神様の後始末

まるす

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第56話 楽観的な考え

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「はっはっ!」

 ルーイ=カルミアは深い霧の中、鬱蒼うっそうとした森を全力疾走していた。
 
 ブーツは泥濘ぬかるみに汚れ、外套がいとうは魔獣の返り血が乾きドス黒く染まっている。
 腕に、足に、顔に。身体の至る所が汗に濡れ、そこいらで引っ掛かった枝葉が、肌に少なくない切り傷、擦り傷といったものを刻んでいた。

「ちっ!」

 時刻は夜半。
 
 辺りは昏く視界が悪い。
 いくら慣れた森の中と言えども、普段昼間に見廻ることが大半のルーイとしては、いつも通りに、というわけにもいかなかった。
 おまけに魔物は夜行性の種の方が多い。
 活発的になった魔物たちは、思いがけない来賓に歓喜の咆哮をあげる。

 ――側面からガルムが一頭飛び掛かってくる。

 獲物を切り裂く鋭い爪、そして牙が迫る。
 それを飛び込むように前転して回避、膝をついた状態のまま手にしているでガルムの口内を突いた。
 喉ごと潰されたガルムは、断末魔の一つすらあげることが出来ずに絶命した。

「はぁはぁ……マジでこいつ燃費わりぃ」

 汗を拭い、ルーイが愚痴を零す。

 街を出てからここまでの戦闘において、ルーイは迷わず例の槍を使っていた。

 武器屋の親父を叩き起こして新しくナイフを調達する時間が惜しかったし、この槍の使い勝手の良さといったら他になかった。
 突いても、切っても、叩いても。穂先の魔法銀ミスリルは頑丈で刃毀れ一つしない。
 柄は柔軟性と剛性を併せ持っており、よくしなるが折れる気配は全くない。

 そして、何より手に馴染む。

 それこそが、ここ一番と言える場面で手に持つ最大の理由だった。

 ルーイに絶大な力を与えてくれる槍の唯一の欠点といえば、やはり燃費の悪さだろう。
 魔素マナから体力、精力や活力に至るまで根こそぎ奪い尽くさんばかりの勢いで喰われていく。

(長期戦はまずい……さっさと結界を張り直さないと)

 現在地は島の南東。
 南側から反時計回りに結界石を設置、結界の再構築にあたっている。
 
 先ほどのガルムを撃破し、これで魔物との遭遇は五度目だった。
 普段ならやり過ごすような場面、群れとの遭遇であっても今だけは一頭も逃す気はない。
 ハスラーたち自警団、討伐ギルドの合同部隊も今頃警護にあたってくれているだろうが、街へ近付けさせないことに越したことはないからだ。

(オレがやらかしたんだ。なんとかしないと)

 ルーイを突き動かすのは、ただただ責任感と自戒の気持ちだった。

 背負っている背嚢《リュック》に手を入れ、おもむろに結界石を一つ取り出す。
 卵型に成形された薄型の綺麗で小さな石は、見た目の割に重い。
 これを数十個入れている背嚢リュックを背負って歩くだけでも、相当に体力が削られていく。

 符の貼られていた箇所は残り十四箇所。
 結界石の効果範囲は符とほぼ同じだとカトレアが言っていたので、符が貼られていた場所に結界石を設置していけばいいらしい。

 そんなを捨てる。

 カトレアは確かにだと言っていた。代替品とはつまり符の代わりであり、同じではないということ。
 これが私的に使うような物であったり、元々の結界に貼られていた符が店売りしているような物であれば、代替品として結界石を同じ場所に設置して廻っただろう。

 だが、そうではない。

 あれは王国に名を残すような偉大な符術師が自ら書き、自ら魔素マナを込めた符だ。
 だからこそ、何年もずっと魔素マナを込め直すだけで結界を維持出来ていたのだ。
 それと同じような効果を、この結界石が持っているとは到底思えない。

 だからルーイは、符が貼られていた倍の間隔で結界石を設置して廻っていた。
 符が貼られているのは森に自生する樹齢の長い樹だ。幸いにも広大な自然が広がるプイスにおいては、新たに結界石を設置する樹には困らない。

 ――つまり。

(残り二十八箇所!)

 魔物たちと遭遇する頻度は時間が経つにつれ、どんどん短くなっている。
 この調子だと囲まれるのも時間の問題かもしれない。

(急がないと)

 槍を片手に少年は、薄暗い森の中を再び駆け出した。
 胸にあるのは街を、カトレアを、タリアを護りたいという思い。

 そして、深紅の髪の少女。
 
 以前は決して森に届くことのなかった月の光が淡く不気味に辺り照らす中、ルーイは全身全霊を持って駆け抜けていく。
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