月下のヴェアヴォルフ

幽零

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提案

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シグルトとダンテが話を続けていると、アラクネが何事も無かったかのように戻ってきた。

「……おい」

「殺しちゃいないってー、安心してよ」

察したのかシグルトが話す前にアラクネが答える。妙にイキイキしているのは何故だろうか。

「…それで?シグルトさん。先ほど言い掛けていた提案とは?」

ダンテの言葉で思い出したようにシグルトが話す。

「あぁ、ルシルの屋敷は今『アトラ正規軍』が配備されているだろう。もう易々と侵入は出来ないだろうな」

「そうだねー。でも、勝とうと思ったら勝てるんじゃない?」

「楽観視するな。正規軍は強敵だ」

「ごめんじゃん」

「それで、シグルトさん?何か策があるので?」

聞かれたシグルトは、声を低くして話す。

「……正規軍がルシルの屋敷に居るのならば、別の勢力の手を借りれば良い」

「しかし、僕たちに手を貸してくれる勢力なんていますかね」

「……いるだろう。たかが一教団なのに、この国と渡り合った連中が」

アラクネは察したのだろう。顔が「嘘だろ…」という感じになっている。

「……あの、シグルト…まさかとは思うんだけど……」

恐る恐る尋ねるアラクネ。

「そのまさかだ」

シグルトはダンテとアラクネに向かって言葉を落とす。



「『バアル教団』に協力を仰ごう」



「……いやいや、無謀では?」

ダンテが引き気味に答える。

「……この話に乗る可能性はある」

シグルトは続ける。

「『アトラ大戦』は知っているだろ?」

「そうですねぇ。人並み程度に、ですが」

「あのな…『超人部隊オレたち』を知っている時点で人よりは知っているだろ」

バレたか、と微笑むダンテをよそにシグルトは話を続ける。

「歴史の勉強だ。『アトラ大戦』はアトラと『バアル教団』が戦った戦争という事は知っているな?」

「えぇ、そしてまさかの敗戦濃厚……その後投入された極秘特殊部隊が『超人部隊あなたたち』でしたね。その後、政府の都合により歴史から消された……」

滔々と語るダンテは、最後にニコリと笑って右手を出しながら続ける。

「……でしたっけ?」

「「詳し過ぎだろ」」

シグルトとアラクネが同時に反応する。


「まぁ、大まかなシナリオは解りましたが、それと教団とどう繋がってくるのです?」

「……『バアル教団』には『六賢者』と呼ばれる幹部たちがいてな。正規軍でいえば隊長クラスだと思えば良い」

「アイツら強かったよねー、出来れば戦いたくないと思ってるよ。アッチもコッチも」

アラクネは気だるげそうに過去のシナリオを語る。

「その『六賢者』だが、今は半数が故人だ。大戦で戦死している」

シグルトが低く言葉を放つと、ダンテは顎に手を添えて思考のポーズを取る。

「成程。しかし…それは結局、貴方たちと正規軍が戦った結果なのでしょう?そんな過去があって協力など……」

「……

「……はい?」

食い気味に否定されて、若干驚くダンテ。


「……確かに俺たちは『六賢者』と戦った事もある。だが俺たちは勝敗を経験しただけで、息の根を止めてはいない」


その後、苦い過去を噛み締めるようにシグルトは言葉を紡ぐ。



「『六賢者』の半数を殺したのは____」



それは過去の話。ほぼ全ての教団員が、『魔法』と呼ばれる稀有な力を行使する「魔法使い」と呼ばれる人材で構成されている教団『バアル教団』と、当時まだ小国であった『アトラ』が戦っていた『アトラ大戦』の最中。

教団幹部の『六賢者』が集結し、総攻撃を仕掛けようとしていた。もはや各地での戦線も敗走寸前……つまる所、『詰ませる一手』でしか無かった。


しかし、これを好機と一人の男が『六賢者』が集結している拠点に強襲する。


普通に考えれば自殺行為。だが、この男は違った。戦いの後立っていたのは男の方であり、敗走したのは六賢者であった。


結果として、『六賢者』の半数は戦死、残り半数はやむ無く撤退を余儀なくされた。これにより各地の戦線で教団の士気が低下、動揺による指揮系統の混乱などが発生。同時期に『超人部隊モンスターズ』が各地を転々としながら教団の前線を押し返し、状況が徐々に優勢に傾く。これ幸いとアトラは反転攻勢に入り、結果として勝利を残したのである。


そして集結した『六賢者』を敗走させた男。



彼こそ、後世に語り継がれる『英雄ルシル』である。





「……成程、つまり教団は貴方たちや正規軍というよりは、ルシル本人に恨みを抱いている……と?」

「あくまで予想だがな。だが、上手くいけば協力にこぎつける事ができるかもな」

「しかし、貴方たちは彼らと戦っていたのでしょう?色々と思う所があるのでは?」

ダンテの言葉にシグルトとアラクネの表情が変わる。それはまるで捕食者の眼光だった。

「……普通はそう考えるだろーね。でもさ、私たちはそんな綺麗事を言えなくなるくらいの経験をしたのさ」

「……確かに心境は複雑だ。割り切れない面もあるが、それは些細なことだ」

シグルトの双眸は、兜の奥で憎悪のこもった光を放つ。

「俺は、散って行った仲間達に手向けをしなければいけない」

シグルトは立ち上がって黒衣を翻す。次の行動は決まったと言わんばかりに。

「アイツを殺すことが、俺の…俺たちの生きる意味だ……」

「まぁそうだよね。じゃないと生きてる意味ないしー?」

次いでアラクネも立ち上がる。

「……それで、お前はどうする。正直に言うが賭けだ。向こうで衝突する可能性もある。お前が付いてくる義務は無いぞ」

シグルトの言葉に、ダンテは微笑みながら立ち上がる。

「言ったじゃあ無いですか、僕は貴方たちのファンだと。僕にも目的はありますしね」

「……そうか」

それ以上は何も言わず、地下酒場から出ようとする。



……そこへ



「夜分に失礼する、『アトラ正規軍』だ。ここに我々の追っている人物が逃げ込んだ可能性がある。捜査させて貰うぞ」

「あぁー、抵抗しないでくださいねー。仕事増えちゃうのでー」

扉から白を基調とした制服に身を纏った女性と、完全武装の男が数名入り込んできた。傍らには、なんかやる気のなさそうな男もいる。

その様子を見たアラクネは、物凄くいやそうな顔を浮かべる。

「……最悪」

シグルトはファルシオンの調子を確かめつつ言葉を落とす。

「……不愉快なタイミングだ」

ダンテは「あちゃあ」といった感じで額に手を当てつつ微笑む。

「ありゃあ…」





影の英雄達と白き正義達が、遂に盤上に揃った。







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