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第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね

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  普段柚希が何気なくやりがちなことを今日は和哉が先回りしてくる。小さい頃から料理をしている最中に和哉に頻繁に味見をさせているうちに、食事の最中も口元の運んでしまうのが癖になったのだが、こうも堂々と甘い雰囲気を醸し出されながら逆にされると中々恥ずかしい。

「ほら、食べなよ? トマト好きでしょ?」

 和哉がちょっと意地悪く片眉を上げながらくいくいっと差し出してくるから、これはきっと柚希の反応を楽しんでいるのだと分かった。しかしまあ、抵抗しても仕方がないと。素直に口に含んだ。

「んっまい」
「一気に食べたら危ないよ。ピンの先、気を付けて」

 和哉も彼の好物であるバケットに生ハムがついたものを二口ほどで食べきっている。柚希はもしゃもしゃとハムスターよろしく口いっぱいに頬張り暫し無言になった。
    身を乗り出して皿から次のものも柚希がとろうとする前に和哉が幼子にでもするように、母の差し入れであるチーズを差し出すから、2、3回同じようなやりとりを繰り返した。ピンチョスはどれもこれもとても小さいながら素材の旨味を凝縮したような作りなので、口にするたび夢中で舌の上で味を追ってしまうのは柚希の癖だ。
 ふむふむ、とでも顔に書いてありそうな兄を覗きこんで和哉は甲斐甲斐しく声をかけてきた。

「スープも飲む?」
「飲むよ」

    ミネストローネはお気に入りの底が平たい青磁色のカップに注がれていて、まだ少しだけ湯気が立っている。じんわり手先から伝わる熱が心地よい。猫舌の柚希にはちょうど良い温度と言えた。
 口にする前に和哉が粉チーズをたっぷり振りかけてくれたから、目配せしあって微笑みあった。リボンパスタを口当たりのいい木のスプーンですくい上げては、はふはふ言いながら口に運べば、懐かしい母の手料理がきっちり再現されていて柚希が目を丸くした後思わず頬が緩んだ。和哉も嬉しそうに柚希の胴を腕を回して抱きしめてきた。

「和哉、これ母さんのやつと同じ味だ! 」
「それはそうだよ。母さんに習ってきたからね」
「美味しいよ。これさスープジャーに入れて明日仕事場に持ってって昼に飲むんでもいいかも。少しあまりそう?」
「沢山作ったから大丈夫。これ簡単だから、夜作っておいて、朝食に飲むのいいかもね。また作ってあげる」
「ありがとうな。ん?」

    すっかり食べ物を運んでもらうことに慣れて再び唇を鳥のヒナよろしく大きく開けたら、和哉が僅かに目を見張ってから穏やかに微笑み今度はハーブがかかった香ばしいチキンを持たせてくれた。
    それを繊維に沿って齧りとる口元を和哉がじっと覗き込んでくるので柚希もドキドキさせられてばかでなるものかとわざと上目遣いで、赤い舌で口の端を挑発的に舐めまわした。

「なあ? これ、なんかのプレイ? 俺を赤ちゃんみたいに扱いたいの?」
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