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#15 開かずの間
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エコーズ邸改めエコーズ・ランチマネー邸には開かずの間があります。最上階の一番端の部屋です。ジェシカさんに屋敷を案内されたとき、ここへ立ち入ってはいけないとかたく言われました。
理由を聞くと、その部屋は亡くなった奥様の部屋なのだそうです。
つまり、私の部屋です。
お金の亡者である子爵が私の部屋を残しておくとは驚きでしたが、よくよく考えてみるとこれは体裁なのでしょう。大方悲しんだふりをしているだけです。その部屋を残しておけば、亡くなってもまだ奥さんを想う誠実な夫を演じられますから。
なんとまあ愚かなことでしょう。
とはいえ、事情を知らない人から見れば子爵は一途な夫に映るわけで、効果抜群です。
では、そんな一途な子爵にちょっとした悪戯を仕掛けてみましょう。
◆◇
ある日のお昼時、私は屋敷の掃除をしながら開かずの間の前にやって来ました。これからこの部屋に入ってみようと思います。
この部屋に入るには、部屋の鍵とドアノブに付けられた南京錠の二つの鍵が必要で、それは子爵が肌身離さず持っているのですが、悪魔の私に魔法の掛けられていない鍵などあってないようなもの。ちょちょいのちょいで開けてしまいました。
確か私は血を吐きながら死んだはずですがベッドに血の跡はなく、綺麗さっぱり整頓されています。それ以外は特に変わったところはなさそうです。そもそも、うっすらと埃が溜まっている所を見るに、私が死んで以来ここには誰も入っていないようです。
「開かずの間ですから当たり前ですね」
クローゼットを開けてみました。中には当時着ていた私の服が並んでいました。ここに並んでいる服たちは洗えばすぐにまた着れそうです。試しに一着取り出し、姿見の前に立って袖を合わせてみます。当たり前の話ですがぴったりです。
そのときでした。
「この部屋で何をしている?」
子爵のナイフのように鋭い声が後ろから突き立てられました。挨拶のときの声音とは大違いです。私は服を合わせたまま慌てて声の方を振り向きました。
「……! こ、この部屋には鍵が掛かっているはずだ。どうやって入った?」
怒る子爵の様子が少し変です。怒っているのに目が泳いでいます。私を直視してくれません。
それもそのはず、私の容姿は角と尻尾を隠して元の顔を少し変えただけなので、ほんの少しでも私を思い出すものがあれば、子爵の脳裏には私の生きていた時の姿がありありと蘇るからです。
今の子爵はかつての私を今の私に重ねているに違いありません。
「鍵が開いていたので、それで、入っていけないと知っていましたが……申し訳ございません」
私は服をベッドの上に置き深々と頭を下げました。
「鍵が……? そ、そうか、開いていたのか……」
気が動転して私を叱ることも出来ないようです。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ん、ああ大丈夫。ちょっと昔を思い出してしたんだ。何でもない」
「奥様のことですか?」
「……ああ。もちろん他人の空似であることは分かっているんだけど、君がその服を合わせていた姿が死んだ妻にそっくりでね。驚いたんだ」
「お辛い記憶を思い出させてしまい申し訳ございません」
「気にするな。いつまでも妻を忘れられない僕が悪いんだ」
「どうして奥様に誠実な旦那様が悪いでしょうか。悪いのは言いつけを破った私です。何なりと罰をお申しつけください」
「罰だなんて……次からこの部屋に入らなければそれでいい」
「ありがとうございます」
「もう行っていいよ。このことは他言無用で頼む」
「はい」
私は足早に開かずの間を後にしました。
理由を聞くと、その部屋は亡くなった奥様の部屋なのだそうです。
つまり、私の部屋です。
お金の亡者である子爵が私の部屋を残しておくとは驚きでしたが、よくよく考えてみるとこれは体裁なのでしょう。大方悲しんだふりをしているだけです。その部屋を残しておけば、亡くなってもまだ奥さんを想う誠実な夫を演じられますから。
なんとまあ愚かなことでしょう。
とはいえ、事情を知らない人から見れば子爵は一途な夫に映るわけで、効果抜群です。
では、そんな一途な子爵にちょっとした悪戯を仕掛けてみましょう。
◆◇
ある日のお昼時、私は屋敷の掃除をしながら開かずの間の前にやって来ました。これからこの部屋に入ってみようと思います。
この部屋に入るには、部屋の鍵とドアノブに付けられた南京錠の二つの鍵が必要で、それは子爵が肌身離さず持っているのですが、悪魔の私に魔法の掛けられていない鍵などあってないようなもの。ちょちょいのちょいで開けてしまいました。
確か私は血を吐きながら死んだはずですがベッドに血の跡はなく、綺麗さっぱり整頓されています。それ以外は特に変わったところはなさそうです。そもそも、うっすらと埃が溜まっている所を見るに、私が死んで以来ここには誰も入っていないようです。
「開かずの間ですから当たり前ですね」
クローゼットを開けてみました。中には当時着ていた私の服が並んでいました。ここに並んでいる服たちは洗えばすぐにまた着れそうです。試しに一着取り出し、姿見の前に立って袖を合わせてみます。当たり前の話ですがぴったりです。
そのときでした。
「この部屋で何をしている?」
子爵のナイフのように鋭い声が後ろから突き立てられました。挨拶のときの声音とは大違いです。私は服を合わせたまま慌てて声の方を振り向きました。
「……! こ、この部屋には鍵が掛かっているはずだ。どうやって入った?」
怒る子爵の様子が少し変です。怒っているのに目が泳いでいます。私を直視してくれません。
それもそのはず、私の容姿は角と尻尾を隠して元の顔を少し変えただけなので、ほんの少しでも私を思い出すものがあれば、子爵の脳裏には私の生きていた時の姿がありありと蘇るからです。
今の子爵はかつての私を今の私に重ねているに違いありません。
「鍵が開いていたので、それで、入っていけないと知っていましたが……申し訳ございません」
私は服をベッドの上に置き深々と頭を下げました。
「鍵が……? そ、そうか、開いていたのか……」
気が動転して私を叱ることも出来ないようです。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ん、ああ大丈夫。ちょっと昔を思い出してしたんだ。何でもない」
「奥様のことですか?」
「……ああ。もちろん他人の空似であることは分かっているんだけど、君がその服を合わせていた姿が死んだ妻にそっくりでね。驚いたんだ」
「お辛い記憶を思い出させてしまい申し訳ございません」
「気にするな。いつまでも妻を忘れられない僕が悪いんだ」
「どうして奥様に誠実な旦那様が悪いでしょうか。悪いのは言いつけを破った私です。何なりと罰をお申しつけください」
「罰だなんて……次からこの部屋に入らなければそれでいい」
「ありがとうございます」
「もう行っていいよ。このことは他言無用で頼む」
「はい」
私は足早に開かずの間を後にしました。
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