狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 キャリーケースに入れたままスーパーに入ると、
 油揚げとダージリンを探して棚から棚へと右往左往する羽目になった。

 今までの人生で、この二つを同時に買ったことなんて一度もない。
 どこにあるんだ? 紅茶はともかく、油揚げって……どのジャンルだ?
 乾物? 惣菜? 麺類の隣か? それとも……スナック?

 昆布・わかめ・のりの棚にはなかった。
 惣菜コーナーにも、うどんの棚にも見当たらない。
 もう、ぐるぐる何周したか分からないころ──ようやく見つけた。

「あっ! くそ……あった! 油揚げ! 豆腐の近くかよ!」

 思わず声が出た。
 三枚入りの油揚げを手に取ると、腹がぐぅと鳴った。
 そういえば、朝飯も食ってなかった。
 ついでに自分の弁当も買って、ようやく帰宅の途についた。

(……このミッション、難易度高すぎだろ)

 ドスドス揺れるリュックを背負って帰宅。
 玄関で下ろすと、コジャクがチャックの隙間に鼻先を突っ込んで、
 器用にファスナーを開け始めた。

(……器用だな。泥棒か?)

 床に出てきたコジャクを横目に、ふと思う。

(そういや……油揚げって、どうやって食わせるんだ?)

 スマホで検索するも、“ペットに油揚げ”なんて記事は一つも出てこない。
 代わりに出てきたのは「お外の子をお迎えした時にやること」という見出し。

 ──“第一に、風呂に入れましょう。”

(……風呂?)

 “外で拾った子にはノミ・ダニがついていることがあります。
 必ず綺麗にしてあげましょう”

(あぁ、病院でも言ってたな。……飯の前に風呂、か。)

 俺はタオルとペット用シャンプーを持って、風呂場へ向かった。

「さて、風呂に入るぞ」

「えっ!? ご飯を食べませんの!?」

「飯より先にノミ退治。油揚げは風呂のあとだ。」

「なっ!? 交換条件とは卑怯ですわっ!!」

 ぷんすか尻尾を膨らませて抗議するコジャクを、
 両手でひょいと持ち上げて、そのまま浴室へ連行する。

 桶にぬるめのお湯を張って、優しく下ろそうとしたが──
 コジャクは器用に桶の縁に前足と後ろ足を突っ張り、
 全身で拒否姿勢を取った。

「ワタクシ、濡れるのが苦手なのですっ!!」

「家中にノミが広がったら困るんだよ!」

 風呂に入れたい俺と、油揚げを求めるコジャク。
 お互い譲らず、浴室の中でにらみ合い。

(……いや、動物相手に何してんだ俺)

 ふと手を離すと、コジャクは勝ち誇ったような顔をした。

(……勝ったと思ってるな? 惜しいな。)

 次の瞬間、シャワーのスイッチをひねる。

 ──じゃあぁっ。

「ひぃッ!?!? 上から来るなんて反則ですわぁぁ!!」

「しょうがねぇだろ! 自分から入らないんだから!」

 放水に全身びしょ濡れになったコジャク。
 金色の毛並みがぺたんと張り付き、
 体のラインが細っそりと浮かび上がる。

(……毛、すげぇ膨らんでたんだな)

「これは由々しき事態ですわっ! 今すぐ弁護士を呼びなさい!」

「いいからおとなしくしてろ、すぐ終わる!」

 泡立てたシャンプーを両手ですくい、
 もこもこの泡で背中を優しくこすっていく。

 すると──泡が全身を包み、コジャクはまるで羊のようになった。

「……おぉ、もこもこだな。羊さんみたいで可愛いじゃないか」

「そんなんで誰が喜ぶと思ってるんですかっ!!」

 ツンツンどころか、ツンツンツンツンになっているコジャク。
 その姿に、俺は思わず笑ってしまった。

「はいはい。さっさと終わらせて、油揚げにしような。」
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