神様の後始末

まるす

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第26話 「切り落としますよ?」

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「それで? ルーイ様はどうして此処が分かったのですか?」
「はい……オレの知ってる休息が取れそうな安全な場所を片っ端から当たってました」
「それで?」
「はい……ここに辿り着いてようやくクレハ……様を見付けて一安心しました」
「それで?」
「はい……外も暗くなってたし、どのみち強行軍は無理だったので、オレもひと休みしようと思いました」
「それで?」
「はい……どうせなら安全な結界の中で、暖かい焚き火の近くで休みたいと思「それで?」
「……クレハ様のお側でこの下僕は眠りにつきました」

 クレハ、瞬時に魔術方陣を展開。
 不思議と今なら最上位魔術も詠唱破棄、それも即興改変で唱えられそうな気がした。

「待て待て待て待て! 落ち着けって!」

 クレハの目の前で正座していたルーイは、両手をぶんぶんと振り自身の無実を主張する。

「元はと言えば、はぐれたのはそっちだろ!? それを身の危険も顧みずここまでこうして助けに来てやったんだ! この仕打ちはあんまりだろ!?」
「くっ……!」

 あまりの正論にクレハがたじろぐ。

「それにオレは何を見たわけでも触れたわけでもないんだぞ! むしろ被害者はオレのき」

 神速でアダマスの大鎌を召喚。
 切っ先をルーイの股間に。それも昨日ルーイのズボンに穴を空けた位置に、寸分狂わずピタリと当てる。

「切り落としますよ?」
「全てこの下僕めが悪うございました。クレハ総統閣下様」

 絶対零度もかくや、という視線で見下されたルーイは全力で土下座した。
 大鎌の先端が股間にピタリと合わされていたため、腰が完全に浮いた状態で額と両手が地に着いた状態を土下座と言えれば、だが。

「……助けに来て頂いたことは感謝します。ありがとうございます」

 スッと大鎌を引くクレハ。
 ズボンの穴が三ミリに広がっていたが、ルーイはそのことを墓場まで持っていくと大地母神ダーナに誓った。

「……とにかく、無事で良かったよ。これでも心配してたんだ」

 気を取り直し、ルーイが穏やかな表情でクレハに言う。
 クレハも微笑み、頷いた。
 そして、気になっていたことを尋ねる。

「此処はどの辺りなのでしょうか。恥ずかしながら、方角すら把握せず無我夢中で逃げましたので」
「運が良かった、というよりは無意識に此方こっちに逃げたんだろうな。此処は島の北西で、比較的魔物たちが少ない区域だ」

 ルーイは地図を出し、自分たちの位置を指差す。

 島の北西区域はプイスの門から一番遠い地点。
 それはすなわち、魔物たちからすれば、一番獲物が少ない区域でもある。
 デビルゴートから逃げている最中、他の魔物に襲われなかったのはそういうことだったか、とクレハは得心した。

「〝封印の祠〟へはここから東に真っ直ぐ突っ切ればいいだけだ。此処からは二時間ぐらいで着くはずだ」
「それは何よりです」

 安堵の溜息をつく少女に、ルーイは今だとばかりに思っていたことを伝える。

「確かにクレハの実力は大したもんだ。何様だ、と言われるかもしれないけど、プイスっていう狭い島の中ならほとんど敵無しだと思う。だけど、ヤッパリ慣れない場所ではもう少し慎重にいこう」
「……はい」

 追い討ちをかけるような真似をするのは気が引けたが、ルーイとしてはやはり言わざるを得なかった。
 本人も自分が悪いと分かっているのだろう。
 明らかに気落ちした様子を見せられると、ルーイとしてはこれ以上強くは言えなかった。

「……オレも悪かったよ。慣れていないって分かってたんだから、もっと気を付けるべきだった」
「いえ、私が全面的に悪かったです。申し訳ありませんでした」

 座ったまま深く頭を下げる。
 自分から注意して相手が素直に非を認め謝ってる。
 ただそれだけのことなのに、何故か酷く居心地が悪く感じてしまう。

 思い返せば、ルーイはカトレアやタリアに謝ることこそあれ、こうして誰かに謝られる、という経験があまりないことに気付いた。
 居心地の悪さを払拭するように慌てて手を振る。

「いいっていいって! さっきも言ったが、お互い無事に再会出来たんだし。オレももう少し気に掛けるべきだった。悪かったよ、すまん」
「いえ、ルーイ様は何も「よし! もうキリがないし、切り替えてこれからのことを考えよう!」

 食い気味に言って強引に話題を変える。
 ルーイの不器用な気遣いをクレハはありがたく頂戴し、二人は改めて焚き火跡を中心に置いて向かい合うように座った。

 まず二人は念話魔術の波長を合わせる。
 本来パーティを組む上で最低限の決め事だが、それすら疎かにしていたことをクレハは改めて恥じた。
 まぁどのみち、この霧に阻害され大した距離では使えないだろうが念の為だ。
 いざという時に役立つかもしれない。

 次にクレハの提案で、万が一の際の転移魔術の移動先を合わせておこう、という話になったが、どうやらルーイは転移魔術を使えないようだった。
 曰く、「〝魔女の庭〟で使えないならこの島では不要だからな。オレの脳の容量はクレハほど多くないんだよ」だそうだ。

 次に、またはぐれた際の合流地点。
 これは即決まった。あの泉だ。
〝封印の祠〟までのルートも再確認し、どんな魔物たちが出現し、対処法は――。

 など、トントン拍子で決め事を済ませていく。

「――こんなとこか」

 時間にして十分足らず。
 たったそれだけの時間話しただけだったが、気持ちが随分と軽くなったように感じた。
 それと同時に、いかに自分が不用意で愚かであったかも再確認。
 なんともいたたまれない気持ちになったクレハが、改めてルーイに丁寧に頭を下げ、己の愚行を謝罪した。
 
「……本当に申し訳ございませんでした。私の軽率な言動で……」
「だぁ! もう! それはお互いなしにしようぜって!」

 背中がむず痒く感じるのを堪えきれず、有耶無耶にするようにまくし立てる。

「明日はオレの後ろじゃなく横を歩いてくれ。お互いの視界に入ってたら、はぐれる心配もないはずだ。今夜は交代で見張りと火の番をして、陽が昇ったらすぐに出発しよう」

 ルーイは立ち上がって洞窟の入口へと足早に向かい、外の様子を伺う。
 時刻は日を跨いでおり、辺りは深い闇に覆われていた。鳥や虫たちは寝静まっているだろうが、魔物は夜行性のものの方が多い。
 いくら北西の比較的魔物の数が少ない場所とは言え、夜はこれからが本番だった。

「それじゃ、先に休んでくれ。少しでも体力と魔素マナを回復しとかないとな」
「……分かりました。私はもう十分休んだので早めに交代しましょう」
「オレのことは気にしなくていい。明日のためにもしっかり休んでおいてくれ」
「――はい。それでは、お先に休ませて頂きます」
「あいよ」

 本当はルーイにこそ先に休んで欲しかったのだが、恐らく言っても聞かないだろう。
 それならさっさと仮眠して、後の時間をゆっくり休んでもらった方がいいとクレハは考えた。
 それくらいはさせてもらえないと、さすがに気が収まらない。

 クレハは大人しく横になり、静かに瞼を閉じた。
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