狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

文字の大きさ
21 / 24
ゴミの中の宝石

21

 翌朝。
 コジャクは珍しくまだ寝ていた。

 鼻先だけ尻尾の中からちょこんと出し、
 そのまま俺に背を向けて丸まっている。

(……昨日のぬいぐるみ、相当ストレスだったんだな)

 そう思うと少しだけ胸が痛んだ。

 問題のタヌキぬいぐるみは、
 朝のうちに棚の裏へ押し込んでおいた。

 見えないどころか、存在感ゼロの位置だ。

(これで……大丈夫だろ。たぶん)

 コジャクが起きないまま、
 俺はそっと玄関の扉を閉めて出勤した。

 数分歩くと、昨日と同じように世界がやけに静かだった。

 ——あいつがいない朝って、普通に快適なんだよな。

(……いや、でも……大丈夫か?)

 あの様子だと、
 棚の影に隠れたぬいぐるみに怯えて丸一日固まってる可能性もある。

 いや逆に、
「もういませんわね」とか言って、
 のびのび暮らしてる可能性もある。

 本当に、どっちに転ぶか分からない。

(昼休みにカメラ覗いてみるかな……)

 買ったばかりのペットカメラは、昨日の夜のうちに設置したが、おそらくコジャクはたぬきのぬいぐるみに必死で、俺がカメラを取り付けたことすら気づいてないはず。

 まだ通知もテストもしていないんだが、本当に見えるのだろうか。

 俺のいない間のコジャクは一体何をして過ごしているのか。
 ベッドの上で飛び跳ねてたりするのかな。
 もし、コジャクがあの警戒心むき出しのまま固まっていたら、それはそれで可哀想だな。

(……まあ、心配ってわけじゃないけど)

 自分に言い訳しながら、
 俺はいつもの作業場へと向かった。

 その胸の奥で、
 昼休みがいつもより少しだけ待ち遠しかった。


 そして、昼。

 今日は奮発して焼肉弁当を買った。
 湯気の立つ肉の匂いを吸い込みながら、
 俺はスマホでライブカメラのアプリを起動する。

(そろそろ昼飯でも食ってるか?
 もしくは昼寝か──)

 黒い画面が一転して明るくなり、
 俺の部屋が映し出された。

(おぉ、ちゃんと部屋全体が見える位置に取り付けられてんな)

 そこまでは良かった。

 ──だが、その瞬間。

「………………は?」

 画面の中心で、

 コジャクと、棚裏に隠したはずの“たぬきのぬいぐるみ”が死闘を繰り広げていた。

 いや、もう“戦争”と言っていい。

 25本の尻尾を総動員し、
 ひとつは叩きつけ、
 ひとつは巻きつけ、
 残りはいっせいに拳を繰り出すかの如く
 たぬきを突きまわっていた。

 相手のぬいぐるみは、
 手足を引きずられながら床の上で転がされ、
 最終的にはコジャクの頭突きを食らっていた。

 画面には音声まで届いてきた。

「何とか言いなさいッ!!木偶の棒がァァァァァ!!」

「…………」

(いや、そもそもなんで棚の裏から出てきてんだよ!!!)

 しかもコジャクは、
 そのぬいぐるみを一度持ち上げて眺め、
 鼻でふんと笑った。

「ワタクシの寝床を荒らすとはいい度胸ですわねぇ……
 どこから入りましたの?このクソ野郎!!」

(俺が買って帰ったんだよ!!)

 そしてコジャクは──
 ぬいぐるみをベッドの上へ叩きつけた。

「……そこはワタクシのベッドですのよ!!」

 ブフッッ!!

 思わず吹き出して笑ってしまう。

(……いや、お前が置いたんだろ!!)

 狐の目がスッと細まり、尻尾がゆらりと揺れた。

「……このタヌキ、どういうつもりですの?」

 そこから始まるコジャクによる攻撃に次ぐ攻撃。
 
(ぎゃあああああああああああああ!!!!)

 もはや、ストレスどころの騒ぎじゃない気がして、
 昼休みの焼肉弁当は、一気に味がしなくなった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。