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1話
GW明けの、まだ休み気分を引きずる朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、机にやわらかく影を落としている。
朝礼のチャイムが鳴る直前の教室は、にぎやかというより、ゆるやかなざわめきに包まれていた。
友達の机に肘をついて昨日のドラマの感想を語る女子。
スマホでお気に入り動画を見せ合って爆笑する男子。
1人で静かに本をめくるやつもいる。
そんな中、担任の森先生が扉を開けて入ってきた。
「はいはーい、席について~。今日はお待ちかね、留学生の紹介があるぞ~!」
その一言で、全員が慌てて着席し、視線が前に集まる。
先生の後ろに立っていたのは──
さらりと風に揺れる金髪、透き通る青い瞳の異国の少年だった。
白い肌に整った顔立ち。
きっちり着こなした制服は、まるで絵画から抜け出してきたみたいで、教室中が一瞬息を呑む。
(……あの制服、俺のと同じだよな? なんか違くね?)
そう思ったのは、この物語の“語り手”でもある俺、田中善人、17歳。
……そう、これは俺目線で語られる物語だ。
だけど、残念ながら主人公は俺じゃない。
この物語の主役は、間違いなく今、目の前に現れた──
【Charlotte S. Bellamy】
⸻
「前にも言ったが、今年からうちも国際交流プログラムに参加することになった。その第一号、フランスからの留学生、シャルロット・S・ベラミー君だ」
先生が黒板に書いたのは横文字の名前。
読めそうで読めないその綴りに、教室内が妙な緊張感に包まれる。
「え、あれでシャルロットって読むの? チャルロッテかと思った」
「それは単純に、お前がバカ」
「ねぇ、フランス語って分かったりする?」
「するわけないじゃん! メルシーくらいしか知らねーし!」
ヒソヒソ声があちこちで飛び交う。
シャルロットがふわりと微笑んだ瞬間──
金色の髪が揺れ、長いまつ毛が伏せられる。
「美人すぎ」「王子じゃん……」と漏れる声に、空気が一瞬だけ静まった。
「で、彼はまだ日本語がちょっと不安らしくてな。誰かフランス語できるやつ、サポートしてくれると助かるんだが……」
実は俺、第二外国語でフランス語を取ってる。
発音練習だってしてるし、将来的には留学もアリかも、とか思ってる。
だから腕を試すチャンスだ。……のはずなんだけど。
あんなキラキラの隣に並ぶ勇気はない。
俺は純和風な顔立ち。
凹凸が少ないとか、のっぺりしてるとか、昭和の時代に生きてそうとか言われるタイプ。
そんな俺が超絶美形の横に立ったら、絶対見比べられて笑われる。
手を挙げるか迷っていると、先生が「第二外国語でフランス語取ってるやつ~?」と視線を巡らせた。
そのとき──
ガラリ。
前方の扉が開き、ぬっと背を丸めた長身が入ってきた。
ぼさっとした黒髪、ゆるく結ばれたネクタイ。
第一ボタンは外れ、制服は着崩し気味。
185センチはありそうな体格に鋭い目つき、唇のピアス。
クラスで一番近寄りがたい存在、東雲(しののめ)だ。
──フルネームは、確か、東雲梓真(あずま)。
転校生をじろっと一瞥すると、無言で自分の席へ向かう。
……やっぱ東雲、こえぇ。
何せ彼には悪い噂が多い。
他校の奴らと喧嘩三昧だの、ガラの悪い大学生とつるんでるだの、強面のおっさんと歩いてただの。
あまりに気になって、同じクラスになった日に名前を検索したこともある。
けど、“東雲梓真”じゃ全然出てこない。
出てきたのは“あずま”じゃなくて“あずさ”という読みで、しかも海外の記事。
「アズサ・シノノメ」って名前の女の子で、確認もせずそのまま閉じた。
まぁ、何も悪い情報が出なかっただけマシかもしれない。
俺にとっては、たまたま同じクラスになっただけの、関わりのない奴だ。
目が合ったら逸らす、廊下ですれ違ったら距離を取る──それが正解。
触らぬ神に祟りなし。
……そう思っていた、そのときだった。
「Dis… tu trouves pas qu’il fait froid, aujourd’hui ?」
えっ……?
金髪の転校生──シャルロットが、席に向かう東雲の背中に、唐突に声をかけたのだった。
カーテンの隙間から差し込む光が、机にやわらかく影を落としている。
朝礼のチャイムが鳴る直前の教室は、にぎやかというより、ゆるやかなざわめきに包まれていた。
友達の机に肘をついて昨日のドラマの感想を語る女子。
スマホでお気に入り動画を見せ合って爆笑する男子。
1人で静かに本をめくるやつもいる。
そんな中、担任の森先生が扉を開けて入ってきた。
「はいはーい、席について~。今日はお待ちかね、留学生の紹介があるぞ~!」
その一言で、全員が慌てて着席し、視線が前に集まる。
先生の後ろに立っていたのは──
さらりと風に揺れる金髪、透き通る青い瞳の異国の少年だった。
白い肌に整った顔立ち。
きっちり着こなした制服は、まるで絵画から抜け出してきたみたいで、教室中が一瞬息を呑む。
(……あの制服、俺のと同じだよな? なんか違くね?)
そう思ったのは、この物語の“語り手”でもある俺、田中善人、17歳。
……そう、これは俺目線で語られる物語だ。
だけど、残念ながら主人公は俺じゃない。
この物語の主役は、間違いなく今、目の前に現れた──
【Charlotte S. Bellamy】
⸻
「前にも言ったが、今年からうちも国際交流プログラムに参加することになった。その第一号、フランスからの留学生、シャルロット・S・ベラミー君だ」
先生が黒板に書いたのは横文字の名前。
読めそうで読めないその綴りに、教室内が妙な緊張感に包まれる。
「え、あれでシャルロットって読むの? チャルロッテかと思った」
「それは単純に、お前がバカ」
「ねぇ、フランス語って分かったりする?」
「するわけないじゃん! メルシーくらいしか知らねーし!」
ヒソヒソ声があちこちで飛び交う。
シャルロットがふわりと微笑んだ瞬間──
金色の髪が揺れ、長いまつ毛が伏せられる。
「美人すぎ」「王子じゃん……」と漏れる声に、空気が一瞬だけ静まった。
「で、彼はまだ日本語がちょっと不安らしくてな。誰かフランス語できるやつ、サポートしてくれると助かるんだが……」
実は俺、第二外国語でフランス語を取ってる。
発音練習だってしてるし、将来的には留学もアリかも、とか思ってる。
だから腕を試すチャンスだ。……のはずなんだけど。
あんなキラキラの隣に並ぶ勇気はない。
俺は純和風な顔立ち。
凹凸が少ないとか、のっぺりしてるとか、昭和の時代に生きてそうとか言われるタイプ。
そんな俺が超絶美形の横に立ったら、絶対見比べられて笑われる。
手を挙げるか迷っていると、先生が「第二外国語でフランス語取ってるやつ~?」と視線を巡らせた。
そのとき──
ガラリ。
前方の扉が開き、ぬっと背を丸めた長身が入ってきた。
ぼさっとした黒髪、ゆるく結ばれたネクタイ。
第一ボタンは外れ、制服は着崩し気味。
185センチはありそうな体格に鋭い目つき、唇のピアス。
クラスで一番近寄りがたい存在、東雲(しののめ)だ。
──フルネームは、確か、東雲梓真(あずま)。
転校生をじろっと一瞥すると、無言で自分の席へ向かう。
……やっぱ東雲、こえぇ。
何せ彼には悪い噂が多い。
他校の奴らと喧嘩三昧だの、ガラの悪い大学生とつるんでるだの、強面のおっさんと歩いてただの。
あまりに気になって、同じクラスになった日に名前を検索したこともある。
けど、“東雲梓真”じゃ全然出てこない。
出てきたのは“あずま”じゃなくて“あずさ”という読みで、しかも海外の記事。
「アズサ・シノノメ」って名前の女の子で、確認もせずそのまま閉じた。
まぁ、何も悪い情報が出なかっただけマシかもしれない。
俺にとっては、たまたま同じクラスになっただけの、関わりのない奴だ。
目が合ったら逸らす、廊下ですれ違ったら距離を取る──それが正解。
触らぬ神に祟りなし。
……そう思っていた、そのときだった。
「Dis… tu trouves pas qu’il fait froid, aujourd’hui ?」
えっ……?
金髪の転校生──シャルロットが、席に向かう東雲の背中に、唐突に声をかけたのだった。
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