政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏

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⑪小さな国の大きな矜持 Ⅱ

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ソフィアの婚礼の条件を、セオドアとて喜々として受けいれたわけではない。
父と自分を並べ、威圧的にレイモンドが出してきた屈辱的な条件は、この2年、脳裏にこびりついて離れたことはない。

『これで私たちは縁戚となる、めでたいことだ、そう思わぬか? セオドア殿。ついては、こちらからお願いしたい儀がある。何、大したことじゃない。アルノルド国王フィリップ殿はお体が弱い。早々に王の位を辞され、セオドア殿に譲られてはいかがかな? そしてセオドア殿は一刻も早く我が娘との間に、子を成し、その子を王太子にしてほしい。――不遜な輩が身を弁えぬ野望を抱かぬように…』

ぎろっと睨みを利かせたレイノルズは何もかも知っているのだと思った。アルノルド国王の地位の脆弱さも、ライアンと言う、国王の地位を狙っている男がいることも。


セオドアに出来た唯一の抵抗が、妻ソフィアとの間に子を作らぬようにすることだけだった。

生まれた子どもは、今のままでは争いの種にしかならない。せめて、ライアンを追い出すか、他の貴族達すべてがレイモンド王国との同盟に得心してくれるまでは――それが、セオドアのレイモンド王国に対する意地でもあったし、母国アルノルドの平和を守るためでもあった。


「私が不甲斐ないばかりに、ソフィアには寂しい思いをさせたままだった…」
「妃殿下はわかっておられると思います」
「そうか?」

いつもいつも涙ぐみながら、自分におんなとして扱ってほしいと訴えてくる姿しか、思い浮かばないが。
政略結婚であっても、夫とわかりあいたいというソフィアの願いを、結局セオドアは踏みにじったままだった。
もっと早く…、あとこれだけ時間があったら…などと、悔やんでも悔やみきれない。こうなってしまっては。


「縁がなかったと思うしかないだろうな…」

国を追われた王太子なんて、なんの価値もない。ソフィアはここに残って暮らすのがいい。いずれまた、父のレイノルズがソフィアに相応しい相手を見繕ってくるはずだ。


「これで見納めかな」

眠ってるソフィアの前髪をかき上げ、優しく額を撫で挙げた。

「ソフィーはまだ若い。薄情な夫のことなどすぐに忘れるだろう」

自分に言い聞かせながら、ずきずきと胸が痛んだ。

口に出して言ったこともないし、夫婦らしいことも何一つしなかったが、セオドアはソフィアを愛していた。
愛されて当然という大国で何も苦労せずに育った姫君特有の甘えも、我儘さも、セオドアには可愛らしく見えた。一度きりで子が出来るわけではない。何度欲望に負けそうになったかしれない。それでも、一度抱いてしまえば、堰を切って流れ出しそうになる己の欲望が怖くて、結局、ソフィアには寂しい思いをさせたままだったが。


「ソフィア様をここに置いて行かれるのですか?」
「内乱の起こった国になど、連れて行けないし、何よりレイノルズ王がお許しになるわけがない」

未練なさげなセオドアのセリフに、クロードは残念そうな顔をした。
クロードにはソフィアの護衛をよく命じたから、彼女の気持ちを知っている。セオドアの決断が歯痒いのだろう。


「…殿下はどうなされます?」
「決まってる、国を奪い返す」

王太子夫妻不在の今を、ライアン達は好機と捉え、クーデターに踏み切ったのであろうが、逆に言えば、最大の反撃者を彼らはみすみす取り逃がしていることになる。

反乱軍に加わらなかった者、意に反して反乱軍に従った者、いろいろいるはずだ。彼らの気持ちを奮い立たせるには、やはりセオドアがアルノルドに戻るのが一番であろう。むろん、単騎ではなく兵を従えて。
セオドアに力を貸してくれる者はまだ、きっといる。セオドアは先ほどからずっと、その者たちの顔を思い浮かべていた。
まず誰に相談するか。ライアンに内通している者だったら、逆に敵側に引き渡されかねない。人選は慎重に行わねばならない。

ここを出て、まずは何処に落ちていくか。セオドアが考えあぐねていた時だった。


「父を頼ってくださいませ」

凛とした声が、はっきりとセオドアの耳朶を打った。


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