吸血鬼が憩える保健室

坂餅

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お見舞い

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 昨日鳴月が倒れた後、寄り添えなかったことが悔やまれる。

 でも、一番鳴月と仲が良いのが佳だ。それは誰もが認めているであろうし、佳自身、それを自覚している。

 鳴月と共に過ごした時間が一番長いし、保健室に連れていくのも自分だ。それに、鳴月自身が言ったのだ。『今が一番楽しい』と。ただ、そう言ってくれた鳴月が倒れた後、佳は鳴月に寄り添えなかった。

 連絡もなかなか返ってこず、やきもきしていたが、連絡が返ってきていてもたってもいられず、でも家を知らない、ということで電話をかけたのだ。

 そしてお見舞いがてら家に行っていいかと聞いてみるといいよと言ってくれた。病み上がりだしさすがに断られるだろうと思っていたのだから嬉しかった。それに、あの永海陽伽も来るのだ。

 恥ずかしくないように気合を入れてなければならない。

 佳はお菓子を持ち、できるだけのおしゃれをして鳴月の家へと向かう。

 そういえば、と。佳は足を止める。

「先輩ってどこに住んでるんだろ……」

 超絶美人の先輩がどこに住んでいるのか。別に知ったところでどうこうしようとは思わないが、知らないことが多すぎるが故、少しでもその人のことが知りたいのだ。超絶美人にはそういう力がある。

 鳴月と陽伽、二人共同じ超絶美人。通常、鳴月のような超絶美人相手にどうなるか。それは佳の陽伽に対する反応と同じだ。

 同級生でも、佳以外は全員。同じクラスの生徒や、鳴月の隣の席に座る生徒でさえぎこちなく、緊張して話してしまうのだ。

 佳も、本来ならその様になっていたはずだ。慣れて、耐性ができて今のような関係になっているのならまだしも、鳴月とは出会ったその日から、緊張はしたけれど支障なく話している。

 なぜ鳴月とはこうして仲良くなれたのか。それは佳自身にも分からないし、特に不思議に思っていない。指摘されて初めて気づくレベルだ。逆にそれを疑問に思っているのは鳴月ぐらいだ。

「う~、キンチョーしてキタ……」

 待ち合わせをしていないだけが救いだ。やってきた電車に乗ってすぐ、こうしてうっかり鉢合わせてしまうのは仕方がない。心の準備は、している時が一番緊張するのだ。

「なっ……永海先輩‼」

 電車の中で大きな声を出してしまう佳。そんな大声を出した佳に気が付いた陽伽は、立てた人差し指を唇に当てる。『静かに』たったそれだけのジェスチャー。ただのジェスチャー。しかし、それを行ったのが超絶美人の陽伽だ。

「――っ⁉」

 辛うじて声は堪えることができたが、破壊力が破壊力である。佳はその場で仰け反る。それはもう、つむじが床に着くぐらい。

 他の乗客の反応も似たり寄ったりだ。今この瞬間、異常な存在は陽伽であった。

 電車が発車し、しばらく揺れてようやく正気に戻った佳が、陽伽から人間二人分空けて座る。

 話したいが話せない。誰とでも、分け隔てなく関わることができる佳だが、今この場所では、緊張でなにもできなかった。

 この車両だけ謎の緊張感が漂い、電車の速度が遅くなってしまったのではないかと錯覚する程。

 ようやく目的の駅に着いたはいいが、先に降りた陽伽が佳に声をかけるまで佳は動けなかった。

「ここだよ?」
「あっ、はい‼」

 佳が飛び出した直後に扉が閉まる。

 陽伽は改札を出るのを待っていた。どうやら、佳と一緒に行くつもりなのだろう。

「行かないの?」

 ただ見つめ合う時間が過ぎる。二人と同じタイミングで降りた人々はもういない。

「えっ、あっ、行きます‼」

 そそそっと、佳は陽伽に近づき、半歩遅れて歩き始める。

(永海先輩、なっちゃんの家行ったことあるのかなぁ……)

 陽伽について行く佳は、陽伽がマップも見ずに歩いている姿を見て、なんとも言えない気持ちになり眉をひそめる。

「緊張してる?」
「え⁉」

 突如足を止め、振り返った陽伽が言う。流石は超絶美人だ。ただ振り返っただけなのに絵になる。まるで絵画が目の前に現れたかのような、有り得ない光景だ。

 さっきまでの気持ちはどこへやら、佳は分かりやすく見惚れていた。この光景を目に焼き付けようと、言葉を返すのも忘れて。

「慣れていないの?」

 言ったはいいものの、今の佳に返事を期待できないと察した陽伽は、佳に近づいてその頬を軽く引っ張った。

「痛い」
「早く行こう」
「あぅ、すいません……」

 我に返した佳を置いて行かないように、今度は隣を歩くようにした陽伽である。

「鳴月の家、行ったこと無いの?」
「え⁉ あっ、はい、無いです」

 隣を歩いているというだけで緊張しているのに、こうして声をかけられると素っ頓狂な声を上げてしまう。

「そう。意外」
「えっ、そ、そーですか? 永海先輩はあるんですよね?」
「私も初めて」
「あれ? でもマップ見ずに歩いて……?」
「憶えた」
「あ~……」

 そういえば、三年生の永海陽伽は、文武両道で超絶美人。テストは毎回学年一位で、なぜこんな学校に通っているのか不思議がられている程だ。そして超絶美人。運動能力もかなり高く、超絶美人。

 この女子校に三人はいる、持ちすぎている者だ。

「実は緊張してる」

 陽伽の口から出た言葉に、佳は目を丸くする。

「私、表情に出にくいから」
「そっ、そーなんですね……」

 改めて、こんな誰もが憧れる人の隣を歩いている事実に戦慄する佳である。それを意識すればする程、口数は少なくなる。色々知りたいことがあるのに、なにを聞けばいいのか分からない。

「えーっと、先輩は――」
「着いた」

 ようやく口を開けたかと思えば、もう高橋家に辿り着いたみたいであった。
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