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第5章 未知なる猛獣との遭遇
②
しおりを挟む「えっと、御園さん。婚約者とのことで困ったことがある、としか智ちゃんからは聞いてないんだ。詳しい事情話してくれる?」
一服終えた冴木さんは、宣言通り頭がクリアになったのか、私にそう尋ねてきた。
もっと詳しく話しちゃって良かったのに。私のプライベートへのマスターの気遣いに感謝しつつ、私はこれまでのこと、そして透から慰謝料をもらいたいことを冴木さんに話す。
全て話終えると、冴木さんはイライラしたようにこう言い放った。
「くずだね、その男」
はい、私もそう思い始めてきたところです。
私の側の事情を掴むと、冴木さんは私にいろいろ教えてくれた。
婚約者からの慰謝料が発生するケースについて。
これは客観的に「婚約していた」とわかる事実がないと難しいらしい。結納を交わした、とかエンゲージリングをもらった、とか式場の予約をしてある、とか。
私の場合は両家顔合わせも済んでいて、エンゲージリングはないけれど、婚約記念品として時計を交換しているし、式場予約も済んでいるから、問題なくクリア。
次に慰謝料なんだけど。
「どのくらい欲しいの?」
単刀直入に聞かれると、答えに詰まってしまう。
「人生狂わされてるので、本当なら彼の年収分くらいは、ぶんどってやりたいです」
「あはは。正直でいいね。けど、結婚していた方が人生狂わされてたかもしれないよ。ばかな男との結婚程、女の人生狂うものないからね」
「た、確かに」
一方的に婚約破棄を告げられた時は、ムカついたし、悲しみも大きかったけれど、今となっては、結婚しなくて良かった…という思いの方が強い。
「こっちも雑巾みたいに搾り取ってあげたいんだけど、どうしても婚姻関係と比べるとね、婚約関係は相場が低いんだよね。共有の財産もないし、時間も短いしね」
けど、私のケースはかなり悪質な部類に入るから、100万くらいは請求していいと思う、って話だった。
「100万ですか」
100万かあ。意外と少ないんだなあ。
別に、お金が欲しいわけじゃないんだけど、この精神的苦痛も、お金に換算すると、そんなものなのか…と。
正直、物足りない、って思いが声に出てたんだと思う。冴木さんは私に別のアドバイスをくれた。
「この相手の女にも慰謝料請求する、って言うのは?」
それはまさにエアポケット。
私が全く想定していなかったことだった。
憎しみのターゲットは、透と美雪、2人ともなんだけれど。慰謝料の請求は、透だけ。美雪には関係ないと思い込んでた。
「…出来るんですか?」
「会社の先輩の婚約者と知ってて、不貞行為してるわけだからね。まあ、こっちも結婚してるわけじゃないから、やっぱり額としては少額なんだけど」
「額の問題じゃないです」
わかる、と言いたげに、冴木さんは柔らかく目を細めて、大きく頷く。あれ、この笑い方、誰かに似てる…?
ふっと重なった影を、私が追いかけるより早く、冴木さんは「よしっ!」と大きく頷いて立ち上がった。
「燃えてきた~~~~~。まずは慰謝料の請求からね。咲良ちゃん! 二人でガンガン責めたてて、じゃんじゃん搾り取ろう」
「はいっ!」
「どうする? 書面で送る? 直接対決? 直接が怖かったら、私が入ってもいいし。やり方はいろいろだけど」
「…透…元婚約者には、今週末直接会う機会があるので、その時に伝えたいと思ってるんですけど」
「OK。けど、その時もお互い話した内容を、後でちゃんと確認出来るように、ボイレコは持ってた方がいいよ」
「はい」
そう言われて、私はメモを取る。
「白井さんて人には…?」
「あ…」
直接対決したい。でも、まずは透との話し合いに全力尽くしたい。
「考えてからでもいいですか?」
「もちろん。じゃあ、元婚約者への請求書だけは作っておいてあげるよ。口頭で額を伝えるより、弁護士が入ってる、ってわかった方が、向うも本気でやばいと思うだろうから」
「ありがとうございます」
他にも透と対峙した時のアドバイスをいくつももらって、私は冴木法律事務所を後にした。
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