AIに意識を移植されたのでちょっと異世界に行ってきます

鉛風船

文字の大きさ
5 / 15
異世界へ

#5 救命

しおりを挟む
 少女はまだ生きている! しかし、急速に脈拍が低下している。このままいけば、三分も持たないだろう。俺は八咫烏を呼び出した。

「この子を助ける手段はないか? 見ての通り腹部からの出血が激しい。出来れば、意識を回復させてやりたい」

『ではまず、傷口を見ましょう。マスター、生体ケーブルを彼女の傷口から接続させてください』

「わかった!」

 俺は血塗れの服を剥ぎ取り、それから生体ケーブルを少女の傷口から体内に挿入させた。そして、体温が逃げないよう優しく全身を冷凍カプセルのように包み込んだ。

 血色が悪い。出血が多すぎる。こうしている間にも俺のスライムの体に少女の血液が溜まり、俺は急ぐ気持ちを抑えつつ、怪我の具合を調べにかかった。

 少女の着ている服は見慣れない生地で出来ていた。

『データベースには無い生地ですね』

 俺は八咫烏を無視して、脱がした服を横に吐き出した。傷は腹部に受けた銃創の他に、頭部への強い打撃による内出血があった。俺は八咫烏に言われるよりも前に、まずは腹部へナノマシンを送り込んだ。銃創は骨盤を砕き背中より貫通していた。

 銃創は入口より出口の方が酷い、というが全く持ってその通りだ。少女の背中から砕けた骨盤が見える程の重傷を負わせていた。

 ナノマシンには傷の修復と傷が回復するまで、体組織の代わりとして活動するように、命令を出した。

 ナノマシンが仮の体組織を形作るまでに時間がかかるので、俺は溢れた少女の血液をかき集め、その中に大量のナノマシンを溶け込ませた。ナノマシンは死んだ赤血球を取り込み、構成をコピーして人口赤血球となる。これは短時間しか持たないが、今はそれだけでも十分だ。全身に酸素を届けてくれ!

 こうして出来た人工血液を腕の静脈から注入していくと、少しではあるが、その血色が元に戻ったような気がした。よし、これで少しは時間を稼げるはずだ。

「これからどうすればいい?」

『……マスター……非常に申し上げにくいのですが……脈拍を計測してみてください』

「脈拍だと?」

 俺は即座に理解した。ハッとして確認するも少女は既に事切れていた。

「何でだよ! 今さっき顔色が良くなったばかりだぞ!? 助ける方法は無いのか!?」

 こんなことがあっていいものだろうか。少しおふざけが過ぎている。この少女たちは何なんだ? 何故ここにいる? 誰が彼らを撃った? これは決して一人では出来ない。少なくとも六人以上の、それも対物ライフル並みの銃を使わないとこうはならないぞ。

 俺は治療を止めなかった。止められなかった。ずっと続けていればまた心臓が動き出しそうな気がしたのだ。俺は急ピッチで体組織の修復を進めていった。

『……マスター……その行為に意味があるとは思えません……が、それが人間というものなのですか? 私は人工知能なので、自ずと最適解を選択しようとしてしまします。ですが、マスターと過ごした四年間の中で少し感化されたのかもしれません。私にも彼女を助けたいと思う感情が湧いてきました。そこで一つ提案をしてもよろしいでしょうか?』

「提案?」

『単刀直入に申し上げますと、私たちで心臓を造るのはどうでしょう?』

「心臓を……」

『はい、この少女はまだ心停止してから一分も経っていません。十分な傷の処置が出来れば、脳が死なない内に蘇生することが可能かと』

「そんなことが出来るのか?」

『成功する確率はお世辞にも高いとは言えませんが、試してみる価値はあると私は考えます』

 ナノマシンは本来医療用に開発されてあるので、人体への拒否反応が起こらない有機金属で造られている。それのお陰で、自己増殖や、自己破壊、はたまた他の有機物へと成り代わることが出来る機能がある。

 それを用いれば、つまり彼女の心臓も骨盤もナノマシンで代用してしまえば、彼女を蘇生させることも不可能ではなくなる!

 俺はすぐさま作業に取り掛かった。そして、内臓や体の細胞が死滅してしまわないように強制的に人工血液を循環させ、酸素を全身に送り出し、何とか体の状況を保っている間に胸部を切開し、生体ケーブルで詳しく調べ、それを元に人工心臓を作成した。

 それと同時に骨盤をはじめとする各部位の修復も完了した。俺は切開された胸に元通り心臓を戻し、ナノマシンで切開面を癒着させた。後は俺が新しい心臓へ合図を送れば、心臓が動き出し彼女の血液も元に戻る算段だ。

 俺は拍動開始の信号を送った。

 果たして…………少女の胸が微かに上下した。

 俺は小躍りしたくなる気持ちを抑え、心中で最大限に跳び回った。こういう時に俺の心に干渉出来る八咫烏は役に立つ。俺は八咫烏と二人で最大限に喜びを分かち合い、互いを労い、褒め称えた。

 俺は少女の頭にある内出血もナノマシンを用いて血を抜き、その辺の死体から失敬した衣服の切れ端で結わえてあげた。

 少女の胸にある切開の傷跡もナノマシンが綺麗さっぱり消してくれたので、今後を心配する必要もないはずだ。俺は少女が冷えないように程よい温度に保ちながら彼女を包み込んでいた。目が醒めるまでこのままでいいだろう。

 暫くして、俺は少女のことを観察してみることにした。特にいやらしい意味は無いが、勝手に人体改造をした手前、今後のケアも含めての行動だ。

『本当ですか?』

 うるさい。

 少女の髪の毛は燃える様に赤い。根元から毛先まで真っ赤な紅葉の様だ。少女はそれを背中位の位置で切り揃え、邪魔にならないように緩く纏めている。顔も小振りで、細く伸びる赤い柳眉が同じく赤い髪に映えた。

 すっと一本筋の通った綺麗な鼻の下には、これまた小振りの可愛らしい口がちょこんと付いていた。

 首から肩にかけての筋肉は薄く、浮き出る鎖骨は水も溜まるや、と思う程美しくある。手がすっぽりと収まる位の程よい大きさの乳房、その上にあるまだ赤子にも吸わせたこともなかろう乳首は桜色だった。

 夜空に浮かぶ望月も斯くやと思う程眩しい肌は己の血液ですら弾き、汚すことは無い。女性にしては珍しく両腕の筋肉が発達していた。掌にあるまめから推測するに、彼女は剣を握っていたのだろう。

 浮き出るかどうかのあばらからすうっと下に伸びたさらさらの腹は健康的な骨盤へと続き、少女の健康状態を窺わせる。薄くて柔らかい和毛にこげは足の付け根の三角州にひっそりと身を横たえ、大事な中身を隠しきれていない。

 程よく付いた太腿、脹脛ふくらはぎの筋肉は彼女が剣術だけではなく、体術も研鑽していることが見て取れた。歳は十七八歳位に見えた。

 ふむ、俺は一通り観察を終えてある事に気が付いた。

 どうやら性欲が完全になくなっている。俺が人間だったときではあり得ないことだった。もしかすると今の姿が人間ではないからかもしれないが、それよりも可能性としてあるのは、意識を移したときに現れた副作用だろうか。

 俺が八咫烏に聞いてみたところ予想通りの反応が返ってきた。しかし、立ち返って考えてみると、性欲のあるスライムとか唯のエロ漫画じゃねえか。良かった、性欲が無くて。

 俺はその後も彼女が目覚めるのを待っていた。少女が着ていた服は血みどろの破れかぶれなので、服を着せようにも着せられない。まあ、この問題は後回しでもいいだろう。

 俺はいつまでもここにいるわけにはいくまい、と思い再び、出口を求めて移動を始めることにした。本当は彼女の目覚めを待って、少女たちがどこから来たのかを聞き出した方がいいことは目に見えているが、俺は忍耐力というものが無かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...