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お兄ちゃんはとうとう、二人への気持ちに気付いてしまいました。

43 深呼吸させてえ! ~幼なじみはお怒りです~

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 ……幸田には迷惑をかけてしまった。
 本当にゴメン。

 近いうちにちゃんと謝って、お詫びにご飯でもご馳走したら……別のサークル考えようかな。

 今日の部室の微妙な雰囲気と幸田とのやり取りを考えると、高校の部活の延長で張り切る僕がいる場所ではないんだろう。もっとウェイウェイ一緒になって騒げる性格なら違ったのかもだけど。

 はは、重。
 ノリ悪。

 もっとコミュニケー……ん? 
 幸田、止まった?

” お前に……そのでっかい……こ! ……持ち腐れ……! 馬ー鹿!」

 何か叫んでる!
 周りの人達、めちゃめちゃこっち見てますけど?!
 みんな僕の足元見てますけど?!

 ちょっと!
 悪役令嬢さん、ひよこさん!
 追っかけようとしないで!
 どー、どー。

 あ、角曲がった。
 みなさん、ヒソヒソ話やめてくださいよ!
 幸田、何て言ったんだよ!

 ががっ!!

「ひうう?!」
「お兄ちゃん。ちょっと。ちょおおおおっと、お話しよ?」
「は、はひ」
「んごごごごごごごごごごごっ!んごぎぐ、んがががががが!」
「ぼ、僕! 食べても美味しくないですよ?!」

 肩痛い!
 掴みすぎい!
 脱臼しちゃうううううううう!

 深呼吸させてえ!



 部屋で、正座。
 何故か正座。

 二人とも、ニコニコ顔で怒ってらっしゃる。
 両側から既視感たっぷりの怒り笑いで覗き込まれている。

「大体だよ? 何でお兄ちゃんは私達に相談してくれないの? 昔はさ、悩んだ時に『ほのか、お兄ちゃん元気ないんだ。ちょっとちゅっちゅぺろぺろしてくれないか、げっへっへっへ』って言ってくれたのに!」
「いや待て。僕がそんな事言うはずが……いたあ?!」

 脇腹、つねらないでえ!

「優ちゃん。お座りなさい」
「す、座ってますが……」
「ごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!」
「はい! 座りましたあ!」

 太ももに爪、食い込んでますってば!

「せっかく、せっかくお兄ちゃんの為に胸元全開の悪役令嬢のコスしたのにっ! 本当の悪役じゃないと興奮しないのっ?!」
「それ、僕の為に着てくれたの?! わー! 出そうとしないの!」

 うわ! スポーツブラ取ったら……何だろうこの既視感。
 あ、夢でも取ってたからか。
 
 いや、二人に話したい事があるのに!
 うぷ?!

 お兄ちゃん、お胸で窒息しちゃうって!
 それにワンピース、はち切れそうだから!
 
「私だって優ちゃんの為にレバガチャ必須のKO寸前なのにっ……!」
「それ、ピヨピヨの意味が違くない?!」
「あ、漏れちゃう。優ちゃん早く、あーん」
「僕に何をさせるつもりですか?!」

 あれ?
 ほのか?

「あのお姉さんの匂いがする。ほのかじゃダメなんだ、ぐすっ。ほのか、そんなに魅力が無いんだ……」

 すすす。

 べそをかいたほのかが、僕から遠のいていく。
 
「私達が傍にいても、優ちゃんの心は満たされてないのね」

 するするっ。

 ひよこ葛が、僕から離れていく。

 温もりが離れた後の、寒々しさ。
 いつかは、こうして二人は僕から離れていく。

 胸が痛い。
 胸が、痛い。

 
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