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サメジマエリア編
9話
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「……『フォレストバック理論』、『AIによる人類の進化と衰退』……『ユニオンライン社会の危険性について』、『道具の道具になる危険。~デジタル社会と付き合う為に~』……」
ひっそりとした部屋の中、本棚を指でなぞるようにそのタイトルを読み上げていく若い女性。
「すごい……全部大学で見た事ある本だ」
「こう見えて研究者だからね」
回るタイプの椅子に座る男性は、にっこりと笑いつつ答える。
「たぬにゃんが教授ってホントだったんだ」
「それはー……自分の事かな?」
「え?うん。逆に『たぬさや』さん以外居なくない?」
「『キノエ』さん……君ねぇ……」
途端に、扉がドタンっと音を立てた。キノエと呼ばれた女大生は、ビクッと肩を振るわす。
「え?え!?なに?」
「あぁ、大丈夫。あの扉を簡単に開けられるって事はお客さんだ」
たぬさやはどこか察したように続ける。
「キノエさん。お茶の用意を」
「分かった、たぬにゃん」
「その呼び方は続けるのね……」
転送事故から大体45時間後……
隠遁生活を好んでいる訳じゃあないだろうけど、まぁ住めば都って奴だろうか。
「相変わらず、こんな所にいるのかー」
「やぁジュキトさん。お連れ様も良くこんな所まで」
「お茶どうぞー」
たぬさや教授は以前と変わらないようだ。……なんか女の子増えてるけど。
「教授、バイト雇った?」
視線に気がついた女の子は、お盆を脇に挟んでピッと敬礼する。
「どうも!キノエです!気が付いたらここに居ました!」
「……うん?」
「まぁ、色々あったのよ。それで?尋ねて来たって事は、何かご依頼かな?」
「ご依頼……?」
ハネルさんは怪訝な声を出す。
「そ、『フォレストバック』はお金に応じて色々やるのよ。まぁグレーな何でも屋かな。それで今日は?」
「あ~、じゃあ僕から説明するねー」
マグさんが、ペラッと資料を渡して説明した。
「……つまり、『サメジマエリア』に入って、その5人をユニオンライン上に連れ戻したいってことね」
「流石ー、理解が早いな~」
「でもどうかなー。転送事故って故意に起こす事はできても、『サメジマエリア』が発生する事自体稀だし。普通はどっかに飛ばされるだけで済むんだけどね」
言いながら、たぬさやはガサゴソ床下を漁る。するとポータル転送機が出て来た。
「SSSのデータ転送システム程大規模じゃないけど、一応これで転送事故起こしてみるね。三人ともそこ乗っててー。キノエさ~ん。バッテリー取ってー」
「これー?」
「んー。ん?あぁこれ違う。これトマトの缶詰」
「あれ?あ、これかな!?」
「ん~?あ、これはパイナップルの缶詰だな。色似てるけど違うのよ」
「あ、たぬにゃんこれー?」
「ん?あ、いやそれ手榴弾。パイナップル違いだな」
(……なんで手榴弾あるの?)
ポータル転送機の上に立ったままのハネルさんは、微妙な顔つきでこちらを見た。
「……あのー、ジュキトさん?」
「ん、どした?すわるさん」
「ハネルです。あの、この人達大丈夫ですか?家に手榴弾あるような人達ですよ?」
「大丈夫、大丈夫。そんなもんよ」
「零号ではもっとヤバいの持ってるやついたしなー。懐かしいなー」
「あぁ、あったあった。じゃあ転送するけど、故意に事故らせるから本当にどっか飛んでっちゃうからね。一応SSSに設定はしてるけど」
「了解やで。あ、待って、ワシまだ金払ってない」
「あー、ええよ。いつもバーベキュー誘ってくれるし、特別に転送1回分はサービスするよ。2回目以降からは金取るけど」
「マジ?助かるー」
「じゃあ飛ばしますよー!えい!あれ?」
「キノエさん、レバー逆よ逆」
「あ、こっちか!」
グリンッ!と反対に倒した勢いで、レバーがバキッと折れた。
「……うそーん」
「ごめん!たぬにゃん!」
「あの、本当にこれ大丈夫ですか?」
「まぁ何とかなると思うで」
「僕はこういうの慣れてるしな~」
「いや、私はこういうの初めてなん……」
ヴゥン!と重低音が響き、3人の姿は見えなくなった。表示がエラーになってるから、無事に事故ったのだろう。
「……そういえば、たぬにゃん」
「ん?」
「なんであのハネルさんって人は、SSSの人でも無いのに『サメジマエリア』に行こうとしてるんでしょう?」
キノエはコップを片付けながら続ける。
「友人を助けるにしても、正職員の人に任せれば良いのに」
「たまにいるでしょう?」
たぬさやはにっこりと笑顔で続ける。
「貴女みたいに、色々と首を突っ込む人は」
「……えへ」
「あの……」
「ん?どうしたハネルさん」
「だからハネル……いや合ってるか。あの、私たち転送したんですよね?」
「あー、そうだねー。多分」
マグさんは眠たそうにネクタイを締める。
「で、これは?」
周囲はまるでごみ捨て場。恐らくスラム的なエリア。そして彼が「これ」と指差す先には、ナイフを突き付けてくるサイボーグが。
「まずいジャンク漁りだ!マグさんなんとかして!」
「え~……もうあんまりそういう事したくないんだよなぁ……」
ドスッ
「あ……」
ハネルさんの右胸にナイフが刺さった。
「……あ、刺された」
「あ、刺された!?」
「まぁ~大丈夫でしょ。だって彼……」
当の本人は刺された箇所をグリグリ押して確かめている。
「あぁ、本当に刺されてる。実感無いなぁ」
ずるっ……と、ナイフを引き抜くハネルさん。
「彼、半分サイボーグって言ってたし」
「……とりあえず、やり返すかな」
呟くハネルさんは右腕を向けると、腕部がパージして変形する。
ガシャン!!!とパイルバンカーのように何かがピストンすると、衝撃波が放たれた。
「こんなもんかな……」
「いや、『こんなもんかな……』じゃなくてやな!?」
「すごいなぁ~、これ相当ハイスペックでしょ~」
「どうでしょう?私もよく分かってませんから」
「良く分かってない兵器を人に向けたんか!?」
バッとマグさんの方を向く。
「ねぇこの人怖い!連れてきて大丈夫かな!?」
「まぁ~、僕がいるしねぇ。室長の影響もあるだろうけど、だからこそ局長は彼の同行許したんだろうし~」
「とりあえず戻らないとですね。えーっと現在地は……」
ハネルさんはデバイスを二度見した。
「……フォレストバックまで、大体半日……」
……牛丼も、ピザも、ラーメンもまだ食べてない。
「嘘だと言ってよ、パネルさん」
「ハネルです」
ひっそりとした部屋の中、本棚を指でなぞるようにそのタイトルを読み上げていく若い女性。
「すごい……全部大学で見た事ある本だ」
「こう見えて研究者だからね」
回るタイプの椅子に座る男性は、にっこりと笑いつつ答える。
「たぬにゃんが教授ってホントだったんだ」
「それはー……自分の事かな?」
「え?うん。逆に『たぬさや』さん以外居なくない?」
「『キノエ』さん……君ねぇ……」
途端に、扉がドタンっと音を立てた。キノエと呼ばれた女大生は、ビクッと肩を振るわす。
「え?え!?なに?」
「あぁ、大丈夫。あの扉を簡単に開けられるって事はお客さんだ」
たぬさやはどこか察したように続ける。
「キノエさん。お茶の用意を」
「分かった、たぬにゃん」
「その呼び方は続けるのね……」
転送事故から大体45時間後……
隠遁生活を好んでいる訳じゃあないだろうけど、まぁ住めば都って奴だろうか。
「相変わらず、こんな所にいるのかー」
「やぁジュキトさん。お連れ様も良くこんな所まで」
「お茶どうぞー」
たぬさや教授は以前と変わらないようだ。……なんか女の子増えてるけど。
「教授、バイト雇った?」
視線に気がついた女の子は、お盆を脇に挟んでピッと敬礼する。
「どうも!キノエです!気が付いたらここに居ました!」
「……うん?」
「まぁ、色々あったのよ。それで?尋ねて来たって事は、何かご依頼かな?」
「ご依頼……?」
ハネルさんは怪訝な声を出す。
「そ、『フォレストバック』はお金に応じて色々やるのよ。まぁグレーな何でも屋かな。それで今日は?」
「あ~、じゃあ僕から説明するねー」
マグさんが、ペラッと資料を渡して説明した。
「……つまり、『サメジマエリア』に入って、その5人をユニオンライン上に連れ戻したいってことね」
「流石ー、理解が早いな~」
「でもどうかなー。転送事故って故意に起こす事はできても、『サメジマエリア』が発生する事自体稀だし。普通はどっかに飛ばされるだけで済むんだけどね」
言いながら、たぬさやはガサゴソ床下を漁る。するとポータル転送機が出て来た。
「SSSのデータ転送システム程大規模じゃないけど、一応これで転送事故起こしてみるね。三人ともそこ乗っててー。キノエさ~ん。バッテリー取ってー」
「これー?」
「んー。ん?あぁこれ違う。これトマトの缶詰」
「あれ?あ、これかな!?」
「ん~?あ、これはパイナップルの缶詰だな。色似てるけど違うのよ」
「あ、たぬにゃんこれー?」
「ん?あ、いやそれ手榴弾。パイナップル違いだな」
(……なんで手榴弾あるの?)
ポータル転送機の上に立ったままのハネルさんは、微妙な顔つきでこちらを見た。
「……あのー、ジュキトさん?」
「ん、どした?すわるさん」
「ハネルです。あの、この人達大丈夫ですか?家に手榴弾あるような人達ですよ?」
「大丈夫、大丈夫。そんなもんよ」
「零号ではもっとヤバいの持ってるやついたしなー。懐かしいなー」
「あぁ、あったあった。じゃあ転送するけど、故意に事故らせるから本当にどっか飛んでっちゃうからね。一応SSSに設定はしてるけど」
「了解やで。あ、待って、ワシまだ金払ってない」
「あー、ええよ。いつもバーベキュー誘ってくれるし、特別に転送1回分はサービスするよ。2回目以降からは金取るけど」
「マジ?助かるー」
「じゃあ飛ばしますよー!えい!あれ?」
「キノエさん、レバー逆よ逆」
「あ、こっちか!」
グリンッ!と反対に倒した勢いで、レバーがバキッと折れた。
「……うそーん」
「ごめん!たぬにゃん!」
「あの、本当にこれ大丈夫ですか?」
「まぁ何とかなると思うで」
「僕はこういうの慣れてるしな~」
「いや、私はこういうの初めてなん……」
ヴゥン!と重低音が響き、3人の姿は見えなくなった。表示がエラーになってるから、無事に事故ったのだろう。
「……そういえば、たぬにゃん」
「ん?」
「なんであのハネルさんって人は、SSSの人でも無いのに『サメジマエリア』に行こうとしてるんでしょう?」
キノエはコップを片付けながら続ける。
「友人を助けるにしても、正職員の人に任せれば良いのに」
「たまにいるでしょう?」
たぬさやはにっこりと笑顔で続ける。
「貴女みたいに、色々と首を突っ込む人は」
「……えへ」
「あの……」
「ん?どうしたハネルさん」
「だからハネル……いや合ってるか。あの、私たち転送したんですよね?」
「あー、そうだねー。多分」
マグさんは眠たそうにネクタイを締める。
「で、これは?」
周囲はまるでごみ捨て場。恐らくスラム的なエリア。そして彼が「これ」と指差す先には、ナイフを突き付けてくるサイボーグが。
「まずいジャンク漁りだ!マグさんなんとかして!」
「え~……もうあんまりそういう事したくないんだよなぁ……」
ドスッ
「あ……」
ハネルさんの右胸にナイフが刺さった。
「……あ、刺された」
「あ、刺された!?」
「まぁ~大丈夫でしょ。だって彼……」
当の本人は刺された箇所をグリグリ押して確かめている。
「あぁ、本当に刺されてる。実感無いなぁ」
ずるっ……と、ナイフを引き抜くハネルさん。
「彼、半分サイボーグって言ってたし」
「……とりあえず、やり返すかな」
呟くハネルさんは右腕を向けると、腕部がパージして変形する。
ガシャン!!!とパイルバンカーのように何かがピストンすると、衝撃波が放たれた。
「こんなもんかな……」
「いや、『こんなもんかな……』じゃなくてやな!?」
「すごいなぁ~、これ相当ハイスペックでしょ~」
「どうでしょう?私もよく分かってませんから」
「良く分かってない兵器を人に向けたんか!?」
バッとマグさんの方を向く。
「ねぇこの人怖い!連れてきて大丈夫かな!?」
「まぁ~、僕がいるしねぇ。室長の影響もあるだろうけど、だからこそ局長は彼の同行許したんだろうし~」
「とりあえず戻らないとですね。えーっと現在地は……」
ハネルさんはデバイスを二度見した。
「……フォレストバックまで、大体半日……」
……牛丼も、ピザも、ラーメンもまだ食べてない。
「嘘だと言ってよ、パネルさん」
「ハネルです」
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