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来年こそ
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インターホンが鳴って、遂に来たかと、私はとりあえず深呼吸をする。一応カメラで確認したから間違いない、佳と永海先輩だ。
私は慎重に扉を開いて二人を家に招き入れる。
「お邪魔しまーす」「お邪魔します」
なかなかお目にかかれない緊張した表情の佳と、いつも通り表情の乏しい先輩が家に上がる。
あの佳でも、人の家に上がるのは緊張するのかと思ったけど、私をしばらく見て――。
「なっちゃーん! 良かったよぉー」
ちょいちょいちょい、なぜ抱きしめる? 病み上がりじゃなくても辛いぞ? 陽が……先輩……。
「うん、大丈夫。ちょっと離れよっか」
「うーん」
おいおいおい離せ離せ離せ、先輩、助けて……⁉
また倒れる前に……佳を引き離して欲しい……。
「鳴月は病み上がり」
「あっ……ごめんねなっちゃん!」
「あ、うん……大丈夫……大丈夫……」
「うわああごめん! クマがすごいよお!」
先輩のおかげで、ようやく佳が離れてくれた。
相変わらず先輩に照れるのは理解できないけど、先輩に見られている羞恥心が離れるきっかけになったのだからなんとも言えない。
「鳴月、大丈夫?」
「まあ……多分……。とりあえず、座りましょう……」
先輩を呼んで良かった。本当に良かった。先輩がいなければ、今頃私は――いや、これ以上考えるのは良くないな。
「ん。肩、貸す?」
「はい……お願いします……」
△
「すいません、麦茶しかなくて」
結局探したけどお菓子は無いし、良いお茶も無い。でもなにも出さないという訳にもいかず、良い感じのガラスのコップに麦茶を注いで二人に渡す。
「じゃーうちの持って来たお菓子食べよーよ」
佳は持っていた紙袋の中身を出す。えぇ……そんなわざわざ――。
「わざわざありがとうね」
佳が持って来てくれたのは、カップに入っているゼリーだった。私が病み上がりだからこそのチョイスだろう。数は六つ、丁度いい数だ。
「ん。ありがとう」
「あー、でも味全部バラバラなんだよねー。なっちゃんも先輩も、好きなの選んでください」
「私なんでもいいんだけど――」
もしかして全部私が食べる想定で味を変えてくれたのかな?
「せっかくだし、安定のみかんで」
味も特に変な味は無い。使い捨てのプラスチックのスプーンも持って来てくれたみたいで、ありがたく使わせていただく。
先輩はマスカット味で、佳はマンゴー味らしい。残りは私にくれたから、後で冷蔵庫にでも入れておこうか。
「なっちゃん、もーだいじょーぶなの?」
「うん、なんとかね。まっ、どうせ毎日保健室に行くんだろうけど」
ゼリーを食べつつ、私の体調の話をする。
「それはだいじょーぶって言うの……?」
私の返事に佳は困った様な表情で笑っている。うん、大丈夫じゃないから保健室行くんだもんね。でもこればっかりは仕方ない。
「生きてるし大丈夫だよ」
「それはそうだけど、びょーいんとか行ったほーが……」
「あー……うーん……。まあ、ねえ……」
病院に行ってどうにかなる体質じゃないだろうし、あったらそれはそれで面白いけど、なんか研究されたりとかしそうだし。
でもそんな事情を知らない佳になんて返せそうか考える。っていうか、今の私って血液検査したらどうなるの? 一応母が、自分は特に人間と変わりないって言っていたからなにも疑問に思ってなかったんだけど。
「鳴月は目立つのが苦手だから倒れた。だから別に病院には行かなくても大丈夫だと思う」
「あっ、そっかあ……。びょーきじゃないですもんね」
おっと、一人で脱線していたから先輩が代わりに答えてくれていた。まあ、前に目立つのが苦手って言ったし、嘘はついていない。
「まあ、そゆこと」
「そっかー」
先輩の答えに納得したようで、この話題はあっさりと終り、話は体育祭の話になった。
佳と先輩から、あの後の展開と優勝クラスを聞いて、不思議な気持ちになる。
今までなら、そんな学校行事なんて興味が無かった。陽が駄目とか関係無く、私レベルの超絶美人はモテすぎるし、色々と人の目が鬱陶しくて、楽しいとすら思わなかった。
でも、佳と先輩の話を聞くと、楽しそうと思った。
それは佳と先輩が私と仲良くしてくれているからだと思う。特に佳は同級生だし、いつも一緒にいてるのもあって、あの場で佳と一緒に楽しめたら――なんて、なんか急にそんな気持ちが溢れてきた。
まあ実際は体育祭を楽しめば私の命が危ないんだけど。だから、今もこうして佳に隠し事をしていることに胸が締め付けられる。
いつかは慣れる。そんな希望を持たなければならない。一生慣れないと決まれば、多分これまで以上に苦しくなる。
希望が無いのに、佳を傷つけたくない一心で欺き続ける。
「来年は無事でいたいなあ」
希望を握りしめて口にした言葉は、思いの外震えていて、せっかくの希望を落としたみたいだった。
「うん! 来年こそは楽しもー!」
落とした希望を拾い上げようと、下を向いた私に容赦無く襲いかかる陽。
全くなんなんだと顔を上げれば、そこにあったのはなによりも輝く、眩しい太陽。私の天敵。
身を焼かれながらも、その強い光は嫌いになれない。いや、嫌なんだけど、やめてほしいんだけど、本当に洒落にならないから。でも、それでも、私の中で、佳は大切な存在になったんだと自覚する。
太陽がなければ生物は生きていけないように、私は佳がいなければ生きていけない。
「来年こそはね」
まあそれを佳に伝えるなんてことはしないけど。
私は慎重に扉を開いて二人を家に招き入れる。
「お邪魔しまーす」「お邪魔します」
なかなかお目にかかれない緊張した表情の佳と、いつも通り表情の乏しい先輩が家に上がる。
あの佳でも、人の家に上がるのは緊張するのかと思ったけど、私をしばらく見て――。
「なっちゃーん! 良かったよぉー」
ちょいちょいちょい、なぜ抱きしめる? 病み上がりじゃなくても辛いぞ? 陽が……先輩……。
「うん、大丈夫。ちょっと離れよっか」
「うーん」
おいおいおい離せ離せ離せ、先輩、助けて……⁉
また倒れる前に……佳を引き離して欲しい……。
「鳴月は病み上がり」
「あっ……ごめんねなっちゃん!」
「あ、うん……大丈夫……大丈夫……」
「うわああごめん! クマがすごいよお!」
先輩のおかげで、ようやく佳が離れてくれた。
相変わらず先輩に照れるのは理解できないけど、先輩に見られている羞恥心が離れるきっかけになったのだからなんとも言えない。
「鳴月、大丈夫?」
「まあ……多分……。とりあえず、座りましょう……」
先輩を呼んで良かった。本当に良かった。先輩がいなければ、今頃私は――いや、これ以上考えるのは良くないな。
「ん。肩、貸す?」
「はい……お願いします……」
△
「すいません、麦茶しかなくて」
結局探したけどお菓子は無いし、良いお茶も無い。でもなにも出さないという訳にもいかず、良い感じのガラスのコップに麦茶を注いで二人に渡す。
「じゃーうちの持って来たお菓子食べよーよ」
佳は持っていた紙袋の中身を出す。えぇ……そんなわざわざ――。
「わざわざありがとうね」
佳が持って来てくれたのは、カップに入っているゼリーだった。私が病み上がりだからこそのチョイスだろう。数は六つ、丁度いい数だ。
「ん。ありがとう」
「あー、でも味全部バラバラなんだよねー。なっちゃんも先輩も、好きなの選んでください」
「私なんでもいいんだけど――」
もしかして全部私が食べる想定で味を変えてくれたのかな?
「せっかくだし、安定のみかんで」
味も特に変な味は無い。使い捨てのプラスチックのスプーンも持って来てくれたみたいで、ありがたく使わせていただく。
先輩はマスカット味で、佳はマンゴー味らしい。残りは私にくれたから、後で冷蔵庫にでも入れておこうか。
「なっちゃん、もーだいじょーぶなの?」
「うん、なんとかね。まっ、どうせ毎日保健室に行くんだろうけど」
ゼリーを食べつつ、私の体調の話をする。
「それはだいじょーぶって言うの……?」
私の返事に佳は困った様な表情で笑っている。うん、大丈夫じゃないから保健室行くんだもんね。でもこればっかりは仕方ない。
「生きてるし大丈夫だよ」
「それはそうだけど、びょーいんとか行ったほーが……」
「あー……うーん……。まあ、ねえ……」
病院に行ってどうにかなる体質じゃないだろうし、あったらそれはそれで面白いけど、なんか研究されたりとかしそうだし。
でもそんな事情を知らない佳になんて返せそうか考える。っていうか、今の私って血液検査したらどうなるの? 一応母が、自分は特に人間と変わりないって言っていたからなにも疑問に思ってなかったんだけど。
「鳴月は目立つのが苦手だから倒れた。だから別に病院には行かなくても大丈夫だと思う」
「あっ、そっかあ……。びょーきじゃないですもんね」
おっと、一人で脱線していたから先輩が代わりに答えてくれていた。まあ、前に目立つのが苦手って言ったし、嘘はついていない。
「まあ、そゆこと」
「そっかー」
先輩の答えに納得したようで、この話題はあっさりと終り、話は体育祭の話になった。
佳と先輩から、あの後の展開と優勝クラスを聞いて、不思議な気持ちになる。
今までなら、そんな学校行事なんて興味が無かった。陽が駄目とか関係無く、私レベルの超絶美人はモテすぎるし、色々と人の目が鬱陶しくて、楽しいとすら思わなかった。
でも、佳と先輩の話を聞くと、楽しそうと思った。
それは佳と先輩が私と仲良くしてくれているからだと思う。特に佳は同級生だし、いつも一緒にいてるのもあって、あの場で佳と一緒に楽しめたら――なんて、なんか急にそんな気持ちが溢れてきた。
まあ実際は体育祭を楽しめば私の命が危ないんだけど。だから、今もこうして佳に隠し事をしていることに胸が締め付けられる。
いつかは慣れる。そんな希望を持たなければならない。一生慣れないと決まれば、多分これまで以上に苦しくなる。
希望が無いのに、佳を傷つけたくない一心で欺き続ける。
「来年は無事でいたいなあ」
希望を握りしめて口にした言葉は、思いの外震えていて、せっかくの希望を落としたみたいだった。
「うん! 来年こそは楽しもー!」
落とした希望を拾い上げようと、下を向いた私に容赦無く襲いかかる陽。
全くなんなんだと顔を上げれば、そこにあったのはなによりも輝く、眩しい太陽。私の天敵。
身を焼かれながらも、その強い光は嫌いになれない。いや、嫌なんだけど、やめてほしいんだけど、本当に洒落にならないから。でも、それでも、私の中で、佳は大切な存在になったんだと自覚する。
太陽がなければ生物は生きていけないように、私は佳がいなければ生きていけない。
「来年こそはね」
まあそれを佳に伝えるなんてことはしないけど。
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