狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 家に帰ると、アパートの部屋はいつも通りに散らかっていた。
 仕事用のつなぎとジャンパーを脱ぎ捨てて、さっき拾った“なにか”を、みかんが入っていた段ボール箱に入れる。
 何もないのも不憫に思えて、タオルと牛乳を少し皿に注いで置いてやった。

 うん、それだけで、何となく“いいことをした“って感じがする。 
 でも、ふわふわした毛玉は、牛乳の匂いを嗅ぐと、ぷいっと顔を背けた。
 ツンだ。とてもツン。

「明日、飼い主を探してやるからな。」

 この家では動物は飼えないし、そもそも飼うつもりもない。
 尻尾をふくらませたまま、毛玉はしばらくこちらを見ていた。
 そのうち、身体をぐるりと包み込むように尾を広げ、丸くなった。
 まるで、大きなタンポポの綿毛みたいだ。
 中心にいる本体は、どこから見ても見えない。

 見事な半球のように見えて、思わず指を差し込んでみた。
 ぬーっと綿毛に吸い込まれていく指先。
 それが面白くて、別の場所を指でつつくと──ガブッ!
 右手の甲に鋭い痛みが走った。
 
「いってぇ!!」

 咄嗟に手を引くと血がにじんで、そこだけ熱を持っている。
 まるで火であぶられたみたいだ。

「な、何すんだよ……!」

 毛玉からいつの間にか顔が出ていて、青い瞳がこっちを見ていた。
 俺の声に、びくっと震え、段ボールの隅へ逃げるように身を寄せる。
 尻尾が丸まり、だけど目だけはずっとこっちを見ていた。
 青い瞳は怒っているのか、怯えているのか、よくわからなかった。

 (……でも、こいつも、嫌だったんだろうな)

「驚かせて悪かったな。」

 それ以上、何も言えなかった。
 夜も遅いこともあって、適当に消毒だけして、病院行きはやめた。

 ◇◇

 真夜中。

 体のだるさが、じわじわ広がっていく。
 久しぶりにゾクゾクして、体温計で熱を測ると、三十八度八分。
 高梨に「ハスハス」を呼ばれる時よりも嫌な感じだ。

「……やられたな。さっきの噛まれたやつが原因か?」

 ふら、と並行を保てないように、ふらふらするし、視界がぼやける。
 部屋の明かりが、やけに遠い。
 頭がガンガンと痛むのもあり、冷やせるものを探したが、何も見つからず、
 しょうがない。冷やせるものなんて、これくらいしかない。

 仕方なく、こんにゃくを頭に乗せることにした。

 ベッドに倒れこむと、こんにゃくが冷たくて気持ちいい。
 痛む頭に、ゆっくりと意識が遠のいていった。

◇◇

 夢の中で、俺は真っ白な場所に立っていた。
 遠くで光がゆらゆらしている。
 ひとつの影が近づいてきた。
 手足の長いシルエット。その後ろで、尻尾が何本も何本も揺れている。

『──このまま、眠ってしまうのですか?』

 声? いや、頭の中に直接響いた。
 その声の主が、そっと額に触れた気がして。
 その瞬間、眩しい光が走った。

◇◇

 翌朝。
 目が冷めた時には、熱は下がっていた。
 体調も悪くない。噛まれた場所も別に腫れてない。
 あの夢は、ただの熱のせいだったんだろうか。
 視線を動かすと、毛玉は段ボールの端っこで丸くなって眠っているらしい。

「……何だったんだろうな」

 そう呟きながら、俺はスマホを手に取った。
 “迷いペット掲示板”を開いて、こいつの写真を探すが見つからない。
 ここには登録されていないのだろうか。
 
 でも、よくよく考えれば、拾ったのはゴミの中で、黒いビニール袋にいた。
 うっかり間違えて、捨ててしまった、というには無理がある。

(……捨てるつもりだったんだろうな…)

 だったら、新しい飼い主を探してやるのが一番良さそうだ。 
 そう思った俺は、別の掲示板を探した。
 そう、ペットの無料の譲渡掲示板。

 動物の種類、拾った場所、そして名前などを入力し登録するらしい。
 その掲示板には、たくさんの動物が載っていたが“交渉中“と赤文字が書かれているものも多く、引き取りたい人間がコンタクトを取っているものも結構あった。

 これは期待できそうだ。

 種類──狐(たぶん狐ですが詳しくはわかりません)
 拾った場所──ごみに紛れ込んでいました
 名前──
 
「名前……か」

 どうしようか、と狐の顔を見ようと視線を動かした時に視界に入ったのは、おでこに乗せていた“こんにゃく”。

「……ま、“こんにゃく”でいいか」

 そう呟いて、登録ボタンを押そうとしたとき――

「そんなクソダサい名前、笑えない冗談ですわ!」

 誰かの声が聞こえた気がした──。
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