神様の後始末

まるす

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第47話 「手を貸して」

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「理不尽だ……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でもないです」

 デビルゴートを撃破した後、二人は休息を挟んでいた。

 当然と言えば当然で、こんな満身創痍の状態で満足に調査など出来るはずもない。
 ポーションやクレハの治癒魔術で傷は多少マシになったとは言え、その場しのぎの誤魔化しに過ぎず、二人の体力も魔素マナももうギリギリだ。

 特にクレハの状態は酷い。

 ルーイが気を失っている間にデビルゴートから受けた傷は深く、不慣れな治癒魔術では最低限の治療しか出来ていない。
 それよりなにより、その端正な顔は青ざめ、翡翠の目元には薄っすらと隈、桜色だった唇は紫がかっていた。
 
 明らかに魔素マナ欠乏症の症状が出ていた。

 魔素《マナ》とは魔術を行使すること以外にも、気力や体力といったものと同じく、目には見えないが生きる上では必要不可欠なものだ。
 今はまだ欠乏症――貧血のような状態だがこれが長く続いたり、更に悪化した魔素《マナ》枯渇症にまで進んでしまえば命にも関わってくる場合もある。

 気丈に振る舞ってはいるが早く身体を休ませ、治癒魔術に詳しい者、カトレアに診てもらうべきなのは明らかだった。

 そのことをルーイがクレハに伝えた結果、

「祠の中だけ確認させてください。すぐに済みますから」

 返ってきた答えは予想通りのものだった。
 クレハの表情は切実で、その瞳には強い意思が宿っている。
 こうなってしまったクレハは梃子でも動かないだろうことをルーイはもう分かっていたので、逆にさっさと折れてしまって一刻も早く調査を済ませようと考えた。
 
「……分かった。その代わり本当に見るだけだ。それ以上は絶対に許可しないし、引きずってでも連れて帰るからな」
「ありがとうございます」
 
 二人は祠に目を向ける。
 仰々しい祠は静かに佇むだけで、先ほどまで目の前で死闘が繰り広げられていたことなど微塵も感じさせない。

 もはや拒むものは何もなく、クレハは一人、魔素《マナ》欠乏状態による重い身体を引き摺るように祠へと向かう。

(ったく、どうしてこう……)

 その背を見ていたルーイはクレハの隣に歩み寄ると、そっと肩を貸した。

「ここまで来てどうして、手を貸して、の一言が言えないんだよ」
「……ありがとうございます」

 二人は祠まで寄り添って歩いた。
 程なく辿り着くとクレハは「後は一人で」と言い、そっとルーイから離れ階段を登っていく。
 
 祠の前に立つルーイは改めてみるその大きさに驚きを隠せない。
 思わず見上げてしまっていた。

 過去数度、ルーイは此処を訪れ祠を見てはいるが、あくまでこの空間の符に魔素マナを込める作業を行っていただけだ。
 未知の魔術方陣に惹かれる気持ちはあったが、神聖文字の知見が浅いルーイには解読することもままならず、何より明らかにヤバそうな魔術方陣に足を踏み入れるほど不用心ではないので、遠巻きに眺めていただけだった。

(こんなデカい祠に、一体ナニを祀ってたんだよ)
 
 十人以上は楽に入れそうな祠。
 格子状に木が編まれた扉の中はルーイの位置からは見えず、例の御神体とやら――〝ウルティマ〟の肉体とやらが、どんな物なのか見当も付かなかった。

 扉の前に立ったクレハは、短く詠唱か祝詞のような何かを唱えると、扉に手を掛け恐れることなく、だが慎重に開いていく。
 ルーイの知識は、一般的に御神体やその類いのものを見たり触れたりすることは禁忌だったはずだ、と訴えているのだが、言及はしなかった。

 そもそもルーイは、世間一般に言う神の存在とやらを基本的に信じてはいない。
 豊穣の神ヘカテーに豊作を願ったり、海の神ワダツミに航海の安全を祈る行事は単なる願掛けであると思っている。

 そんな都合の良いものを信じて救われる世界なら、自分のような孤児は居なかったはずだ、と常々思っているからだ。
 もっとも、自分が孤児だから不幸だ、と感じたことは一度もなかったが。

(そういえば)

 先ほどデビルゴートとの戦闘中、ルーイの頭に響いていた声。

 アレは一体何だったのか。
 耳で聞こえた音ではない。完全に自分の頭の中へ直接叫ばれていた。
 頭の中で声が聞こえる、という点では念話魔術に近かったが、それにしては不明瞭で聞き取れない箇所が多かった。

(天啓、ってあぁいう感じなのか。……それにしては物騒過ぎたけど。どっちかって言えば呪詛に近かったような)

 など、ルーイが特に意味もないことを考えている間にクレハは祠の中に足を踏み入れていた。

 すると、

「! そんな……」
「どうした!?」

 肩を震わせるクレハを見上げていたルーイが祠を駆け上がる。
 扉を開け放ち愕然としているクレハ。

 その目の前には。
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