9 / 59
第9話 阿呆
しおりを挟む
簡単な茶の席では、初めて緑茶を飲んだというクレハの反応が印象的だった。
茶葉はプイスの特産品の一つで、王都では紅茶として飲まれるのが一般的だ。
新鮮な瑞々しい茶葉は収穫後、すぐに蒸し、揉みの工程が行われる。
大陸に輸出する茶葉はこれらの工程の後、船の中で発酵と乾燥の工程を挟む。
海の上で乾燥させるのは、理に反しているように思えるが、潮風で乾燥させた茶葉は独特の風味とほんの少しの塩味を持ち、港に着く頃には唯一無二の紅茶葉として店先に並び、貴族から一般市民の間まで広く嗜まれる。
一方、現地のプイスでは揉みの後すぐに乾燥させ、昔から伝わる棚式と呼ばれる方法で火入れされて緑茶葉となる。
そうして出来上がる茶葉で淹れた緑茶は、独特の苦味や渋みが口一杯に広がった後、ほのかな甘みが広がったかと思えば消える。
そして、薫りが鼻から抜け思わずホッと一息ついてしまう。
どちらにも好き嫌いはあるが、万人には苦味が少ない紅茶の方が好まれる。
故に王都では紅茶の方が人気だった。
クレハははじめ、金色がかった緑色の見たこともない緑茶に難しそうな顔をしていたのだが、一口啜った後は自然な笑みを浮かべていた。
短い時間ではあったが、タリアが淹れてくれた美味い茶と茶菓子を堪能したルーイ、タリア、クレハの一行はカトレアの家を後にした。
時刻は昼前。日差しが本格的になりつつあったが、風は涼しく過ごしやすい。
今からなら初見のクレハを伴っても今日中には戻ってこられる、というルーイの判断で早速出発となったのだ。
とはいえ。
「まずは時間をもらうぞ。何しろ何の準備もしてないからな。ナイフを新調して矢も買っとかないと。後は魔石も補充しておきたい」
ルーイの言葉にクレハは素直に頷いた。
丁寧な物腰で堅物に見えるクレハだが、意外と素直だとルーイは思った。
(変に馴れ馴れしかったり無口だったりするよりは、これくらいの方がオレも気が楽だ。気掛かりなのは……)
ルーイは基本的に単独で魔獣の討伐を行っているので共闘という経験が薄い。
薄い、というのは覚えが全くないわけではないということだが。
(どうせならあの阿呆も連れて行くか……いや、駄目だ。あいつは阿呆だ。どうせ余計なことしかしない)
脳裏に過る幼馴染の顔。
だが、ルーイは即座にその顔を脳内から追い出した。
実力は自分に匹敵する――いや、あんな阿呆に負けるわけない。など、無駄な思考を続けている内に街の中央広場に出た。
大したものではない。
ありきたりだが、真ん中に噴水なんて洒落たものがあるだけの極々平凡な広場だ。
広場の噴水も開拓当時に王から頂いた寄贈品らしい。
名前の通り街の中央に位置するこの広場から東西南北へと真っ直ぐ道が延びている。
ちなみに、カトレアの家は北端で、ルーイの家は街の唯一の出入り口である南の門を出てぐるっと東に回り、そこから北へ向かった場所にある。
「それじゃ、オレは必要なもんを調達してくるから一時間後に集合だ。その後すぐに出るから、しっかり準備してきてくれ」
「分かりました。私も買い出しを済ませておきます。少し調べ物もしてお「クレハさん、せっかくプイスに来たんだから街を案内するよ!」きま……す?」
ガシッ! と、タリアは自身の腕を強引にクレハの腕に絡めた。
その目はギラギラしていて、なんなら星が浮かんでいるようにすら見える。
「調べ物も大事だけど、まずは準備をしないとね! 大丈夫! あたし、こう見えてそこそこ顔が効くんだ! どこのお店に行っても安くしてもらえるか、おまけがもらえるの! だから、行こ!」
「えっ、あ、の、その」
「じゃあね、お兄ちゃん! また後で!」
漫画の如く、足をぐるぐるにして走り出したタリア。
と、それに腕を雁字搦めにされたクレハが、たちまち視界から遠ざかっていく。
「やれやれ……タリアのアレも困ったもんだな」
自分と歳の近い女の子、それも王都で学者をしていると知れば興味が尽きないのだろう。
クレハには少し同情するが、まぁ同行の駄賃とでも思って付き合ってもらおう。
「さってと、それじゃオレも行くとするか」
ルーイはタリアたちとは反対方向、まずは西側の馴染みの武器屋へと足を向けた。
茶葉はプイスの特産品の一つで、王都では紅茶として飲まれるのが一般的だ。
新鮮な瑞々しい茶葉は収穫後、すぐに蒸し、揉みの工程が行われる。
大陸に輸出する茶葉はこれらの工程の後、船の中で発酵と乾燥の工程を挟む。
海の上で乾燥させるのは、理に反しているように思えるが、潮風で乾燥させた茶葉は独特の風味とほんの少しの塩味を持ち、港に着く頃には唯一無二の紅茶葉として店先に並び、貴族から一般市民の間まで広く嗜まれる。
一方、現地のプイスでは揉みの後すぐに乾燥させ、昔から伝わる棚式と呼ばれる方法で火入れされて緑茶葉となる。
そうして出来上がる茶葉で淹れた緑茶は、独特の苦味や渋みが口一杯に広がった後、ほのかな甘みが広がったかと思えば消える。
そして、薫りが鼻から抜け思わずホッと一息ついてしまう。
どちらにも好き嫌いはあるが、万人には苦味が少ない紅茶の方が好まれる。
故に王都では紅茶の方が人気だった。
クレハははじめ、金色がかった緑色の見たこともない緑茶に難しそうな顔をしていたのだが、一口啜った後は自然な笑みを浮かべていた。
短い時間ではあったが、タリアが淹れてくれた美味い茶と茶菓子を堪能したルーイ、タリア、クレハの一行はカトレアの家を後にした。
時刻は昼前。日差しが本格的になりつつあったが、風は涼しく過ごしやすい。
今からなら初見のクレハを伴っても今日中には戻ってこられる、というルーイの判断で早速出発となったのだ。
とはいえ。
「まずは時間をもらうぞ。何しろ何の準備もしてないからな。ナイフを新調して矢も買っとかないと。後は魔石も補充しておきたい」
ルーイの言葉にクレハは素直に頷いた。
丁寧な物腰で堅物に見えるクレハだが、意外と素直だとルーイは思った。
(変に馴れ馴れしかったり無口だったりするよりは、これくらいの方がオレも気が楽だ。気掛かりなのは……)
ルーイは基本的に単独で魔獣の討伐を行っているので共闘という経験が薄い。
薄い、というのは覚えが全くないわけではないということだが。
(どうせならあの阿呆も連れて行くか……いや、駄目だ。あいつは阿呆だ。どうせ余計なことしかしない)
脳裏に過る幼馴染の顔。
だが、ルーイは即座にその顔を脳内から追い出した。
実力は自分に匹敵する――いや、あんな阿呆に負けるわけない。など、無駄な思考を続けている内に街の中央広場に出た。
大したものではない。
ありきたりだが、真ん中に噴水なんて洒落たものがあるだけの極々平凡な広場だ。
広場の噴水も開拓当時に王から頂いた寄贈品らしい。
名前の通り街の中央に位置するこの広場から東西南北へと真っ直ぐ道が延びている。
ちなみに、カトレアの家は北端で、ルーイの家は街の唯一の出入り口である南の門を出てぐるっと東に回り、そこから北へ向かった場所にある。
「それじゃ、オレは必要なもんを調達してくるから一時間後に集合だ。その後すぐに出るから、しっかり準備してきてくれ」
「分かりました。私も買い出しを済ませておきます。少し調べ物もしてお「クレハさん、せっかくプイスに来たんだから街を案内するよ!」きま……す?」
ガシッ! と、タリアは自身の腕を強引にクレハの腕に絡めた。
その目はギラギラしていて、なんなら星が浮かんでいるようにすら見える。
「調べ物も大事だけど、まずは準備をしないとね! 大丈夫! あたし、こう見えてそこそこ顔が効くんだ! どこのお店に行っても安くしてもらえるか、おまけがもらえるの! だから、行こ!」
「えっ、あ、の、その」
「じゃあね、お兄ちゃん! また後で!」
漫画の如く、足をぐるぐるにして走り出したタリア。
と、それに腕を雁字搦めにされたクレハが、たちまち視界から遠ざかっていく。
「やれやれ……タリアのアレも困ったもんだな」
自分と歳の近い女の子、それも王都で学者をしていると知れば興味が尽きないのだろう。
クレハには少し同情するが、まぁ同行の駄賃とでも思って付き合ってもらおう。
「さってと、それじゃオレも行くとするか」
ルーイはタリアたちとは反対方向、まずは西側の馴染みの武器屋へと足を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~
しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、
魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、
さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。
目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。
幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。
十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。
その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる