狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 コジャクを拾ってから、初めての出勤日だ。
 朝から体が重い。
 ──いや、正直、まだ現実を受け入れきれてない。

 台所には昨夜の茶葉の残骸。
 リビングには、ふわふわした金色の毛が数本。
 どこを見ても、夢じゃない。

「コジャク、俺は仕事だから、昼間は静かにしてろよ? いいな?飯はそこ、ダージリンもそっちに入れてるからな。」

「──分かってますわ」

 短く答える声が妙に落ち着いていて、
 まるで“行ってらっしゃい”と言われたみたいだった。

 昨日のトイレ事件のあと、俺は夜遅くまでスマホで調べた。
 “ハイブリット種とは何か”を。

 ──そして、思っていたよりもずっと現実的な存在だと知った。

 ハイブリット種は、もともとペットとして作られた人工の生命体。
 遺伝子操作で動物同士の特徴を掛け合わせ、
 人間に懐きやすく、世話がしやすいように設計されている。

 毛が抜けにくく、アレルギー反応も起こしにくい。
 排泄も人間と同じように便座でできる個体が多いという。

 つまり──人でもロボットでもない。
 けれど動物でもない、“飼いやすく作られた存在”。

 そんな彼らは、ひとたび捨てられたら自力で生きるのが難しい。
 狩猟本能もないし、繁殖能力も制限されている。
 だから「野生のハイブリット種」はほとんど存在しない。

 要は、“便利な命”。
 そういうものなんだと、胸の奥が少し重くなった。

 でも、思い返せばブドウや柿だって、タネのないものが増えた。
 人間が食べやすいように改良され、
 その結果、タネ──つまり命を繋ぐ仕組みを失った。

 そう考えたら、ハイブリット種も似たようなものなのかもしれない。
 人間にとって“扱いやすい”ことが、必ずしも彼らにとって幸せとは限らないのに──。

 思わず、目に熱いものが込み上げてくる。
 目の前の小さな存在が、一気に愛おしく感じてしまい、
 つい、手を伸ばしてその頭をそっと撫でた。

 ふわふわと柔らかい毛。
 温かい。
 ──たぶん、この子も、誰かに撫でられて生きてきたんだろう。

「……お前も、大変だったな」

 ぽつりと呟いた瞬間。

 シュタッ。

 コジャクが素早く手から逃げ、
 その金の尻尾をバサッと揺らした。

「ちょっと痛いですわよ!? その手、ささくれだらけじゃありませんの!?」
「えっ……」
「もう! ちゃんとケアなさい! 女性にモテない理由が凝縮されてましてよ!」

 まくしたてるように言われて、言葉が出ない。

 ──あぁ、やっぱり。

 そっとため息をついて、俺は苦笑した。

「……やっぱ、可愛くない」
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