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第43話 手負いの獣は恐ろしい
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手負いの獣は恐ろしい。
この格言の所以には諸説あるが、ルーイの経験から言うのであれば、手負いの獣は後先を考えず猛烈に暴れ回り、深刻な被害をもたらすことから来ている。
特に己を深く傷付け、死期に追いやった相手がいる場合などは、道連れにしてやると言わんばかりの強い執念と怨念をもって襲い掛かってくる。
目の前のデビルゴートがまさにそうだった。
「ガァッ! グルルアアァァァ!」
必ず。
絶対。
確実に。
オマエモミチズレニシテヤル。
血涙を垂れ流す赤い目が、全てを噛み砕こうとする鋭い牙が、何もかもを蹂躙する野太い腕が。
デビルゴートという存在全てが、そう叫んでいた。
「……偉そうにカッコつけたけど、ヤッパリちょっとキツいな……」
ルーイからは先の圧倒的な力の片鱗は、もはや消えかかっていた。
その理由は、槍を振るうルーイ本人が一番良く分かっていた。
(……この槍、色々と喰いすぎだろ)
そう、この謎の槍は常にルーイの魔素を大量に貪り喰っている。
それだけではない。
魔素だけに飽き足らず、体力や精力、気力といった、ありとあらゆるものを喰らい続けている。
まるでルーイという存在そのものを力として具現化したような槍は、しかし、その代償に見合うだけの力を持っている。
いや、持っていた。
そもそもルーイもクレハも、ここに来るまでに体力や気力を多分に消費している。
ルーイ一人の身ならば間違いなくさっさと撤退しているところだが、今はクレハがいるのでそうもいかない。
しかし、今ルーイをもっとも苦しめているのは、
『汝、神の子……封印を解かれし』
『我を解放せし……』
『我を……』
デビルゴートではなく脳裏に、心に、魂に響く謎の声だった。
「あああぁああぁあああぁあぁあぁああ!」
ルーイは頭の中に響く声を掻き消すように叫ぶ。
槍を無我夢中で振り回し、時折頭を抑えてはまた叫び、振り回す。
その姿は目の前の魔獣と何ら変わらなかった。
そして、お互いが手負いの獣に成り果ててしまった先に辿り着く答えは一つ。
「ゴアアァッ! ガルッア!」
デビルゴートが目の前の存在を道連れにしようと爪を振るう。
大人の腕ほどもあろうかという太さの爪は、寸分違わず首に向けられている。
ルーイ、それを何とか捌く。
――その瞬間。
『汝、神の子』
『我の無念を』
『たった一人の……我の――した御方に』
『――――――――!!!』
「あああぁあああぁああぁぁぁぁああ!」
襲った声に、いや、慟哭に思わず頭を抑えうずくまってしまう。
手負いの獣の前で隙を見せた。
デビルゴートは嗤う。
口から血を垂れ流しながら、獰猛に、残酷に、そして歓喜の笑みを浮かべた。
「ガルァ!」
渾身の一撃。
デビルゴートが爪を振るう。
うずくまるルーイを薙ぎ払う一撃は、喰らえば岩壁に叩き付けられることもなく、その場で挽肉となるだろう一撃だ。
「くっ! あああぁぁぁぁあぁ!」
ルーイはその一撃が来るのを見る。
見ることが出来た。
まだ自分の感覚は衰えてはいない。
避けようとする。
避けられる。
確信する、これは避けられる。
『――――――――!!!』
しかし、頭に響く慟哭がルーイのその場に一瞬、繋ぎ止めてしまった。
(くそっ!)
肉体を粉々に破壊する爪が目前に迫った瞬間、ルーイの脳裏に走馬灯が走る。
まだ幼い自分をここまで育ててくれたカトレアへの感謝の気持ち。
世の全てを嫌い、打ち拉がれていた自分を焚き付けてくれたハスラーへの負けん気。
そして、こんな自分を慕い、時に怒り、時に泣き、一緒にずっと笑ってくれたタリアとの思い出。
それら全てが一瞬で駆け抜け、最後に見えたのは。
――深紅の髪と翡翠の双玉を携えた、左手を此方に向ける一人の少女だった。
この格言の所以には諸説あるが、ルーイの経験から言うのであれば、手負いの獣は後先を考えず猛烈に暴れ回り、深刻な被害をもたらすことから来ている。
特に己を深く傷付け、死期に追いやった相手がいる場合などは、道連れにしてやると言わんばかりの強い執念と怨念をもって襲い掛かってくる。
目の前のデビルゴートがまさにそうだった。
「ガァッ! グルルアアァァァ!」
必ず。
絶対。
確実に。
オマエモミチズレニシテヤル。
血涙を垂れ流す赤い目が、全てを噛み砕こうとする鋭い牙が、何もかもを蹂躙する野太い腕が。
デビルゴートという存在全てが、そう叫んでいた。
「……偉そうにカッコつけたけど、ヤッパリちょっとキツいな……」
ルーイからは先の圧倒的な力の片鱗は、もはや消えかかっていた。
その理由は、槍を振るうルーイ本人が一番良く分かっていた。
(……この槍、色々と喰いすぎだろ)
そう、この謎の槍は常にルーイの魔素を大量に貪り喰っている。
それだけではない。
魔素だけに飽き足らず、体力や精力、気力といった、ありとあらゆるものを喰らい続けている。
まるでルーイという存在そのものを力として具現化したような槍は、しかし、その代償に見合うだけの力を持っている。
いや、持っていた。
そもそもルーイもクレハも、ここに来るまでに体力や気力を多分に消費している。
ルーイ一人の身ならば間違いなくさっさと撤退しているところだが、今はクレハがいるのでそうもいかない。
しかし、今ルーイをもっとも苦しめているのは、
『汝、神の子……封印を解かれし』
『我を解放せし……』
『我を……』
デビルゴートではなく脳裏に、心に、魂に響く謎の声だった。
「あああぁああぁあああぁあぁあぁああ!」
ルーイは頭の中に響く声を掻き消すように叫ぶ。
槍を無我夢中で振り回し、時折頭を抑えてはまた叫び、振り回す。
その姿は目の前の魔獣と何ら変わらなかった。
そして、お互いが手負いの獣に成り果ててしまった先に辿り着く答えは一つ。
「ゴアアァッ! ガルッア!」
デビルゴートが目の前の存在を道連れにしようと爪を振るう。
大人の腕ほどもあろうかという太さの爪は、寸分違わず首に向けられている。
ルーイ、それを何とか捌く。
――その瞬間。
『汝、神の子』
『我の無念を』
『たった一人の……我の――した御方に』
『――――――――!!!』
「あああぁあああぁああぁぁぁぁああ!」
襲った声に、いや、慟哭に思わず頭を抑えうずくまってしまう。
手負いの獣の前で隙を見せた。
デビルゴートは嗤う。
口から血を垂れ流しながら、獰猛に、残酷に、そして歓喜の笑みを浮かべた。
「ガルァ!」
渾身の一撃。
デビルゴートが爪を振るう。
うずくまるルーイを薙ぎ払う一撃は、喰らえば岩壁に叩き付けられることもなく、その場で挽肉となるだろう一撃だ。
「くっ! あああぁぁぁぁあぁ!」
ルーイはその一撃が来るのを見る。
見ることが出来た。
まだ自分の感覚は衰えてはいない。
避けようとする。
避けられる。
確信する、これは避けられる。
『――――――――!!!』
しかし、頭に響く慟哭がルーイのその場に一瞬、繋ぎ止めてしまった。
(くそっ!)
肉体を粉々に破壊する爪が目前に迫った瞬間、ルーイの脳裏に走馬灯が走る。
まだ幼い自分をここまで育ててくれたカトレアへの感謝の気持ち。
世の全てを嫌い、打ち拉がれていた自分を焚き付けてくれたハスラーへの負けん気。
そして、こんな自分を慕い、時に怒り、時に泣き、一緒にずっと笑ってくれたタリアとの思い出。
それら全てが一瞬で駆け抜け、最後に見えたのは。
――深紅の髪と翡翠の双玉を携えた、左手を此方に向ける一人の少女だった。
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