神様の後始末

まるす

文字の大きさ
54 / 59

第54話 ただの一度の失敗

しおりを挟む
「まったく……ようやく帰って来たかと思うたら、なんちゅうざまじゃ」
「うるせぇ」
「しかし、お主も知らん間に男になったようじゃな。まさかお姫様抱っことはの。儂もあと五〇年若ければ「マジでうるせぇ! 仕方ないだろ!」
「おぅおぅ、照れとる照れとる。別におんぶでも良かったじゃろうに」
「うるせぇうるせぇうるせぇ!」
「じゃが……二人とも無事なようで何よりじゃ」
「………………」

 ルーイがクレハを抱えて全力で駆け抜け、カトレアの家に着いたのは先刻。

 扉を激しく叩く音に文字通り叩き起こされたカトレアは、二人の様子を見た途端、事態を把握。
 寝台ベッドにクレハを寝かせると治癒魔術を施し、秘蔵の霊薬という謎の液体(刺激臭が凄い。あと、ぽこぽこと泡立っている)をクレハの口に含ませた。

 瞬間、クレハは目を見開き苦虫を口いっぱい噛み潰したような顔になって涙まで零していたが、今は落ち着いたようでぐっすり眠っている。

「一晩安静にしていれば大丈夫じゃ」
「そりゃ良かった。……ありがとうな、ババア」
「感謝の気持ちを現すには、不適切な言葉も交じっとるの」

 カトレアはそう言って、ルーイに暖かい緑茶を出す。
 椅子に座り様子を見ていたルーイは、金色がかった緑色の茶を一口含む。
 相変わらず苦いが、その後広がるほのかな甘さに心が落ち着くのを感じる。
 一息ついた後でカトレアは、ルーイの対面に腰を下ろし、自身も緑茶を一口すすってから口を開いた。

「さて。〝封印の祠〟で何があったのか聞かせてもらおうかの」
「………………」
「お主が見たもの、聞いたもの、感じたもの。それをそのまま伝えてくれれば構わん」
「………………」
「何があったのじゃ」

 ――ルーイは口を開く。

 最初は順調だった。
 クレハの身体能力、特に高い戦闘力には目を見張るものがありルーイの家を経由してすぐ〝魔女の庭〟へと向かった。
 道中出会した魔物たちとの戦闘でも、何ら不安要素はなかった。
 だが、その後〝魔女の庭〟で霧が原因で、はぐれてしまったこと。
 すぐに合流出来たが、夜も更けていたので一晩同じ焚き火を囲んで休んだこと。
 湖で休息を挟んだこと。岩壁をよじ登った後で、何故か自分が火達磨にされてしまったこと。
 〝魔女の庭〟の主たるデビルゴートと遭遇してしまい、クレハと二人、上手くやり過ごせたこと。
 〝封印の祠〟で鍾乳洞の壮大さ、雄大さに何度見ても感銘を受けたこと。

「それから……」
「それから?」

 ――分かっている。

 今まで語った内容は、全てこれから先に話さなければならないことの先延ばしだった。
 これから話すことが――。

「……っ!」
「……お主に自覚はないかもしれんが、儂らプイスの民はお主とハスラーには日頃から助けられておる。結界の見廻りも魔物の掃討も献身的によくやってくれておるのじゃ、何か一つ失敗したとて責めるようなことはせん。じゃが、儂にはプイスの領主としての務めもある。プイスを平和に治め、定められた税を王国に納める義務じゃ。その中には当然起きた出来事を嘘偽りなく報告することも含まれる。じゃから、そのままお主の言葉を伝えてくれ」
「――っ!」

 ――ルーイは今度こそ全てを語る。
 
 普段は魔物のいないはずの〝封印の祠〟で、デビルゴートに襲われたこと。
 その強さが尋常ではなく、クレハが負傷してしまったこと。
 そして、クレハを助けるために已む無く、〝封印の祠〟の前に、深々と突き刺さっていた謎の槍を引き抜き、そして恐らくとても重要であろう魔術方陣を壊してしまったこと。
 祠の中には御神体どころか何もなかったこと。
 その後、外に出てみれば霧が晴れ、異臭がなくなっていたこと。
 急いでプイスに戻ろうとするも、リリーと名乗る謎の三眼の少女に出会い、どういうわけか結界が消し飛んでしまったと聞いたこと。
 更には、恐慌状態に陥った魔物たちが、いずれは街にまで牙を剥くであろうこと。
 そして、ここまで転移で飛ばしてもらったこと。

 ルーイは事の顛末をありのまま、包み隠さず全て自分の口から出る言葉でカトレアに伝えた。

「……あの槍を引き抜いたのはオレだ。クレハは関係ない。オレが無力だったから、引き抜かざるを得なかった。クレハを助ける為、なんて言い訳はしない! その結果、よく分からない魔術方陣が砕け散った。結界が消し飛んだのは多分それが原因だ! だから、悪いのはオレでクレハは悪くない!」
「何も言うとらんじゃろ」
「そもそもあの魔術方陣はなんだったんだ!? あの槍はなんだ!? ババアなら何か知ってるんじゃねぇのか? 祠の中には御神体とやらは何もなかった! なぁ、教えてくれよ! オレは……とんでもないことをやらかしたんじゃないのか?」
「落ち着け。騒いだところで何も元には戻らんのじゃ」
「……悪い……」
「とにかく、じゃ」

 カトレアはぬるくなった緑茶をすすってから、まず目先の問題を提示した。

「まず考えなければならんのは、魔物たちが街に襲い掛かってくる、ということじゃ。それ以外は後でよい」
「あ、あぁ……そうだな」
「ハスラーとタリアを呼んできておくれ。ハスラーには結界の確認に行ってもらう。タリアには住民や観光客たちの避難誘導を任せたい」
「分かった」
「その後のことは皆が揃ってから話そう。万が一、本当に結界が消え去っているようならば、ギルドや自警団の連中にも協力を要請せねばならん」
「あぁ……」
「ルーイ、気負うでない。先にも言ったが、儂らはお主には感謝こそすれ、ただの一度の失敗を責めたりはせん」
「……」

 ルーイはカトレアから逃げるように、ハスラーとタリアの家に向かって出て行った。

「……さて」

 カトレアは普段から使っている杖で床を軽く叩く。
 いくつもの木がまるで蛇のように絡み合い、捻くれ、編み込まれたような杖だった。
 持ち手の先端、蛇が咥えるように緑色の大きな宝玉が埋め込まれている。

「………………」

 眼光鋭くカトレアは窓の外を見やる。

 雲一つない晴天の夜空。
 北極星がいつもより輝いて見える。風も凪いでおり、ルーイからの知らせがなければ、カトレアとて静かに朝まで眠り続けていただろう。

 それが今や――。

「ままならんものじゃの……」

 カトレアは深く嘆息すると、これから来るハスラーとタリアのために湯を沸かし始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~

しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、 魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、 さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。 目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。 幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。 十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。 その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...