吸血鬼が憩える保健室

坂餅

文字の大きさ
10 / 25

大切なのは勢い

しおりを挟む
 目を覚ました頃――時刻は最終下校時刻の十八時だ。そしてやはり、佳は残っていてくれて、不安気な目で私を見ていた。

「大丈夫……」
「なっちゃん……、クリームパン食べる……?」

 なんでいきなりクリームパン? そう思ったものの、お腹が空いていたし、甘い物を食べたかったから、ありがたく頂く。

「なっちゃん大丈夫ぅ?」

 不知火先生も心配そうな表情をしている。

 先生のせいなんだけど……事情を話していない私が悪いか。うーん……、やっぱり吸血鬼のことは話しておいた方が良いかもしれない。

「大丈夫です」

 クリームパンの甘みを全身に享受しながら、私は頷く。しばらくゆっくりしていこうかと思ったけど、時間が時間だしもう帰らなければならない。

 体調も大丈夫そうだし、歩いて帰っても問題無い。

「なっちゃんも佳ちゃんも、送って行くよぉ」

 だけど先生は今しがた目を覚ました私を帰らせるのは良くないと判断したみたいで、送って帰ると言ってくれる。

「大丈夫ですよ、なにかあれば親呼ぶんで」

 よっこらせと、ベッドから降りて身体を動かす。

 うん、多少固まっているけど動かせばそのうちほぐれるはず。

「だいじょーぶ! なっちゃんはうちが送るから!」
「うーん、それならいいんだけどぉ」

 少し躊躇いながらも、そこは引き下がってくれた先生に頭を下げ、私と佳は保健室をあとにする。

 日は伸びてきているけど、まだ暗くなるのは早い。あんまり暗くなると私みたいな超絶美人は危ない。もちろん佳も良くない輩に絡まれたり――というより、倒れている酔っ払いとかに優しくしてそう。倒れている酔っ払いとか見たことないけど……。

 保健室は昇降口と近く、すぐに靴を履き替えた私達は二人並んで校門を目指す。

 私達の他にも、部活動を終えた生徒達の姿が見える。この中には私と同じ電車通学もいるだろうし、まあ安心できるかな。

「佳、今日も本当にありがとう」

 私は隣を歩く佳をしっかりと見ながら、感謝を伝える。昨日今日と、佳には迷惑をかけっぱなしだし、助けられてばっかりだ。

「えっ⁉ 別にいーよ! うちが勝手にやってるだけだし。むしろ、なっちゃん嫌じゃないの……?」

 なんで驚く? あと、なんでそんなことを言う?

「めっちゃ助かってる、本当に」

 これ以外無い。本当に助かっているんだ、佳が速やかに運んでくれるから、まだそれ程騒ぎに――というか、更に目立たないんだ。

「じゃー良かったなー」
「うん。これからも、佳には私を運ぶ係を務めてほしい」

 少なくとも、今年いっぱいはその係を務めてほしい。

「えっ、ずっと倒れるの?」
「うん、そういう体質なんだよね」
「どーゆー体質⁉」

 それを言う訳にはいかない。まだね。

 これ以上言う意思が無いと伝えるため、佳の耳の近くで囁く。

「勉強、教えてあげるから」
「えぇ……」

 おいなんだその反応は。私はかなり賢いぞ。

 まっ、いいや。

「早く帰ろっか、電車?」

 送ると言っていたから同じく電車通学のはず。いや、佳の良い人レベルから考えると、電車通学じゃないのに送ってくれそうだ。

「うん、なっちゃんも?」
「うん」
「良かったー。送るって言ったけど、なっちゃんが電車じゃなかったらどーしようって思ってたんだよ」

 そう言って笑う佳。真昼の太陽のように眩しい笑顔だ。つまりそれは、私に害なす陽に他ならない。

 まだ転校して二日だけど、一つ判ったことがある。佳は陽キャということだ。多分クラスの誰でも分け隔て無く話す。てか実際話していた。

 それは真の陽。つまり、私の天敵だ。

 困った。非常に困った。

 でもとりあえず今は、情報収集を兼ねて、佳としんどくならない程度に楽しく帰ろうと決めた。

                 △

「転校二日目にして、私が保健室へ行った回数は何回でしょう?」

 夕食を終え、しばらくしてから私は母に問いかける。

 母はいきなりなに言ってんだ? と言いたげな顔をしたが、すぐに考えて答えを出してくれる。

「六回」
「三回でしたー」
「少ないじゃん」
「昨日一回、今日二回」
「明日は三回、明後日は四回?」
「ってなったら嫌なんだよぉぉぉぉ‼」

 なんで私がこんな話をしたのかと言うと、もしかすると日に日に身体が陽に耐えられなくなる可能性があったからだ。

 母に言った通り、昨日一回、今日二回。杞憂であってほしいけど、もしものことがある。

 叫んだ私はテーブルに伏せているため、私を見る母の顔は見えない。でも声音から、対して心配してなさそうな気がする。

「大丈夫でしょ、慣れるってそのうち。知らんけど」
「出たよ知らんけど」

 母の顔を見る。涼しい顔をしていた。くそぅ。

 私の恨みがましい目なんてなんのその。少し考えて解った。母だって私と同じような状況に陥ったことがあるんだと思う。

「自力で行けてるんだったらいいんじゃないの」

 だがしかし、恐らく多分母は経験してないであろう出来事が、私には起こっている。

「いいや、運んでもらってる。そう、めちゃくちゃ良い人が前の席なんだよね」
「えぇ……、転校二日目で人に迷惑かけてんの……?」
「初日からです」
「菓子折り持っていかないと」
「それは私も考えてるよ。その人ね、めちゃくちゃ良い人すぎて、もうほんと、良い人なの。これぞ真の陽キャって感じ。多分誰にでも優しいよ」
「あんたよく生きてるね。ある意味あたし達の天敵じゃん」
「そうなんだよなあ!」

 本当に佳は良い人で天敵!

 私の苦悩が伝わったというか、察したのだろう母。苦い顔をして私を見て、ゆっくりと口を開く。

「どうすんの? その良い子」
「佳ね。いつかは言わなきゃならないよねって」
「まあ、上手く隠せるもんじゃ無いからね」
「とりあえず保険の先生には言おうかなと考えてる。めちゃくちゃお世話になるだろうし」
「そうなるよね」

 良い人の佳にこのことは言いにくいなと、改めて思う。だって天敵だから。言い方を間違えれば佳を傷つけかねない。

「学校側には伝えてないからなあ……吸血鬼のこと」

 母が天井を見つめる。そもそもだ。吸血鬼の血が入っているなんて話して、信じてくれる人がどれ程いるだろうか?

 信じられなさすぎて研究材料としても狙われないレベルだ。

「でもあたしは早めの方がいいと思うんだよね」
「うーん……確かに勢いは大切かぁ……」

 佳には時間をかけるけど、先生には早めの方が後々楽になってくるかな?

「先生なら、最悪避けられることは無いだろうし。っていうか、どんな感じの先生なの?」
「……、ふわふわ~って感じ」
「いけるんじゃない?」
「雑いなぁ!」

 そうツッコんだものの、先生の話題で一つ思い出したことがあった。今日の先生の発言だ。いや、でも別にこれは言わなくてもいいか。今は吸血鬼のことを言うかどうかの話だ。

「勢い大事!」
「そうだけど」
「ほら、案外髪の毛の白さで納得してくれるかもよ」
「そうだった今の私髪の毛白いんだったぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 そういやそうだ! 学校で注意されなかったから忘れてた! まあ髪色カラフルなんだけど、学校。

「まあ勢いでいっちゃえ! なんかあればお母さんがどうにかしてあげるから」
「うぅ……だよねぇ……」

 とりあえず明日不知火先生には説明してみようと思う。背中も押された――というか、突き飛ばされたし。うん、勢いは大切だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

筋肉女子の弱点

椎名 富比路
青春
シックスパック女子唯一の弱点とは? pixivお題「腹筋」より

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。

春待ち木陰
青春
 高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。

処理中です...