狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 今日が休みで本当に良かった。

 そんなことを思いながら、段ボールを抱えた腕で動物病院の扉を押し開ける。
 朝早い時間だったからか、待合室はガラガラだった。

 そっと段ボールを足もとに置き、受付へ向かう。
 女性スタッフが笑顔で出迎えてくれる。

「すみません。あの……昨日、拾ったんですけど、何をどうしたらいいのか、分からなくて…」

「まぁ、そうでしたか。どんな子ですか?」

「えっと……キツネみたいな……いや、キツネです。もしかしたら、何かのハイブリッドかも……」

 スタッフの笑顔が一瞬だけ固まった気がした。

「……とりあえず、先生に診てもらいましょうか」

 その返事に、心の中で小さくガッツポーズを取る。
 “あわよくば『こちらで預かりましょうか?』って言ってくれないかな”
 なんて淡い期待もしていた。

 ……だが、そんなことは一ミリも起きなかった。

 逆に、拾った個体なら確認事項が多いらしく、
 「感染症の検査」「マイクロチップの有無」「狂犬病ワクチン接種」──
 立て続けに説明を受け、見積書を渡された。

「こちら、おおよそ二万五千円ほどになります」

「……え?」

 財布を開く手が止まる。

「え、あの……? 拾っただけなんですけど……」

「はい。拾われた方が一時保護者となりますので」

「一時保護者……?」

「はい。譲渡されるにしても、ワクチン接種は一時保護者の義務ですから。
 それに病気の有無も確認しておかないと、後々トラブルになりかねません」

 聞き慣れない言葉に、ずっしりと重みを感じた。
 診療代は取られるわ、ワクチン代は取られるわで、拾っただけなはずだったのに、説明を聞いているだけで散々だった。

 ペットって金がかかるとは聞いていたが、まさか拾っただけでも、こんなにも掛かるとは思ってもみなかった。

(高梨に請求してやりてぇ…元はと言えば、あいつがちゃんとゴミを確認せずに持ってくるからこんなことになってんだろ。)

「こいつ喋るんです」なんて、口が裂けても言えない。
 喋るなんて分かったら、きっとみんな裸足で逃げ出してしまう。

 見積書を手に、段ボールのそばに腰を下ろす。
 そのとき、段ボールの蓋がもぞっと動いて、キュンと尖った鼻が突き出てきた。

 ヒクヒクと鼻を動かしたかと思ったら、ぴたりと止まり、すす、と鼻先が引っ込んでいく。

 何だ? と思って見ていると、段ボールの反対側。
 俺から見えにくい側の面が、メリメリと音を立てて破れ始めた。

 そして──ひょこり。
 大きな尻尾の房が1つ2つと数を増やしながら現れたかと思うと、そのままお尻をフリフリしながら出てこようとしている。

(……まさか、病院だと気づいたか?)

 最後に顔をむにゅっ、と引っ張り出し大きな耳が無事に出たところで、声をかけた。

「お前、何してんだ?」

 キツネはぴょんっと跳ね上がるように、軽くジャンプした。

「……お、おどろかせるなんて、卑怯でございますわよ!」

「どこ行くんだよ」

「……おトイレですわ」

「嘘つけ。逃げる気だったんだろ。違うか?」

 そんなやりとりをしているとき、視界に映るコジャクの尻尾たち。
 もふもふ、もふもふ、と軽く動く。
 そして、ずっと気になっていたことを口にしてみた。

「お前、尻尾いくつあるんだ? ちょっと尻見せてみろよ」

「なっ!?ワ、ワタクシめの、プリチーなお尻の穴を見たいだなんて、そんなハレンチな──!!」

「いや、穴じゃねぇよ!? 尻尾だよ、尻尾!尻尾の数!」

「……本当ですの!?」

「何で俺がお前のお尻の穴なんか見なきゃいけないんだよ!」
 
 待合室にいた老夫婦が、何事かと振り返った。
 俺は慌てて段ボールを抱え直す。

(……お願いだから、静かにしてくれ!)
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