狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

文字の大きさ
351 / 401
第十三章 命尽きるまで貴方を想ふ①

2

しおりを挟む





​────ドッ、ドッ、ドッ、ドッ


心臓が口から飛び出そうだ。それくらいバックバク音が鳴っている。骨が軋むほど強く抱きしめられている現状も相まって、もうなんか倒れそう。

そうです、はい。今僕はヒナちゃんにぎゅうぎゅうに抱き締められています。

さっきまで風紀室に居たのに、いつの間に僕は委員長室に移動したのだろうか?瞬間移動??
でもアレは瞬間移動というより首根っこ掴まれて放り投げられたような感覚だったけど....。

あれが黄犀の異能かぁ。見たことあったが実際に自分が体験するとすごい怖い。だってさっきまで地面に立っていたのに、いつの間にか落下に変わってるんだよ?.....恐るべし黄犀の異能。


でも本当に恐ろしいのはこの状況だ。

言うが落下してきた時、既にこのぎゅうぎゅう締めだった。つまり黄犀の異能が発動すると同時に抱きつかれたわけだが.....いや、なんかグイッと引っ張られた感覚はあったんだよ?でもそれを感じたと同時にもうこの景色だったから.....感情が追いつかない。


「.......ヒナちゃん?」


恐る恐る名前を呼ぶ。
もしかして守ってくれたのだろうか?

彼からの返事を期待したが、数十秒経っても返事は返ってこなかった。未だにぎゅうぎゅう締め。落ち着かせるように僕もヒナちゃんの背に手を回しポンポンと軽く叩く。....締めつけが強くなった。中身が出ちゃうよヒナちゃん。

そこでふと、彼の握る黒い物体に気づく。
銃だ。彼のサナートの異能。でも僕の知る普通の銃と違って、銃口から長い筒のようなものが伸びていた。

えっ、ちょっと待って?

心臓を落ち着かせ、耳を澄ます。
するとドアの向こう側からギャーギャーと騒ぐ声が微かに聞こえた。


「......もしかして反射的に撃った?」

「.............................撃った」

「ふっ、んふwあははは!大丈夫だよ。あの騒ぎようからして生きてる生きてる。落ち込まないでヒナちゃん」

「落ち込んでねぇよ。.....まぁ安心はしてるが」

「へぇ!!安心!!」

「妙な勘ぐりはやめろ。俺はアイツらが死んだらお前が悲しむと思って銃口をズラしただけだ」

「彼らが死ぬと確かに悲しいね。でも僕は君の手で殺される彼らを見るのが1番悲しい」

「......そうか」

「あれ?照れてる?」

「そうだな照れてる。まさかお前がそんなに俺の事を思ってくれてるなんて思わなかったからな」


背中に回された手が僕の頬に触れ、クイッと顔を上げられる。見上げる彼の顔は口元を緩め嬉しそうに目を細めていて....なんとも穏やかだ。

そのままジッと見つめられ、なんだかまた熱が上がってきた。彼のそういう笑顔はまだ慣れない。うーん、なんか敗北感。ヒナちゃんのクセに僕をイジめるとは.....今すぐにでも変装をやめて彼の顔を見詰め返したい。



――あれ?



ムスッとしてたら温もりが消えた。


「暇だろ?今日はここに居ろよ」


僕から離れたヒナちゃんに手を引かれソファに座らされる。


「暇じゃないです。僕には授業が​───」



​────キーンコーンカーンコーン.....



「暇だろ?」

「......えぇ暇ですね」


暇という名のサボりになったけど。
もう授業に行く気が無くなったので、僕に凭れる彼を押しのけようと踏ん張っていた手を下ろす。はいはいどーぞ、好きにくっついてください。


「って、君は仕事ですか?僕を引き止めといてそれはないんじゃない?暇な僕を構う義務があるのですよ君は」

「かわ​─────ん''ん''っ、じゃあなんか話題寄越せ」


書類をテーブルに投げ置いたヒナちゃんは偉そうに言った。最初何か言いかけてなかった?気のせい?


「話題....話題......あ、そういえば」


スマホを取り出し、彼にある画面を見せる。


「星菜のお爺様からメール来たんだよね。メアド交換した覚えもないのになんで僕のメアド知ってるんだろ?五大家だから?」

「.......おい、そんな事気にしてる場合じゃねぇだろコレ」


唸るような不機嫌声に苦笑う。


『燈弥君、久しぶり』
『実は君に頼みたいことがあってね』
『私の孫の斎良さいらのことなのだが』
『君に孫の性癖を矯正してもらいたい』
『あの日のことで少しでも私に感謝の気持ちがあるのなら』
『どうか頼まれてくれないかね?』


「あの日のこと、感謝の気持ち、お爺様だぁ?.....燈弥話せ、全てを」


ヒナちゃんに永将さんとのやり取りを言う訳にはいかない。かといって嘘を言ってもバレそうだ。


「パーティの日、君と一緒に次の日を迎えることが出来たのは星菜のお爺様のおかげなんだよ。の人が永将さんをいさめてくれたから今がある」

「それがお前のお爺様呼びとどう繋がるんだ。いつ面識を持った?お前は俺と一緒にいたはずだ」


うーん、引き下がってくれないかぁ。
ここは仕方ない。


「内緒」

「はぁ?それで俺が――」

「どうして君はチビちゃんを目の敵にするの?」

「.........チッ」

「人には他人に言えないことが2つ3つあるものさ。僕としては互いに秘密を探り合うより、コレの解決策を一緒に考えて欲しいんだけどなぁ~」


これと言ってスマホを揺らす。
そうそう今問題なのは星菜の子息のことだ。僕としては老公に恩返ししたいからこの依頼を受けるつもり.....いや、恩返しというより借りを残しておきたくないんだ。だってあのお爺様は腐っても星菜の前当主だからね。さっさと借りを返すのが吉さ。


「.....ふん、アレは末期患者だ。もう治せねぇよ」


素直に引き下がったヒナちゃんに安堵すると同時に興味が湧く。彼がチビちゃんに向ける感情は何なのだろうかと。憤怒、悲哀、後悔.....僕が関係してるのは流石に気づいているが、それにしても殺意を滾らせすぎじゃないかと思う。

.....いつか話してくれるのだろうか?あぁ僕が話さない限り無理か。


「君にそこまで言わせるのかぁ、星菜先輩は」

「で、なにか案があるのか?」

「ん~.....お爺様が直して欲しいのは彼の性癖でしょ?でも性癖って直すことできないから....歪めようかなと」

「......なにを、する気だ」

「そんな恐ろしいものを見るような目で見ないでよ~。ちょっと暴力的指導をするだけさ」

「調教の間違いだろ」

「いいね調教。五大家の一角を調教出来たら今後の人生安泰間違いなしだよ。だって星菜の権力を意のままに使えるからね」

「緋賀だってお前が望めば.....」

「あはw本気で言ってる?ラスボス緋賀 永将が居るのに?.....と、まぁ冗談はここまでにして。星菜先輩対策としてヒナちゃん、君の緋賀の仕事を見学したいんだけどいいかな?」


緋賀の仕事と言えばヒナちゃんの顔が強ばった。
あ~そんな顔をさせたい訳じゃないんだけど、今回ばかしは仕方ない。星菜先輩の調教は手強いから、それ相応の用意をしなくちゃ。


「嫌だ。他を当たれ」

「どうしても僕に見られたくないって言うなら、はいコレ録音機」

「?」

「これで痛がる人達の声を録音してきて。できれば呻き、絶叫.....聞いてて胸が痛むような音がいいなぁ」

「いったい何をするつもりなんだよ。こんなんで星菜を矯正できるとは思わねぇが?第一アレの――」

「やってみなきゃわからない。頼んだよ永利クン」

「っ!」


なにか言おうとした彼の言葉を遮るように名前を呼ぶ。すると途端に口を噤み逃げるように僕から目を逸らした。苦虫を噛み潰したような横顔が名前呼びの効果を示している。


ふふ、これからも使おっと。

















しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...