狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

文字の大きさ
321 / 401
月の下で貴方とワルツを②

7

しおりを挟む





「ひゅっ、っぁ、ふっ、っ!ひ...!~~っは」

「永利君!!深呼吸だ!!息を大きく吸うんだ!」


フラつく。視界がブレる。
息を大きく吸い込もうにも気道を塞がれたように吸い込めない。

気づけば視界一面真っ白に染まっていた。


(ここはどこだ俺は何をしている?床?床に倒れているのか?)


固くひんやりとした感触が手のひらにある。
永利は倒れていた。白い床が目に映っている。この部屋の白さは気分が悪くなるほど目に痛いものだが、今はその単色の味気なさが助かる。あまりにも大きな情報を取り込んだ永利にとって、この白さは余計な情報を永利に与えないでくれる。


「はっ、はっ、はっ、はっ」


息が、吸える。
少し心に余裕が出来た。

しかし、だからといって状況は変わらない。
永利は気づいてしまったのだから。


もし
もし、この資料が嘘だと言うなら今日殺した3人は無実の人だったのかもしれない。今まで目の前で殺されていたのは無実の人だったかもしれない。

つまり、永利が見てきた、やってきたことはただの殺人なのだ。


悪を裁く正義のヒーロー?
永利に正義はなかった。どちらかと言えば一方的に殺した永利は悪でさえある。


(俺は何をしているんだ???)


事切れた死体達を呆然と見やる。額から血を流した彼らはもう生き返ることは無い。

永利はどうすればいいのか分からなかった。

誰かに助けを求めようと、この部屋唯一の出入口へ向かう。その足取りは覚束ず、何度も転びそうになった。それでもなんとかたどり着く。


​────ガチャ


しかしドアは開かない。


(ドアが開かない、開かない開かない開かない開かない開かない......なんで???判断を間違えたかから?)


無実の人を殺したから?
それとも、
まだ裁くべき悪人が居るから?


......あぁ、そうだ。
まだ裁くべき悪人が居るからだ。


「嘘を...ついたなテメェ」


だって、永将は嘘をつかない。資料が間違ってるはずがない!あぁそうだ、だからコイツの話は何もかも嘘なんだ!!

永利は震える手で銃口を海山に向けた。


「俺が無実の人を殺した?嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!いつだって永将は正しい!だから間違ってない、嘘じゃない!!」


はやく、はやくはやくはやく!!
ここから出て永将に話を聞かなければ。永利は間違っていないんだと、海山は嘘つきだと....証明してもらわなければ。

だから一刻もはやくここから出る。そのためにも悪人を....


「待ちなさい!!!これ以上自分に嘘をついてはいけない!!私には分かる。君は優しい子だ。無理して永将さんのようになるべきでは無い!!君は彼にはなれない!なるべきでは無い!『自分』を見失わないでくれ.....!」

「黙れ!黙れっ、黙れーーー!!!俺はもう緋賀なんだっ!緋賀の男だ....!永将の跡を継ぐんだ!今更​────」

「.....あぁそうだね。今更後に引けないだろう!なぜなら今!君がその引き金を引かなければ過去に裁かれた人達は無実なのだと認めることになる」

「っ、」

「わかる、わかるよ。君は引き金を引くという選択しかない。人生経験の少ない君に罪の全てを受け入れる度量はまだ備わっていないから仕方の無いことだ。悪いのは君じゃない」


哀れみの目で見つめられる。こちらを見つめる海山の瞳は涙ぐんですらいた。

そこで『あぁ』と、気づく。

『海山 泰造は殺してない』

資料に書かれた罪状は決して嘘ではないのかもしれない。でも、全てが真実でもないような気がした。自身が殺されるかもしれないというのに「悪いのは君じゃない」と言う悪人は居ない。

それでも​永利は────


「.....いいだろう、この命君にくれよう。だが約束してくれ。この部屋を出たら必ず永将さんと本音で話し合うんだ。流されず、ちゃんと自分の意思を伝えるんだ。――心配しなくても君ならきっと、素晴らしい緋賀の当主になれる。だからどうか、ちゃんと真実と向き合ってくれ」



​────パンッ







静かな部屋。荒い息が一つ耳に届く。
永利は死体に背を向けドアへと向かった。これで、これでやっと永将に会えると、安堵すらした。


​─────ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ!


しかしドアは開かなかった。


「おい!!開けろ!!悪人は全員裁いた!!」


ドアの横で待機しているであろう執行人に声をかける。されどドアは沈黙を続けた。


「なんでっ!開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろーーっ!!!!」


硬いドアを何度も叩く。でも返事はいつまでたっても返って来ない。
生者より死者の数が多い部屋。そんな部屋にポツリ永利は独り佇む。


「おぉ俺は間違ってない。間違ってない....なのになんで開かない、開かないんだよぉ.....」


悪人は全員裁いたのに。
全員、
全員??


「.....違う。まだ、俺がいる」


自身が残っている。だから開かない?
震える手で銃口をコメカミに当てる。自身が死ねばドアは開くのではないだろうか?


「俺が悪....俺が死ねば悪人は全員裁かれたことになる」


つまりそれは、永将の、自身の罪を認めるということ。間違っていたと認めることになる。

永利はぼんやりと海山の死体を眺める。




(もう、疲れた。考えるのが辛い)




そして永利は引き金を引いた。




​─────カチッ



弾は出なかった。



「~ぐぅっ、うぁあああ.....ひっぅ、ながまさっ、ながまさぁ.....」


弾なんて出るはずがない。なぜなら、永利は死ぬ気概など持ち合わせていないのだから。

泣き崩れドアに縋る永利。
もう永利の心はボロボロだ。

目指した父はただの人殺しかもしれなくて、もしそうだとしたら自分はその片棒を担いだ犯罪者。

正義を謳い悪人を裁いていたはずが、いつの間にか自身が悪へと堕ちているなんて直視できず。

そして唯一永利の過ちを指摘し、止めようとした男を....自身が悪だと認めたくない一心で撃ち殺した。

それでもドアは開かず、自暴自棄に陥るも永利に死ぬ気概はなく。惨めにも、みっともなく縋りついている。

永将の仮面は剥がれ落ち、ただ幼子のように泣くことしかできない。



「うわ''ぁぁぁぁぁああ''ぁ''.....っな、ながまさぁ!ながまさぁぁぁああ!」


わんわんと泣き喚く。


​────プツリ


しかし突然、糸が切れたかのように地面に座り込んだ。


「......」



永利の赤い瞳は何も写していなかった。














しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡な俺が総受け⁈

雫@21日更新予定!
BL
高校生活一日目で車にひかれ異世界へ転生。顔は変わらず外れくじを引いたかと思ったがイケメンに溺愛され総受けになる物語です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

処理中です...