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ゴミの中の宝石
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家に帰ると、アパートの部屋はいつも通りに散らかっていた。
仕事用のつなぎとジャンパーを脱ぎ捨てて、さっき拾った“なにか”を、みかんが入っていた段ボール箱に入れる。
何もないのも不憫に思えて、タオルと牛乳を少し皿に注いで置いてやった。
うん、それだけで、何となく“いいことをした“って感じがする。
でも、ふわふわした毛玉は、牛乳の匂いを嗅ぐと、ぷいっと顔を背けた。
ツンだ。とてもツン。
「明日、飼い主を探してやるからな。」
この家では動物は飼えないし、そもそも飼うつもりもない。
尻尾をふくらませたまま、毛玉はしばらくこちらを見ていた。
そのうち、身体をぐるりと包み込むように尾を広げ、丸くなった。
まるで、大きなタンポポの綿毛みたいだ。
中心にいる本体は、どこから見ても見えない。
見事な半球のように見えて、思わず指を差し込んでみた。
ぬーっと綿毛に吸い込まれていく指先。
それが面白くて、別の場所を指でつつくと──ガブッ!
右手の甲に鋭い痛みが走った。
「いってぇ!!」
咄嗟に手を引くと血がにじんで、そこだけ熱を持っている。
まるで火であぶられたみたいだ。
「な、何すんだよ……!」
毛玉からいつの間にか顔が出ていて、青い瞳がこっちを見ていた。
俺の声に、びくっと震え、段ボールの隅へ逃げるように身を寄せる。
尻尾が丸まり、だけど目だけはずっとこっちを見ていた。
青い瞳は怒っているのか、怯えているのか、よくわからなかった。
(……でも、こいつも、嫌だったんだろうな)
「驚かせて悪かったな。」
それ以上、何も言えなかった。
夜も遅いこともあって、適当に消毒だけして、病院行きはやめた。
◇◇
真夜中。
体のだるさが、じわじわ広がっていく。
久しぶりにゾクゾクして、体温計で熱を測ると、三十八度八分。
高梨に「ハスハス」を呼ばれる時よりも嫌な感じだ。
「……やられたな。さっきの噛まれたやつが原因か?」
ふら、と並行を保てないように、ふらふらするし、視界がぼやける。
部屋の明かりが、やけに遠い。
頭がガンガンと痛むのもあり、冷やせるものを探したが、何も見つからず、
しょうがない。冷やせるものなんて、これくらいしかない。
仕方なく、こんにゃくを頭に乗せることにした。
ベッドに倒れこむと、こんにゃくが冷たくて気持ちいい。
痛む頭に、ゆっくりと意識が遠のいていった。
◇◇
夢の中で、俺は真っ白な場所に立っていた。
遠くで光がゆらゆらしている。
ひとつの影が近づいてきた。
手足の長いシルエット。その後ろで、尻尾が何本も何本も揺れている。
『──このまま、眠ってしまうのですか?』
声? いや、頭の中に直接響いた。
その声の主が、そっと額に触れた気がして。
その瞬間、眩しい光が走った。
◇◇
翌朝。
目が冷めた時には、熱は下がっていた。
体調も悪くない。噛まれた場所も別に腫れてない。
あの夢は、ただの熱のせいだったんだろうか。
視線を動かすと、毛玉は段ボールの端っこで丸くなって眠っているらしい。
「……何だったんだろうな」
そう呟きながら、俺はスマホを手に取った。
“迷いペット掲示板”を開いて、こいつの写真を探すが見つからない。
ここには登録されていないのだろうか。
でも、よくよく考えれば、拾ったのはゴミの中で、黒いビニール袋にいた。
うっかり間違えて、捨ててしまった、というには無理がある。
(……捨てるつもりだったんだろうな…)
だったら、新しい飼い主を探してやるのが一番良さそうだ。
そう思った俺は、別の掲示板を探した。
そう、ペットの無料の譲渡掲示板。
動物の種類、拾った場所、そして名前などを入力し登録するらしい。
その掲示板には、たくさんの動物が載っていたが“交渉中“と赤文字が書かれているものも多く、引き取りたい人間がコンタクトを取っているものも結構あった。
これは期待できそうだ。
種類──狐(たぶん狐ですが詳しくはわかりません)
拾った場所──ごみに紛れ込んでいました
名前──
「名前……か」
どうしようか、と狐の顔を見ようと視線を動かした時に視界に入ったのは、おでこに乗せていた“こんにゃく”。
「……ま、“こんにゃく”でいいか」
そう呟いて、登録ボタンを押そうとしたとき――
「そんなクソダサい名前、笑えない冗談ですわ!」
誰かの声が聞こえた気がした──。
仕事用のつなぎとジャンパーを脱ぎ捨てて、さっき拾った“なにか”を、みかんが入っていた段ボール箱に入れる。
何もないのも不憫に思えて、タオルと牛乳を少し皿に注いで置いてやった。
うん、それだけで、何となく“いいことをした“って感じがする。
でも、ふわふわした毛玉は、牛乳の匂いを嗅ぐと、ぷいっと顔を背けた。
ツンだ。とてもツン。
「明日、飼い主を探してやるからな。」
この家では動物は飼えないし、そもそも飼うつもりもない。
尻尾をふくらませたまま、毛玉はしばらくこちらを見ていた。
そのうち、身体をぐるりと包み込むように尾を広げ、丸くなった。
まるで、大きなタンポポの綿毛みたいだ。
中心にいる本体は、どこから見ても見えない。
見事な半球のように見えて、思わず指を差し込んでみた。
ぬーっと綿毛に吸い込まれていく指先。
それが面白くて、別の場所を指でつつくと──ガブッ!
右手の甲に鋭い痛みが走った。
「いってぇ!!」
咄嗟に手を引くと血がにじんで、そこだけ熱を持っている。
まるで火であぶられたみたいだ。
「な、何すんだよ……!」
毛玉からいつの間にか顔が出ていて、青い瞳がこっちを見ていた。
俺の声に、びくっと震え、段ボールの隅へ逃げるように身を寄せる。
尻尾が丸まり、だけど目だけはずっとこっちを見ていた。
青い瞳は怒っているのか、怯えているのか、よくわからなかった。
(……でも、こいつも、嫌だったんだろうな)
「驚かせて悪かったな。」
それ以上、何も言えなかった。
夜も遅いこともあって、適当に消毒だけして、病院行きはやめた。
◇◇
真夜中。
体のだるさが、じわじわ広がっていく。
久しぶりにゾクゾクして、体温計で熱を測ると、三十八度八分。
高梨に「ハスハス」を呼ばれる時よりも嫌な感じだ。
「……やられたな。さっきの噛まれたやつが原因か?」
ふら、と並行を保てないように、ふらふらするし、視界がぼやける。
部屋の明かりが、やけに遠い。
頭がガンガンと痛むのもあり、冷やせるものを探したが、何も見つからず、
しょうがない。冷やせるものなんて、これくらいしかない。
仕方なく、こんにゃくを頭に乗せることにした。
ベッドに倒れこむと、こんにゃくが冷たくて気持ちいい。
痛む頭に、ゆっくりと意識が遠のいていった。
◇◇
夢の中で、俺は真っ白な場所に立っていた。
遠くで光がゆらゆらしている。
ひとつの影が近づいてきた。
手足の長いシルエット。その後ろで、尻尾が何本も何本も揺れている。
『──このまま、眠ってしまうのですか?』
声? いや、頭の中に直接響いた。
その声の主が、そっと額に触れた気がして。
その瞬間、眩しい光が走った。
◇◇
翌朝。
目が冷めた時には、熱は下がっていた。
体調も悪くない。噛まれた場所も別に腫れてない。
あの夢は、ただの熱のせいだったんだろうか。
視線を動かすと、毛玉は段ボールの端っこで丸くなって眠っているらしい。
「……何だったんだろうな」
そう呟きながら、俺はスマホを手に取った。
“迷いペット掲示板”を開いて、こいつの写真を探すが見つからない。
ここには登録されていないのだろうか。
でも、よくよく考えれば、拾ったのはゴミの中で、黒いビニール袋にいた。
うっかり間違えて、捨ててしまった、というには無理がある。
(……捨てるつもりだったんだろうな…)
だったら、新しい飼い主を探してやるのが一番良さそうだ。
そう思った俺は、別の掲示板を探した。
そう、ペットの無料の譲渡掲示板。
動物の種類、拾った場所、そして名前などを入力し登録するらしい。
その掲示板には、たくさんの動物が載っていたが“交渉中“と赤文字が書かれているものも多く、引き取りたい人間がコンタクトを取っているものも結構あった。
これは期待できそうだ。
種類──狐(たぶん狐ですが詳しくはわかりません)
拾った場所──ごみに紛れ込んでいました
名前──
「名前……か」
どうしようか、と狐の顔を見ようと視線を動かした時に視界に入ったのは、おでこに乗せていた“こんにゃく”。
「……ま、“こんにゃく”でいいか」
そう呟いて、登録ボタンを押そうとしたとき――
「そんなクソダサい名前、笑えない冗談ですわ!」
誰かの声が聞こえた気がした──。
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