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第5章 未知なる猛獣との遭遇
①
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午後2時を少し過ぎた頃。
私はスマホのナビを見ながら、ビル街を歩いていた。
目指すのは、人生初の訪問となる弁護士事務所。さっきマスターから紹介してもらったところだ。
冴木光さん
まるで芸名みたいな名前の弁護士さんだなあ。
その方の開いてる事務所が、この辺りなのだ。マスターにもらったメモから連絡先にすぐに電話してみたら、事務員らしいお姉さんが出て、今日のアポイントを取ってくれたのだ。
動くなら早い方がいいもんね。
しかし、どうしてビルってこう同じようなのばっかりで、しかもわかりやすくビル名を書いておいてくれないんだろ。
そんなことを思いながら歩いていると、まだ新しそうなシルバーのオフィスビルが目に入った。一階はフラワーショップと美容院になっていて、ビルへの入り口は、その間の自動ドアがある。
ナビも案内を終了してしまった。
ここで間違いないのかな。中に入って、エレベーターホール脇の各階の案内を確かめると、21階に冴木法律事務所とあった。
エレベーターで上がって、受付の女の子に「電話した御園です」と告げる。
「御園様、お待ちしてました」
凄く丁寧に案内された事務所は、壁一面が窓になっていて、その窓に添うように、相談用のテーブルとソファが配置されてる。そして、壁にはぎっしり法律関係と思われる本とファイルが並べられてる。
「少々お待ちください」
と受付の女の子がコーヒーを出してくれた。カップを口につけようとした瞬間。
「だから、そんなこと出来ない、つってんだろ、このすっとこどっこい」
今時耳慣れない罵倒の言葉が聞こえてきた。
まだ近くにいた受付の女の子が「ああ…」と小さくため息をついた。思わず、当たりを見回してみる。どうやらもう一方の壁の奥に、もう一つ部屋があり、声はそこから響いてるようだ。
何となくマスターの言った『猛獣みたい』を思い出してしまう。けど。今の声、女性だったような…。
もう一度確かめる間もなく、その声は聞こえなくなって、約束の時間のちょうど3時に、その部屋から綺麗な女性が出てきた。
年は30前半…いや、後半かな。目鼻立ちが大きくて、肌は白く、オレンジ色のど派手なスーツを着ているけれど、それが全然浮いてなくて、似合ってる。
(秘書さんかな)
と、ここまで来ても私はまだそう信じてた。
すぐに彼女はこっちに近づいてきて、私の席の前に立ち、名刺を一枚差し出した。
「冴木光です」
名刺を出されながら、名乗られても、まだピント来なかった。
「え?」
自分の思い描いていたイメージとのギャップに、私はどう反応していいか戸惑う。
だって、だって、男の人じゃなかったの???
「御園咲良さん…でしたっけ。どうぞ」
鮮やかなブルーのネイルに白いストーンがちりばめられた指先を、ソファに向けて、彼女が私に促した。
「は、はい」
言われるままに、私は腰を落とした。
私が座ると、彼女もすぐにソファに腰掛ける。
すぐに相談になるのかと思ったら、違った。
「悪いんだけど、一服いい? これやんないと、頭、クリアにならないんだよね」
脇に抱えてたポーチから取り出したのは、マルボロメンソールとゴールドのライター。
いや、商談の前後でタバコ吸う人いるし、こういう申し出にも慣れてるからいいんだけど。
「ど、どうぞ」
「ありがと。最近嫌煙のクライアントも多いから助かるわ」
艶やかな唇から、冴木さんはおいしそうに煙を吐き出す。
「やー、今日もホントは忙しいんだけど、智ちゃんの紹介だと断れなくてさ」
「智、ちゃん?」
それがマスターこと森智之さんのことだとわかるのに、30秒を要した。
「あ、は、はい。マスター…じゃなかった、森さんが教えてくれて」
マスターとどういう関係なんだろう、この人。
年は…同じくらいか、冴木さんの方が、ちょっと若いのかな。
「なんつってた? どうせ失礼なこと言ってたでしょ」
「え?」
猛獣云々は黙ってた方がいいのかなー。
うん、黙ってよう。
「まあ、いいんだけど。コーヒー淹れるしか能のない男に、何言われても」
悪口には毒舌を。なんだろうか。冴木さんはそう毒づきながら、タバコの先端を灰皿に押し付けて火を消した。
ま、ますますマスターとの関係が???で、私はもう自分の依頼内容なんて忘れそうだった。
「じゃあ始めましょうか」
冴木さんは私に、ぞくっとするような凄みのある笑みを向けた。
私はスマホのナビを見ながら、ビル街を歩いていた。
目指すのは、人生初の訪問となる弁護士事務所。さっきマスターから紹介してもらったところだ。
冴木光さん
まるで芸名みたいな名前の弁護士さんだなあ。
その方の開いてる事務所が、この辺りなのだ。マスターにもらったメモから連絡先にすぐに電話してみたら、事務員らしいお姉さんが出て、今日のアポイントを取ってくれたのだ。
動くなら早い方がいいもんね。
しかし、どうしてビルってこう同じようなのばっかりで、しかもわかりやすくビル名を書いておいてくれないんだろ。
そんなことを思いながら歩いていると、まだ新しそうなシルバーのオフィスビルが目に入った。一階はフラワーショップと美容院になっていて、ビルへの入り口は、その間の自動ドアがある。
ナビも案内を終了してしまった。
ここで間違いないのかな。中に入って、エレベーターホール脇の各階の案内を確かめると、21階に冴木法律事務所とあった。
エレベーターで上がって、受付の女の子に「電話した御園です」と告げる。
「御園様、お待ちしてました」
凄く丁寧に案内された事務所は、壁一面が窓になっていて、その窓に添うように、相談用のテーブルとソファが配置されてる。そして、壁にはぎっしり法律関係と思われる本とファイルが並べられてる。
「少々お待ちください」
と受付の女の子がコーヒーを出してくれた。カップを口につけようとした瞬間。
「だから、そんなこと出来ない、つってんだろ、このすっとこどっこい」
今時耳慣れない罵倒の言葉が聞こえてきた。
まだ近くにいた受付の女の子が「ああ…」と小さくため息をついた。思わず、当たりを見回してみる。どうやらもう一方の壁の奥に、もう一つ部屋があり、声はそこから響いてるようだ。
何となくマスターの言った『猛獣みたい』を思い出してしまう。けど。今の声、女性だったような…。
もう一度確かめる間もなく、その声は聞こえなくなって、約束の時間のちょうど3時に、その部屋から綺麗な女性が出てきた。
年は30前半…いや、後半かな。目鼻立ちが大きくて、肌は白く、オレンジ色のど派手なスーツを着ているけれど、それが全然浮いてなくて、似合ってる。
(秘書さんかな)
と、ここまで来ても私はまだそう信じてた。
すぐに彼女はこっちに近づいてきて、私の席の前に立ち、名刺を一枚差し出した。
「冴木光です」
名刺を出されながら、名乗られても、まだピント来なかった。
「え?」
自分の思い描いていたイメージとのギャップに、私はどう反応していいか戸惑う。
だって、だって、男の人じゃなかったの???
「御園咲良さん…でしたっけ。どうぞ」
鮮やかなブルーのネイルに白いストーンがちりばめられた指先を、ソファに向けて、彼女が私に促した。
「は、はい」
言われるままに、私は腰を落とした。
私が座ると、彼女もすぐにソファに腰掛ける。
すぐに相談になるのかと思ったら、違った。
「悪いんだけど、一服いい? これやんないと、頭、クリアにならないんだよね」
脇に抱えてたポーチから取り出したのは、マルボロメンソールとゴールドのライター。
いや、商談の前後でタバコ吸う人いるし、こういう申し出にも慣れてるからいいんだけど。
「ど、どうぞ」
「ありがと。最近嫌煙のクライアントも多いから助かるわ」
艶やかな唇から、冴木さんはおいしそうに煙を吐き出す。
「やー、今日もホントは忙しいんだけど、智ちゃんの紹介だと断れなくてさ」
「智、ちゃん?」
それがマスターこと森智之さんのことだとわかるのに、30秒を要した。
「あ、は、はい。マスター…じゃなかった、森さんが教えてくれて」
マスターとどういう関係なんだろう、この人。
年は…同じくらいか、冴木さんの方が、ちょっと若いのかな。
「なんつってた? どうせ失礼なこと言ってたでしょ」
「え?」
猛獣云々は黙ってた方がいいのかなー。
うん、黙ってよう。
「まあ、いいんだけど。コーヒー淹れるしか能のない男に、何言われても」
悪口には毒舌を。なんだろうか。冴木さんはそう毒づきながら、タバコの先端を灰皿に押し付けて火を消した。
ま、ますますマスターとの関係が???で、私はもう自分の依頼内容なんて忘れそうだった。
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冴木さんは私に、ぞくっとするような凄みのある笑みを向けた。
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