吸血鬼が憩える保健室

坂餅

文字の大きさ
21 / 25

復帰、謝罪、そしてこれから

しおりを挟む
 昨日お見舞いで佳が来てくれたこともあって、明日は学校行けるかな――と心配だったけど、寝て起きたら全然大丈夫。

 いつも通り朝起きて、学校へ行く準備をする。

「おはよ、本当に大丈夫なの?」
「んー、案外余裕だね」
「ならよかった」

 ピースピース、と返す私に母が冷たい目を向ける。あんまり心配かけすぎてもよくないしね。

 いつも通りの準備を終えて学校へと向かう。

 今日学校に着いたら、まず真っ先にすることはクラスの人達への謝罪だろう。普段から保健室に行ってるせいで色々と気を遣ってくれて、出場種目まで私のために色々としてくれている。いくら私が超絶美人でも、その礼を欠くことはしたくない。

 超絶美人だからなんて関係無く、ただ一人の人間として頭を下げる。

 そして全員に頭を下げるため、今日は敢えて遅い時間に家を出た。遅刻をしないギリギリなら、大抵は来ているはず。来なかった人は……まあいればその時はその時。

 果たして、私がギリギリに教室に入るとクラスの人達はみんな揃っていた。中には他のクラスの人もいた。まあ、ギリギリまでいるよね。

 そんな大勢の人達が、入って来た私を見る。毎日毎日見られているが、今日の視線には、大丈夫か、と私を気遣う視線も感じられる。

 そしてこういう時は勢いが大事。勿体ぶらず、即行動だ。

「色々と気を遣ってくれたのに、体育祭途中退場してごめんなさい!」

 黒板の前に立った私は誠心誠意頭を下げる。

 教室内は静まり返り、これは頭を上げていいのだろうかと考える。

 頭を下げ続けるのもなんだと思い軽く頭を上げてチラリと様子を確認すると、鳩が豆鉄砲を食ったようとはこのことか、と学びを得る。

「えーっと……なっちゃん?」

 やっぱりこういう時に動けるのは私と普段から親交のある佳だけだろう。まあ佳以外に来られたらどうしようか分からないけど。

 恐る恐るといった様子で佳は近づいてくる。でもこうして近づいて来られるあたりなかなかの陽、つまり辛い。

 それでも私は逃げずに、真っ直ぐに佳の目を見つめる。

「だいじょーぶだよ? みんな、なっちゃんが無事で良かったって思ってるから」

 佳の言葉にクラスの人達の殆どが頷いている。

「えっと……心配してくれて……ありがとう」

 まあ、裏で陰口の一つや二つ言われると思うけど。それは仕方ないから別にいいけど……佳が言われるのは嫌だな。

                 △

「なっちゃん、大丈夫だったぁ?」
「この通り」
「いつも通りだねぇ」

 あの後保健室に運ばれて、私はしょっぱなからこうして保健室のお世話になっている。

 絶賛授業中のこの時間、私以外に保健室へ来る生徒はいないだろう。絶対無いとは言い切れないけど。

「先生、一昨日はありがとうございました」

 改めて先生にお礼を言うと、先生はいつも通りのゆる~く、ふわふわっとした感じで微笑む。

「また元気な? なっちゃんに会えて良かったよぉ」
「まああの時に比べれば、いつものなんて大したこと無いですね」

 今のこれを元気な状態とは言えないけど、不知火先生と会う時はだいたいこの状態だ。万全の私と会ったことは少ないんじゃないだろうか。

 そう考えれば、先生が見ている私の一面は少ないのかもしれない。別にどうってことないけど。

 勝手知ったる保健室とはまだ言えない。そりゃまだ五月、入学というか、転校してから一ヶ月ちょっとしか経っていない。それでもここは落ち着くし、事情を知ってくれている先生がいるから安心感もある。だから私はゆっくりと、復帰するために休むことができる。

 今日は上手くいけば二限目には余裕で戻ることができそうだ。耐性がついてきたからではなく、軽傷だったからというのが大きい。

 先生も仕事があるだろうし、邪魔にならないように私は休むことにする。

 カーテンを閉めて、視線を遮断する。先生も私に見られながらだと落ち着かないだろうし。

 ベッドに寝転んで、目を閉じながら私は少し考え事をする。

 私がこれから、佳にどう接していくのかだ。

 一応昨日のお見舞いの後、永海先輩と少し話したけどそれとはまた別の、私自身が考えないと駄目なことだ。

 佳は私にとっては最大の敵、天敵で一緒にいるのも辛い時がある。それは佳が陽の者だからだ。あのレベルの陽の者が他にもいれば同じ状態に陥る。たまたまそのレベルの陽の者が佳しかいないだけ。いないというか、私の目の前に現れたのが佳というだけだ。まあ、超絶美人の私に臆せず、接しに来る佳が異常なんだけど。ん? いやでも、そうだそうだ、なぜか佳は私には緊張しないけど、先輩には滅茶苦茶緊張している。他の人がする、私への接し方だ。解せない……考えるべきことを考えないといけないのに、あまりの解せなさに思考を戻せない。

 なんで佳は私に緊張しないの?

 これは……私一人じゃ駄目だな。

「先生」

 客観的な意見も必要だと考えた私は、閉めたカーテンを開いて先生に声をかける。

「どうしたのぉ?」

 振り返った先生と目が合う。

「佳が私に緊張しないんですよ」

 私の言葉に、先生は眉を顰めて困った顔をする。これはアレだ、情報が足りてない。ということで、先生に私の思っていることを伝えた。

「う~ん。それはぁ、佳ちゃんの好みのタイプじゃないとかぁ?」
「あ~、美醜の基準は人それぞれってことですか?」
「そこまでは言ってないよぉ」
「でも、佳は私のこと超絶美人っていうのは知ってますし言ってますし……。私レベルの超絶美人が常に近くにいるのに、ってそもそも初めて会った時から緊張してなかったな! なんでですか……⁉」

 考えれば考える程おかしい。

「いやっ、でも緊張させた場面あったようななかったような……?」

 うーむ、思い出せない。

「でもアレですね、いい加減私で超絶美人に慣れてほしいって思ってたんですけど――」
「佳ちゃんのタイプじゃなかったのかもぉ?」
「そうなるんですかねぇ?」
「う~ん、佳ちゃんに聞いてみるのはぁ?」
「確かに、それはありですね」

 私が超絶美人というのは物理法則レベルで変わることが無いことだ。別に恥ずかしくともなんともない。
「ありなんだぁ……」
「まあ、超絶美人ですから」
「うぅ~、事実の暴力ぅ」
「永海先輩に対しては照れてるんですけどね。まあ、聞いておきます」

 こればかりは佳に聞いてみるしかないか。

 先生に聞いても駄目かあ、無駄な時間を使わせてしまった。先生にお礼を言って再びカーテンを閉める。

 そして今度こそ本題、佳とどう関わっていくかだ。

 今まで通り――は普段の生活が続くのなら別に大丈夫なはずだけど、来年こそは佳と体育祭を楽しみたいと思っている。体育祭だけというか、学校行事全般だ。修学旅行は流石に危険だから行けないけど、次の大きな行事は秋の文化祭だ。

 体育祭と同じで、文化祭も熱気とテンションが凄くなるはず。そんな中でも、クラスに迷惑をかけず、佳と楽しみたい。

 陽にやられるのは仕方ないにしても、どうにか、佳に対してだけは平気になりたい。

 私が駄目なのは佳じゃなくて陽だ。佳から出る陽が強すぎるだけなのだ。強い陽を出す佳が駄目であって、佳自身が駄目ではない。それを忘れないように、自らの体質を勘違いしないようにしなければならない。

 今できそうなのは、佳の陽を押さえる方法だろうか。一番簡単に実践できる『私が陽に慣れる』も少しづつ試しながら、まずはそこから攻めていくべきだろう。

 ハッキリとこれでいいとは言えないけど、できそうなことからやっていかないと、時間なんてすぐに過ぎてしまう。それに、どうにかしないと、いつか佳を傷つけてしまうことになる。

 今のこうして、佳に嘘をついて騙している状況は、薄氷の上に立っているようなもの。佳が大切な存在になったから今、その恐ろしさを自覚する。

 失いたくない。その失いたくないもののために、それを必死に守るんじゃなくて、守らなくても済むようにする。私がしようとしていることはそういうことだ。

 これは気合を入れて、全力で、真剣に取り組まなければならない。

 薄氷の上に立っているようなものだから、必死に守り続けていてもいつかは割れる時が来るしね。それなら、守らなくても済むように、今は必死に守りながら動くしかない。

 そして疲れたら、こうして保健室で憩えばいいんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

筋肉女子の弱点

椎名 富比路
青春
シックスパック女子唯一の弱点とは? pixivお題「腹筋」より

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。

春待ち木陰
青春
 高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。

処理中です...