつの家なんだ…)
さりげなく通りすがっただけで、わかってしまったこれだけの情報。
怒りと哀しみ、絶望と罪悪感、様々な感情に夕希の心は揺れ動く。心を落ち着かせるように、深呼吸して前を見ると、琢朗が心配そうな目つきで夕希の顔を覗き込んでいた。
「ひでえな」
夕希の意見を代弁してから、「ぼこっちゃおうか? 俺意外と腕力あるよ?」琢朗は法科の学生らしからぬ過激な意見を述べる。
ひとりじゃなくて良かった。自分ひとりだったら、到底受け止め切れなかった…と、夕希は琢朗のお節介に感謝して、くすっと笑う。
「…暴力はダメだよ。淳さんと話したい」
ことここに来て、淳弥も嘘を吐いたり逃げ隠れしたりしないだろう。夕希はスマホを取り出す。
気付かなかったが、昨夜遅く淳弥からラインのメッセージが入ってた。
――出張なので、しばらく留守にしてます。おみやげ買ってくるね
何も知らなければ、にやにやして読んだであろう、メッセージが今は虚しい。
基本的に淳弥は優しいし、まめだ。でも、その優しさは使い方も向ける相手も、間違ってる…白い車の脇に置かれた小さな自転車を見たら、夕希は居た堪れない気持ちになった。
家の周囲にめぐらされたラティスに手を掛け、じいっと中の様子を窺っても、レースのカーテンに遮られて、淳弥の様子は見えない。
「…突撃しちゃう?」
せっかちにも琢朗が表札の脇のブザーを押そうと人差し指を伸ばす。
「ま、待ってよ」
まだ心の準備が出来てない。慌てて夕希が琢朗を制止する。
「何だよ、ここで帰るなら何のために…」
「ま、待って。今、淳さんのところにライン…」
押し問答をしてた時だった。庭に面したリビングの窓が開いて、そこからランドリーバスケットを抱えた女性が出てくる。
(…麻衣香さん!)
人の家の玄関先での不審な人物に麻衣香も何かを感じたのか。
一旦、カゴをリビングに戻すと、夕希達の方に寄ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる