狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 隣でお弁当箱のフタを開ける仕草が妙に丁寧で、ふわりと香るいい匂いが鼻をくすぐる。
(何の匂いだ…? シャンプー? 柔軟剤? それとも……)

 俺は弁当の箸を持ったまま固まってしまった。

 赤いスリムなお弁当箱を開く吉井さん。
 彩り豊かな野菜と卵焼き。見るからに栄養バランスがいい。
 一方の俺は、唐揚げがドンと乗った茶色いスタミナ弁当。
 気持ちだけ添えられたレタスは、もうしんなりしていた。

(吉井さんって……料理も上手いのか? 夜も自炊してるんだろうな)

「あれ? レンレンさん、お昼食べないんですか?」

「あ、食べる食べる。うん」

「ふふ、一緒にお昼食べるのって新鮮ですね」

「そうだよね……」
(新鮮どころじゃなくて、俺はもう心臓バクバクなんですけど?)

 吉井さんは上品に海苔巻きを口に運ぶ。

 その横顔を見ながら、
(あぁ、そりゃ猫も可愛いに決まってる)
 と謎の嫉妬のような愛しさが胸に湧いたが、慌てて振り払った。

「ところでさ、さっき言ってたペットカメラだけど……」

「あ、はい! 本当に便利なんですよ。
 誰かと暮らしてると、“今、何してるかな”ってすぐ気になっちゃって」

「……俺も、それ思った」

「ふふ、レンレンさん、もう“いい飼い主さん”じゃないですか」

「いやいや……あいつは可愛いっていうか……うるさいっていうか……」

 俺が言うと、吉井さんが箸を止め、柔らかく笑った。

「いいんですよ、うるさくても。
 私、猫を飼い始めてから、家に帰るのが楽しみになりました。
 “誰かが待ってる”って、それだけで全然違いますから」

 胸の奥が、じわっと温かくなる。

 誰かが待ってる。
 コジャクが俺を待ってるかは分からないけど──

(帰ったら文句言いながら近寄ってくるんだろうな)
 その想像が、なぜか嫌じゃなかった。

「あの……良かったら」

 吉井さんが、少しだけ照れたようにスマホを差し出してきた。

「うちの猫のライブ映像、見ます?」

「え、いいの?」

「もちろん」

 画面には、白い猫が丸まって眠っている姿。
 ぴくっと動くたびに尻尾が揺れて、吉井さんが嬉しそうに目を細める。

「えー、こんな感じなんだぁ……」

 思わず声が漏れる。
 けど、俺の視線は猫だけじゃなくて──

(可愛いクッション……ピンク……あれ、花柄?
 え、女の人の部屋って……こんな可愛いんだ……?)

 予想の五倍は可愛くて、心臓が変な跳ね方した。

 猫の寝床の周りには、ふわふわのブランケット。
 棚には小さな観葉植物。
 奥には、ほんのり間接照明。

 “生活してる気配”の全部が、
 なんか……柔らかくて、優しくて。

(……これ、全部吉井さんの世界なんだよな)

「結構、鮮明に映るんだね」
 
「そうなんです!本当最近のペットカメラ進んでて!私が持ってるのはこれなんですけど、後継機も評判良くて、あとこっちも評判とてもいいんです。ズームができたりとか…」

 顔を寄せられて、画面よりも吉井さんの横顔の方が近い。

(ちょ……距離……いいの?!こんな近くて!!)

 心臓がまた変な音を立てる。

「レンレンさんも、狐ちゃんのライブ見れるようになったら……見せてくださいね」

「えっ……俺の……?」

「はい。だって……レンレンさんの家の子、どんな子なのか気になりますし」

 それが“動物の話”だけじゃない気がして、息が詰まった。

「……じゃあ、カメラ取り付けたら見せるよ」

「楽しみにしてますね」

 吉井さんが、陽だまりみたいな笑顔を見せる。

(……まずは家の片付けしなきゃだ)

 気づかないふりをして、
 俺はスマホで教えてもらったペットカメラを検索するのだった。
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