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第51話 今は失われしもう一
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「誰だ、お前? 街のもんじゃないな」
「誰だ、は酷いね。久しぶりって言ってほしかったな」
「初対面の相手に使う言葉じゃないな」
「………………」
少女は悲しそうに目を伏せるが、それも一瞬。
次に少女が目を開いた時には、硝子玉のように無機質だった。
「私はリリー=ロル=ビター。リリーって呼ばれていた」
「そうかい。それでリリーさん。こちとら今非常に急いでるんで、用なら後にしてもらえませんかね?」
ルーイが苛立った様子を隠さずに言う。
その明らかに冷静ではない様子にクレハが耳打ちする。
「ルーイ様」
「……分かってる」
二人はリリーと名乗った少女の異質な力に気付いていた。
自分たちが魔素《マナ》を駆使し、魔術を行使するのとは根本から違う、異質な力を目の前の少女から感じるのだ。
(この力……まさか)
クレハの脳裏に過る魔術と双璧をなすもう一つの魔術。
だが、それは遥かな過去。
確かに失われたはずのもので、現代においては技術や技能といったものではなく、魔術の歴史の一端といった扱いになっている。
「安心して。プイスはまだ無事」
クレハの思考を遮るようにリリーが言う。
だが、相手を安心させるつもりがない言葉をルーイが耳聡く拾う。
「待てよ。まだってどういうことだ!? これから何か起きるのか!?」
「違う。もう起きてる。〝ウルティマ〟の波動を感じ、恐慌状態に陥った魔物たちは、暴れ狂ってやがて街にも牙を向ける」
「!? いや、どういうことだよ! 街や森の符には抜かりなく魔素《マナ》を込めたはずだ! それを越えられるなんて「もう結界は消し飛んでしまった」
「――は?」
ルーイは絶句した。
あり得ない。
魔素《マナ》を込め直すことも、結界が正常に作動しているか確認することも、結界を越えてしまうような低級の魔物たちの掃討も、全てルーイの仕事だ。
色んなことに雑なルーイだが、これだけは抜かりなく毎日確実にこなしていた。
それが消し飛んだ――?
「お前、何言ってるんだよ……?」
「ありのままの事実」
三眼の少女は何の感情も見せずに淡々と告げる。
その態度が余計にルーイを焦らせた。
「ふざけんな! だったら、街は……プイスはどうなるんだよ!?」
「落ち着いて。ルーイの悪い癖。熱くなるのが駄目とは言わないけれど、こういう時こそ冷静にならないといけない」
「これが落ち着いていられるか! 大体お前は何なんだよ! ……いや、今はそんなことはどうだっていい! クレハ!」
「は、はい!」
物凄い剣幕で睨まれたクレハが一瞬怯む。
ルーイはそんなクレハを気にした様子もなく、乱暴に言葉を吐き捨てる。
「すぐに転移してくれ! こんな奴に構ってる時間なんてない! 一刻も早く戻るぞ!」
「わ、分かりま「やめて」
――瞬ッ!
クレハの頬をかすめる何かが通り過ぎた。
クレハは、そしてルーイすらも何が起こったのか分からなかった。
二人の前に立つリリーと名乗る少女の手には、いつの間にか漆黒の弓が握られており、少女は残心した姿で立っていた。
クレハの頬を一筋の血が伝う。
薄皮一枚のみを正確無比に切り裂いた矢は、まぐれや偶然ではないだろう。
「て、っめぇ! 何しやがるんだ!」
「落ち着いて、って言ったはず。真っ直ぐなのはいいけれど、もう少し周りに目を向けて」
「何ゴチャゴチャ言ってやがる! 早く行かねぇと街が魔物に「クレハが倒れても?」
「……は?」
ルーイはクレハに目を向け、そしてようやく気が付いた。
身体が震えて唇が紫色になっている。
額は脂汗に塗れ、目の下には酷い隈があった。
恐れていた事態。
明らかな魔素枯渇症だった。
「……問題ありません。あと一回転移する程度の魔素《マナ》は残っています」
「そんなわけないだろ! オレに転移魔術は使えないけど、どれだけ魔素を消費するかくらいは知ってる! そんな状態で転移魔術なんて使ったら、絶対にヤバいだろ!」
「ですが、今優先すべきはプイスの皆さんのはずでは」
「それは……いや、そうだけど、そうじゃなくて! っあああっぁああぁあ!」
がんと地面に拳を叩きつけるルーイ。
どうしてこうも毎回自分は無力なのか。先のデビルゴートとの戦闘でも思い知った事実が、ルーイの前に平然と立ちはだかる。
「安心して。私が転移してあげる」
「!」
ルーイには悪魔の囁きに聞こえた。
見ればリリーは既に詠唱を終えており、二人と彼女の間には漆黒の魔術方陣が展開されていた。
地面に緻密に描かれた魔術方陣、なにより生活魔術の上位魔術に位置する転移魔術をあっさりと行使している辺りに少女の実力の高さが窺えた。
そして、それを見たクレハの顔色は更に悪くなった。もはや血の気は皆無で、美しかった白磁の肌も今は土気色だ。
「やはり、この力……呪術」
「呪術……?」
聞き慣れない単語にルーイが疑問を呈す。
クレハはルーイに視線を合わせて己が知ることを告げた。
「誰だ、は酷いね。久しぶりって言ってほしかったな」
「初対面の相手に使う言葉じゃないな」
「………………」
少女は悲しそうに目を伏せるが、それも一瞬。
次に少女が目を開いた時には、硝子玉のように無機質だった。
「私はリリー=ロル=ビター。リリーって呼ばれていた」
「そうかい。それでリリーさん。こちとら今非常に急いでるんで、用なら後にしてもらえませんかね?」
ルーイが苛立った様子を隠さずに言う。
その明らかに冷静ではない様子にクレハが耳打ちする。
「ルーイ様」
「……分かってる」
二人はリリーと名乗った少女の異質な力に気付いていた。
自分たちが魔素《マナ》を駆使し、魔術を行使するのとは根本から違う、異質な力を目の前の少女から感じるのだ。
(この力……まさか)
クレハの脳裏に過る魔術と双璧をなすもう一つの魔術。
だが、それは遥かな過去。
確かに失われたはずのもので、現代においては技術や技能といったものではなく、魔術の歴史の一端といった扱いになっている。
「安心して。プイスはまだ無事」
クレハの思考を遮るようにリリーが言う。
だが、相手を安心させるつもりがない言葉をルーイが耳聡く拾う。
「待てよ。まだってどういうことだ!? これから何か起きるのか!?」
「違う。もう起きてる。〝ウルティマ〟の波動を感じ、恐慌状態に陥った魔物たちは、暴れ狂ってやがて街にも牙を向ける」
「!? いや、どういうことだよ! 街や森の符には抜かりなく魔素《マナ》を込めたはずだ! それを越えられるなんて「もう結界は消し飛んでしまった」
「――は?」
ルーイは絶句した。
あり得ない。
魔素《マナ》を込め直すことも、結界が正常に作動しているか確認することも、結界を越えてしまうような低級の魔物たちの掃討も、全てルーイの仕事だ。
色んなことに雑なルーイだが、これだけは抜かりなく毎日確実にこなしていた。
それが消し飛んだ――?
「お前、何言ってるんだよ……?」
「ありのままの事実」
三眼の少女は何の感情も見せずに淡々と告げる。
その態度が余計にルーイを焦らせた。
「ふざけんな! だったら、街は……プイスはどうなるんだよ!?」
「落ち着いて。ルーイの悪い癖。熱くなるのが駄目とは言わないけれど、こういう時こそ冷静にならないといけない」
「これが落ち着いていられるか! 大体お前は何なんだよ! ……いや、今はそんなことはどうだっていい! クレハ!」
「は、はい!」
物凄い剣幕で睨まれたクレハが一瞬怯む。
ルーイはそんなクレハを気にした様子もなく、乱暴に言葉を吐き捨てる。
「すぐに転移してくれ! こんな奴に構ってる時間なんてない! 一刻も早く戻るぞ!」
「わ、分かりま「やめて」
――瞬ッ!
クレハの頬をかすめる何かが通り過ぎた。
クレハは、そしてルーイすらも何が起こったのか分からなかった。
二人の前に立つリリーと名乗る少女の手には、いつの間にか漆黒の弓が握られており、少女は残心した姿で立っていた。
クレハの頬を一筋の血が伝う。
薄皮一枚のみを正確無比に切り裂いた矢は、まぐれや偶然ではないだろう。
「て、っめぇ! 何しやがるんだ!」
「落ち着いて、って言ったはず。真っ直ぐなのはいいけれど、もう少し周りに目を向けて」
「何ゴチャゴチャ言ってやがる! 早く行かねぇと街が魔物に「クレハが倒れても?」
「……は?」
ルーイはクレハに目を向け、そしてようやく気が付いた。
身体が震えて唇が紫色になっている。
額は脂汗に塗れ、目の下には酷い隈があった。
恐れていた事態。
明らかな魔素枯渇症だった。
「……問題ありません。あと一回転移する程度の魔素《マナ》は残っています」
「そんなわけないだろ! オレに転移魔術は使えないけど、どれだけ魔素を消費するかくらいは知ってる! そんな状態で転移魔術なんて使ったら、絶対にヤバいだろ!」
「ですが、今優先すべきはプイスの皆さんのはずでは」
「それは……いや、そうだけど、そうじゃなくて! っあああっぁああぁあ!」
がんと地面に拳を叩きつけるルーイ。
どうしてこうも毎回自分は無力なのか。先のデビルゴートとの戦闘でも思い知った事実が、ルーイの前に平然と立ちはだかる。
「安心して。私が転移してあげる」
「!」
ルーイには悪魔の囁きに聞こえた。
見ればリリーは既に詠唱を終えており、二人と彼女の間には漆黒の魔術方陣が展開されていた。
地面に緻密に描かれた魔術方陣、なにより生活魔術の上位魔術に位置する転移魔術をあっさりと行使している辺りに少女の実力の高さが窺えた。
そして、それを見たクレハの顔色は更に悪くなった。もはや血の気は皆無で、美しかった白磁の肌も今は土気色だ。
「やはり、この力……呪術」
「呪術……?」
聞き慣れない単語にルーイが疑問を呈す。
クレハはルーイに視線を合わせて己が知ることを告げた。
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