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異世界へ
#11 報告と拘束
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エリシャが国のお偉いさんの一人娘だと聞いても俺は驚かなかった。物腰や言葉遣い、健康状態が良かっただけに、若しかしたらお金持ちの娘なのかな、と考えていた。一つ予想外だったのは、お金持ちどころか俺が今いる国の二番手だったということだ。
俺は声には出さなかったが、エリシャの隣で縮こまっていた。そりゃあそうだろう。四年前は身分制度のない日本にいたのだから、私が上級国民です、と言われてもピンとこない。だが、こうして身分制度のありありと残る異世界に来てみると、その現実感のなさに驚いてしまう。
俺とエリシャが案内された天幕の一間には、大きな机と一人掛けの椅子が九脚並び、上座にはドラ司令官が座っていた。ドラ司令官はエリシャを上から下へ眺めると、あからさまに嫌な顔をした。俺はどういうことだ? とエリシャの方を見るが、当の本人は慣れているのか、不安げになる様子もなく、ドラ司令の鋭い三白眼を見返す。
今度は、ドラ司令は俺の方を矯めつ眇めつ舐める様に、じっくりと時間をかけて観察した。俺としては、体格の良いおっさんにひたすらに睨まれることなど好きではないので、一刻も早く止めて欲しかったが、止めてくれとは言えまい。
一通り満足したのか俺から目を離すとドラ司令は、ふん! と鼻を鳴らし、懐から葉巻を取り出してぷうかり、ぷうかりと紫煙を浮かべ始めた。着席の合図はなかった。
それが合図だったのだろうか――エリシャは部下の死をおくびにも出さず、淡々と任務が失敗したことを告げ、自分が死にかけたこと、俺に助けてもらったこと、俺は危険ではないことを報告し、自分をダンジョン遺物調査班に編入してくれ、と懇願していた。
「このロボットという生き物についてもっと調査したいのです」
へえ、ダンジョンの技術を扱うにはそれ専門の所に行かないといけないのか。確かに、それが決まり事としてあるのなら、それに従わなくてはならない。だからこその提案か。俺としてもエリシャを死から助けた手前、エリシャのことは最期まで見守りたい。人を超越し、寿命も肉体も無限に近い俺だからこその願いだ。
ドラ司令はエリシャの提案を受け、苦々しく葉巻を噛み締める。一体何が不満なのだろうか。やはりドラ司令を始めここにいる人たちのエリシャに対する態度は何やら不穏な匂いを感じる。言葉では言い尽くせない。それでも、強いて言うならば焼け焦げた血と骨の匂いだろうか。どうにも好きになれない匂いである。
「駄目だ、アルクドルクの娘よ。それは許可できん。お前には新しい部隊の指揮をして貰いたい」
すげなく断られた。エリシャは唇を噛んで、もう一度再考の余地がないか、と尋ねてみたが、ない、と切って捨てられた。そして、新しく取り出した葉巻に火を点ける。こうなれば取りつく島もない。
エリシャは俺の方を向いて視線で謝罪してきた。何を謝るのだろうか。俺はエリシャが何処に行こうとついていく気であるし、それを誰かに咎められる謂れはない。俺は大丈夫、と全身を震わせて返事をした。
「それにあたってそこにいるロボット? とか言う魔族は一度こちらで拘束させてもらう。アルクドルクの娘の言うことなど信用できんのでな。悪く思うなよ?」
床に熱源反応を感じた。紫色の魔法陣のようなものが床に浮かび上がり、その光の中から四本の鎖が飛び出した。だが、鎖は俺を捕らえるどころかそのまままっすぐにエリシャを拘束した。
「きゃああああ!」
俺はこの異常性を無視できなかった。この鎖は明らかな害意が含まれている。俺は眼前の机を一瞬で取り込んで燃料にし、ドラ司令の喉元に噛みつこうとした……がそれは出来なかった。
ドラ司令もまた呆気にとられ俺を凝視しているのだ。何故お前も驚いている? 何か訳があるのか? ええい糞! 噛み殺すのは悪手か!
しかし、謎の鎖はドラ司令が出したものに違いないので、俺はドラ司令に突進し、彼を押し倒した。人工音声を全身から発し威圧する。
「エリシャに何をした!」
「な、何故魔術が利かない! これは中級魔族をも拘束できる代物だぞ!」
「魔族なんて知るか! 早くエリシャを解放しろ! このままではエリシャが窒息死するぞ!」
視界を移せば、拘束されたエリシャは腕を吊し上げられ、その胴体に何重にも鎖が巻き付いている。このままではもう持たない。
「貴様は何者だ! ただのスライムな訳があるまい!」
「早く解放しろおおお!」
我慢しかねた俺は、ドラ司令から離れて直接エリシャに巻き付いている鎖を断ち切ろうと鎖に爪を立てる。しかし、鎖に傷を付けることは叶わなかった。否、触れることすらも叶わなかった。
「何っ!?」
「ふははは! お前は俺の想像魔法も効かない代わりに鎖に触れることすらも出来ないのか! これは滑稽だ! 忌々しいスライムはそこで黙って小娘が死ぬのを見ておけ!」
俺はドラ司令を巨大化させた尻尾で殴り飛ばした。気絶させれば、この鎖が消えるかもしれない。そんな淡い期待を込めた一撃だったが、現実は非情なようで鎖が消えることはなかった。
エリシャの口から唾液が漏れ始める。赤い瞳が白目を向き、ほとんど意識がない。辛うじて呼吸をしようと鼻腔が動いているが、上手く吸えていないのは明白だ。
そうだ! 鎖はこの地面から生えている。しかし、地面を貫通している様子がない。ということは、仕掛けは足元の絨毯の下だ!
俺は前足で思い切り鎖の根本の絨毯を切り裂いた。
果たして……鎖は消えて、エリシャが落ちてきた。俺はスライム状にしたナノマシンの弾力で彼女を受け止めると、そのまま包み込み、彼女の心臓と血液、その他のナノマシンに置き換えた体の部位に、機巧核から伸ばした生体回路を接続する。
心停止。
呼吸不全。
俺はすぐさま信号を送り、これら不具合を修正した。すると、呼吸も戻り、脈拍も正常に動き出した。
俺はエリシャの安全を考慮し、彼女をナノマシンで包んだまま機巧核と多少のナノマシンを切り離すと、会議室の隅へ安置する。
俺が切り裂いた絨毯をを見れば、そこには何やら魔法陣めいたものが縫い込まれた布切れが二つに別れて転がっていた。こいつが原因だろうか。ゆっくり考えたいが、今は無理だ。俺は会議室の入り口へ向き直った。
そこへ、待ち構えていたかの如く、大勢の兵と先程出会った祭司長が雪崩れ込んできた。
「何事ですドラ司令官!? まさか!?」
「全員先頭準備! この精霊を殲滅せよ!」
兵たちは俺に殴り飛ばされたことで天幕の壁を破り、奥の部屋に倒れているドラ司令を見止めると、各々で剣や槍、お札みたいなものを構える。俺を一斉攻撃できるように扇状に散開し、ちっぽけなスライム一匹に全火力を一斉に投射した。
振り抜かれる両刃の剣、突き出された三ツ又の槍、紫色に光る札から飛び出した稲妻が俺を切り裂き、貫き、焼く。しかし、俺はそんな攻撃など痛痒すらなかった。剣は俺を撫で、槍は腹をつつき、稲妻に至ってはボディの表面を流れて地面へ散っていった。
「そうした? それで終わりか?」
「いいや、まだだ!」
エーロ司祭の持つ札が緑色に輝く。よく見れば札に描かれた魔法陣のようなものが光っていた。エーロ司祭は俺に札を投げつけた。それは俺に張り付くと、強烈な光を発し……そのまま消えていった。
「ば、馬鹿な……わしの魔術が聞かないだと……?」
「なんだかよく分からないが、終わりってことだな? ならば俺は逃げさせてもらう。お前たちに付き合っている暇はないからな」
俺は分離させたナノマシンを取り込み、中のエリシャが無事なのを確認すると豹の姿に変身した。怖じ気づく兵たちを尻目に、俺はドラ司令を一瞥すると、ドラ指令は我に返ったようで、ふらつく頭を押さえながらフリントロック式の片手銃を俺に向かって発砲した。
無論、照準もままならないまま発車された弾丸は俺に当たる筈もない。狙いは外れて尻込みする兵の側頭部に直撃した。
と、ここで信じられないことが起こった。弾丸が兵に当たった瞬間、大爆発を起こしたのだ。その爆発量は優にダイナマイト一本分を越えている。俺はその程度で壊れるほどヤワじゃないので、爆風で吹き飛ばされた程度だが、兵たちはそうもいかなかった。
十三人分の死体が出来上がった。
通常、弾丸は対象に命中するとその推進力を破壊力に変え、内部を滅茶苦茶しながら体外へ突き抜けていく。当たり所が良ければ即死は免れるけれども、戦闘不能状態になる。そんな弾丸なのだが、今回発射されたそれは俺だけではなく、機巧核でさえも知らない種類の弾丸だった。
これも魔法なのだろうか? 現状、それでしか説明出来ないことに俺は歯噛みしつつも、俺は次弾が装填される前に逃げようと、天井付近の破れた天幕から飛び出した。
俺は声には出さなかったが、エリシャの隣で縮こまっていた。そりゃあそうだろう。四年前は身分制度のない日本にいたのだから、私が上級国民です、と言われてもピンとこない。だが、こうして身分制度のありありと残る異世界に来てみると、その現実感のなさに驚いてしまう。
俺とエリシャが案内された天幕の一間には、大きな机と一人掛けの椅子が九脚並び、上座にはドラ司令官が座っていた。ドラ司令官はエリシャを上から下へ眺めると、あからさまに嫌な顔をした。俺はどういうことだ? とエリシャの方を見るが、当の本人は慣れているのか、不安げになる様子もなく、ドラ司令の鋭い三白眼を見返す。
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一通り満足したのか俺から目を離すとドラ司令は、ふん! と鼻を鳴らし、懐から葉巻を取り出してぷうかり、ぷうかりと紫煙を浮かべ始めた。着席の合図はなかった。
それが合図だったのだろうか――エリシャは部下の死をおくびにも出さず、淡々と任務が失敗したことを告げ、自分が死にかけたこと、俺に助けてもらったこと、俺は危険ではないことを報告し、自分をダンジョン遺物調査班に編入してくれ、と懇願していた。
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へえ、ダンジョンの技術を扱うにはそれ専門の所に行かないといけないのか。確かに、それが決まり事としてあるのなら、それに従わなくてはならない。だからこその提案か。俺としてもエリシャを死から助けた手前、エリシャのことは最期まで見守りたい。人を超越し、寿命も肉体も無限に近い俺だからこその願いだ。
ドラ司令はエリシャの提案を受け、苦々しく葉巻を噛み締める。一体何が不満なのだろうか。やはりドラ司令を始めここにいる人たちのエリシャに対する態度は何やら不穏な匂いを感じる。言葉では言い尽くせない。それでも、強いて言うならば焼け焦げた血と骨の匂いだろうか。どうにも好きになれない匂いである。
「駄目だ、アルクドルクの娘よ。それは許可できん。お前には新しい部隊の指揮をして貰いたい」
すげなく断られた。エリシャは唇を噛んで、もう一度再考の余地がないか、と尋ねてみたが、ない、と切って捨てられた。そして、新しく取り出した葉巻に火を点ける。こうなれば取りつく島もない。
エリシャは俺の方を向いて視線で謝罪してきた。何を謝るのだろうか。俺はエリシャが何処に行こうとついていく気であるし、それを誰かに咎められる謂れはない。俺は大丈夫、と全身を震わせて返事をした。
「それにあたってそこにいるロボット? とか言う魔族は一度こちらで拘束させてもらう。アルクドルクの娘の言うことなど信用できんのでな。悪く思うなよ?」
床に熱源反応を感じた。紫色の魔法陣のようなものが床に浮かび上がり、その光の中から四本の鎖が飛び出した。だが、鎖は俺を捕らえるどころかそのまままっすぐにエリシャを拘束した。
「きゃああああ!」
俺はこの異常性を無視できなかった。この鎖は明らかな害意が含まれている。俺は眼前の机を一瞬で取り込んで燃料にし、ドラ司令の喉元に噛みつこうとした……がそれは出来なかった。
ドラ司令もまた呆気にとられ俺を凝視しているのだ。何故お前も驚いている? 何か訳があるのか? ええい糞! 噛み殺すのは悪手か!
しかし、謎の鎖はドラ司令が出したものに違いないので、俺はドラ司令に突進し、彼を押し倒した。人工音声を全身から発し威圧する。
「エリシャに何をした!」
「な、何故魔術が利かない! これは中級魔族をも拘束できる代物だぞ!」
「魔族なんて知るか! 早くエリシャを解放しろ! このままではエリシャが窒息死するぞ!」
視界を移せば、拘束されたエリシャは腕を吊し上げられ、その胴体に何重にも鎖が巻き付いている。このままではもう持たない。
「貴様は何者だ! ただのスライムな訳があるまい!」
「早く解放しろおおお!」
我慢しかねた俺は、ドラ司令から離れて直接エリシャに巻き付いている鎖を断ち切ろうと鎖に爪を立てる。しかし、鎖に傷を付けることは叶わなかった。否、触れることすらも叶わなかった。
「何っ!?」
「ふははは! お前は俺の想像魔法も効かない代わりに鎖に触れることすらも出来ないのか! これは滑稽だ! 忌々しいスライムはそこで黙って小娘が死ぬのを見ておけ!」
俺はドラ司令を巨大化させた尻尾で殴り飛ばした。気絶させれば、この鎖が消えるかもしれない。そんな淡い期待を込めた一撃だったが、現実は非情なようで鎖が消えることはなかった。
エリシャの口から唾液が漏れ始める。赤い瞳が白目を向き、ほとんど意識がない。辛うじて呼吸をしようと鼻腔が動いているが、上手く吸えていないのは明白だ。
そうだ! 鎖はこの地面から生えている。しかし、地面を貫通している様子がない。ということは、仕掛けは足元の絨毯の下だ!
俺は前足で思い切り鎖の根本の絨毯を切り裂いた。
果たして……鎖は消えて、エリシャが落ちてきた。俺はスライム状にしたナノマシンの弾力で彼女を受け止めると、そのまま包み込み、彼女の心臓と血液、その他のナノマシンに置き換えた体の部位に、機巧核から伸ばした生体回路を接続する。
心停止。
呼吸不全。
俺はすぐさま信号を送り、これら不具合を修正した。すると、呼吸も戻り、脈拍も正常に動き出した。
俺はエリシャの安全を考慮し、彼女をナノマシンで包んだまま機巧核と多少のナノマシンを切り離すと、会議室の隅へ安置する。
俺が切り裂いた絨毯をを見れば、そこには何やら魔法陣めいたものが縫い込まれた布切れが二つに別れて転がっていた。こいつが原因だろうか。ゆっくり考えたいが、今は無理だ。俺は会議室の入り口へ向き直った。
そこへ、待ち構えていたかの如く、大勢の兵と先程出会った祭司長が雪崩れ込んできた。
「何事ですドラ司令官!? まさか!?」
「全員先頭準備! この精霊を殲滅せよ!」
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振り抜かれる両刃の剣、突き出された三ツ又の槍、紫色に光る札から飛び出した稲妻が俺を切り裂き、貫き、焼く。しかし、俺はそんな攻撃など痛痒すらなかった。剣は俺を撫で、槍は腹をつつき、稲妻に至ってはボディの表面を流れて地面へ散っていった。
「そうした? それで終わりか?」
「いいや、まだだ!」
エーロ司祭の持つ札が緑色に輝く。よく見れば札に描かれた魔法陣のようなものが光っていた。エーロ司祭は俺に札を投げつけた。それは俺に張り付くと、強烈な光を発し……そのまま消えていった。
「ば、馬鹿な……わしの魔術が聞かないだと……?」
「なんだかよく分からないが、終わりってことだな? ならば俺は逃げさせてもらう。お前たちに付き合っている暇はないからな」
俺は分離させたナノマシンを取り込み、中のエリシャが無事なのを確認すると豹の姿に変身した。怖じ気づく兵たちを尻目に、俺はドラ司令を一瞥すると、ドラ指令は我に返ったようで、ふらつく頭を押さえながらフリントロック式の片手銃を俺に向かって発砲した。
無論、照準もままならないまま発車された弾丸は俺に当たる筈もない。狙いは外れて尻込みする兵の側頭部に直撃した。
と、ここで信じられないことが起こった。弾丸が兵に当たった瞬間、大爆発を起こしたのだ。その爆発量は優にダイナマイト一本分を越えている。俺はその程度で壊れるほどヤワじゃないので、爆風で吹き飛ばされた程度だが、兵たちはそうもいかなかった。
十三人分の死体が出来上がった。
通常、弾丸は対象に命中するとその推進力を破壊力に変え、内部を滅茶苦茶しながら体外へ突き抜けていく。当たり所が良ければ即死は免れるけれども、戦闘不能状態になる。そんな弾丸なのだが、今回発射されたそれは俺だけではなく、機巧核でさえも知らない種類の弾丸だった。
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