狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 最近、この国では“新しい命”がやたらと増えている。
 って言っても、人間の子供の出生率が上がったって言う話じゃない。
 動物、いや、ペットの話。
 昔は、ライオンとヒョウを掛け合わせた「レオポン」が生まれただけで大騒ぎだった。
 でも、それはもう一昔前の話。

 今の時代、全く違った動物と動物を掛け合わせることが、普通。
 イヌとネコ、タヌキとアライグマ──そんな組み合わせはもう古い。
 今はもっと皆の興味が集まるような、ウサギとカメ、ネコとヘビ、なんていう不思議な“ハイブリッド種”が人気だ。
 SNSでは今日も「世界初! 歌うハムスター」だの「人間より速いカメ」だのが話題になっている。

 まぁ、どれもこれもが作られる数が少ないために、当然プレミア価格。
 俺みたいな庶民が一生かかっても手を出せる値段じゃない。
 だから、俺にとっては夢の国の話みたいなもんだと思っていた。

 俺の名前は、蓮井蓮太郎(はすい・れんたろう)。
 廃棄リサイクルセンター勤務、通称“ごみ屋”。
 会社では、何故か「レンレン」と呼ばれている。
 両親の離婚で苗字が変わったとき、冗談で事務の吉井さんが「蓮井蓮太郎、レンが二個でレンレンですね」って笑ってくれたのが、どうやら定着してしまったらしい。

 リサイクルセンターの仕事は単純。
 大型ゴミや、燃えるゴミ・燃えないゴミで回収できないものを集めてきて、ベルトコンベアに乗せて、焼却炉に流す。それだけだ。
 たまにだが、燃やしちゃいけないもののが混ざっていることもある。
 だから、ちゃんと目視でチェックする必要があって、ベルトコンベアを見守るのも俺の仕事っていうわけだ。

 今日も処理場は満杯だ。
 ハイブリット種の新種が出たとニュースで毎日のように耳にし、新しい命が生まれては飽きられていく。
 そんな世の中だから、いらなくなったものを再利用することなく捨てる人間も多くなった。
 俺の仕事は、それを“処理”すること。

 膝には古いサポーター。
 高校も大学も空手推薦で進んだけど、大学二年で膝を壊して退学した。
 それっきり、気づけばここで働いて三年目。
 勉強が得意でなく、体力しか取り柄がない俺には、ちょうどいい仕事だ。

 その日も、溶鉱炉の音がガンガン響く中で、紙コップのコーヒーをすすってベルトコンベアの流れを眺めていた。
 すると、ベルトコンベアに乗って流れていく壊れた棚の向こうから、カサカサとビニール袋を擦るような音と「きゅう、きゅう」と小さな声が聞こえた、気がした。

「……ん?」

 聞き間違いかと思ったけど、耳を済ませてみれば、やっぱり聞こえる。
 しかも、今度ははっきり「キュウキュウ」と、助けを求めるような声だ。

 棚を押し除け丸い変な発泡スチロールのゴミをかき分けると、黒いビニール袋がもぞもぞ動いているのが見えた。
 中に何かが入っていて動いているのだが、規則的な動きじゃない。
 おもちゃじゃないことは一目瞭然だった。

「……おいおい、まさか生きてんのかよ」

 黒い袋を手に取り、安全な場所へ移動させると、相変わらず黒い袋がモゾモゾ動いている。
 袋を破ってやると、もふっと黄色い毛が溢れてきた。
 大きな尻尾が袋の外へ広がるように出てきたと思ったら、おもちゃみたいに小さな足がふみふみと天を蹴る。
 この小さな足が袋をずっと突いていたのか。
 大きなとんがった耳に、黄色い毛。顔の感じからして狐っぽい気がする。
 でも──尻尾の数が、おかしい。

 ひとつ、ふたつ、みっつ……。
 数えるたびに、もふもふの束が増えていく。
 まるで花びらみたいに、尾が何重にも重なっているように見えるが、正確な数字は分からなかった。

「……なんだ、おまえ」

 返事はない。
 ただ、キュウと鳴きながら、青くて大きな目がじっと俺を見上げていた。

 小さいとはいえ、生き物をゴミとして回収してくるなんて、一体どこに目を付けてるんだ。
 俺はファイルを引っ張り出して、ゴミを運んできた担当エリアを確認した。
 どこのどいつに文句を言えばいいんだ。
 今日のラインは第三区画。責任者は三課の──高梨。

(うわ……よりによって高梨かよ……)

 俺はファイルを閉じると、思わず天を仰いでしまった。
 高梨は、俺と同じ年ぐらいのやつなんだが、冗談が通じない男だ。
 俺の名前の話をしていた時も「レンレンって?パンダか?は?蓮井の名前?それなら“ハスハス”の方が音読み的に正しい」なんて言ってきた。
 
 それ以来、高梨には“ハスハス”と呼ばれるようになった。
 吉井さんの「レンレン」は許すが、お前は許さん!
 普通に蓮井って呼べ!

 この名前の一件でもわかるように、高梨は融通が効かないところがある。
 ここで第三区画に通報すれば「どこの家庭から出たゴミかを特定しなければならない」などと高梨は主張するだろう。
 いや、本来はそれが正しい。
 正しいんだが──正しいことは、いつも、とても面倒くさい。

 一旦ベルトコンベアを止め、周りのゴミを漁って大体の居住地を確認し、当たりをつけて一件一件自宅を訪ねて、ゴミを捨てていないかを確認し、“命を捨てないで”というチラシを渡す。
 さらには、会社に提出する書類として、異物発見報告書・混入確認票・保護申請依頼票の3つの書類を“俺が“作成する。
 そして──今日中に決められた量の処理が終わらなかったら、プラスで始末書を“俺が“作成し、“俺が“上長・所長の押印を貰って提出することになる。

 明日はせっかくの休みだ。今日はさっさと帰りたい。
 1ミリたりとも、残業なんざしたくないんだよ。

 だけど、生き物を見つけてしまった以上、焼却炉に戻すわけにもいかない。
 でも、高梨に連絡するのも面倒で仕方ない。
 できればこのまま穏便に──むしろ、無かったことにすらしたい。

 (……どうする、俺)

 俺はため息をついて、ジャケットの前を開いた。

「よし。俺が“拾った”って、ことにしよう。」

 通報はせずに、何事もなかったかのように仕事に戻る。
 その小さな生き物は、キュウっとひとなきしてから俺の腹のあたりで丸くなった。

 こうして、俺は“ごみの山の中から宝石”を拾ったのだ。
 この世界で、たった一匹しか存在しない宝石を──。
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