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番外編 内緒のバイトとやきもちと
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「秋には帰るって」
「そうなのか?」
「うん。でも兄さん家でて一人暮らししてるから実家には戻らないけど。こっち帰ったら兄さんのマンションで一緒に暮らそうって言われてるんだけど、でも、実家は空にできないし、その……」
(深森と家で二人っきりでにいられる時間が減っちゃうのはやだな)
向かいに座る深森の顔を見つめたら、睦月も腕組みしながらこちらに水を向けてきた。
「で、お兄ちゃんへの彼の紹介はまだか」
「あ……。えっと。オレの恋人、サイベリアンの深森君、です。大学でサッカーをしてて、スポーツ健康科学部の、一年生です」
「はじめまして。卯乃さんとお付き合いさせていただいています」
「よろしくね。ふーん。深森君ってあれだな。おまえんちのサイベリアンに雰囲気似てる」
「やっぱりそう思う? ニャニャモと似てるって俺も最初思ったんだあ。だよね。嬉しい。やっぱ睦にいが見てもそう思うんだ」
自慢のにゃんこだったニャニャモを失った傷を癒してくれたのはニャニャモによく似た深森だった。どちらも卯乃にとって大切な存在であることに間違いはない。
「おい。卯乃。黒羽たちには深森君を紹介できまの?」
「まだだけど」
「ふーん。そっか。深森君。こいつのモンペ、身内に沢山いるから、気を付けるんだよ。うちでバイトする前、黒羽なんて乗り込んできてあーだのこーだのうるさいったらなかった。制服のズボンの丈まで短すぎないかって、いちいち文句つけやがって」
酒に口をつけながら深森も大きく頷いていたが、卯乃はそれには気にもとめない。
「黒にいは睦にいよりさらに心配性だから、すごく口うるさいんだ」
「えー、でも。お前黒羽大好きじゃんか。ちっちぇ頃は大きくなったら黒羽と結婚するんだあとか言ってたくせに。黒羽だってあんなイケメンが本命の恋人も作らないで何かにつけて弟優先ってさあ。お前を1人にしとけないって無理やり帰国するんだろ、あいつは心底……」
ガタンっとグラスを置いた深森にぎょっとしつつも卯乃は真っ赤になって兄の口を塞いだ。
「うそうそうそ! 恥ずかしいからやめてよ!
それならオレ、ちっちゃい頃紅羽姉さんとも結婚するって言ってたもん」
紅羽は黒羽の双子の姉でとっくに結婚して家を出た既婚者だ。幼い頃の卯乃は二人にべったり構ってもらっていたから、大好きな二人とずっと一緒にいられたらいいなあ、ぐらいの気持ちでそう思っていただけだ。
卯乃は赤面しつつ、話題を変えようと、兄に提言してみた。
「この際だからはっきり言うけど、オレも睦にいみたいな制服がいい。あの格好恥ずかしすぎて……、今まで深森にもバイト先内緒にしてたんだから」
「そうなのか?」
「えー。可愛くないか? 俺はかわいーの大好きなんだ。自分の身の回りか可愛いもんで溢れていて欲しい。彼氏さんだって卯乃のあの格好可愛いって思っただろ?」
「制服の件、俺からもお願いします」
深森まで急に頭を下げたので、熊獣人が大声で後ろで笑い出した。睦月は口を尖らせて「可愛いのに」と呟いたあとつまみの枝豆を口に放り混んだ。
「まあ、でも。確かに今日みたいなこともこれからもあったら困るもんね。可愛すぎるのも考えもんだ。制服の件考えとくよ」
「今日みたいなこと?」
「あの高校生の子たちが……うぐっ」
兄が色々と余計なことをいいかけたのでぎょっとした卯乃は「そろそろ家に帰んないと、まずいんじゃない」とセロリスティックを兄の口の中に無理やり突っ込んだ。
意外と話し上手な深森の友人のおかげで、睦月も良い酒が飲めたようだ。
大分酔っぱらて、タクシーに乗り込むまで笑いながら卯乃の子供の頃の話をあれやこれやと深森にしてきた。卯乃はそのたびに赤面するやら兄の口を塞ぐやら忙しくて堪らなかった。
「じゃ、また飲み行こうね。今度は黒羽も一緒がいいかな」
「黒羽さん、ですか」
「でもまあ、ほんとに。こっちに戻ったらきっと、君らのこと邪魔するかもね。あいつはね。心底、卯乃を愛してるから……」
「もう、睦にい、酔っ払いすぎ。変なこと言わないで」
兄をタクシーに押し込むと卯乃大きく手を振った。後ろに控えていた深森が複雑そうな表情を浮かべているとも知らずに。
「そうなのか?」
「うん。でも兄さん家でて一人暮らししてるから実家には戻らないけど。こっち帰ったら兄さんのマンションで一緒に暮らそうって言われてるんだけど、でも、実家は空にできないし、その……」
(深森と家で二人っきりでにいられる時間が減っちゃうのはやだな)
向かいに座る深森の顔を見つめたら、睦月も腕組みしながらこちらに水を向けてきた。
「で、お兄ちゃんへの彼の紹介はまだか」
「あ……。えっと。オレの恋人、サイベリアンの深森君、です。大学でサッカーをしてて、スポーツ健康科学部の、一年生です」
「はじめまして。卯乃さんとお付き合いさせていただいています」
「よろしくね。ふーん。深森君ってあれだな。おまえんちのサイベリアンに雰囲気似てる」
「やっぱりそう思う? ニャニャモと似てるって俺も最初思ったんだあ。だよね。嬉しい。やっぱ睦にいが見てもそう思うんだ」
自慢のにゃんこだったニャニャモを失った傷を癒してくれたのはニャニャモによく似た深森だった。どちらも卯乃にとって大切な存在であることに間違いはない。
「おい。卯乃。黒羽たちには深森君を紹介できまの?」
「まだだけど」
「ふーん。そっか。深森君。こいつのモンペ、身内に沢山いるから、気を付けるんだよ。うちでバイトする前、黒羽なんて乗り込んできてあーだのこーだのうるさいったらなかった。制服のズボンの丈まで短すぎないかって、いちいち文句つけやがって」
酒に口をつけながら深森も大きく頷いていたが、卯乃はそれには気にもとめない。
「黒にいは睦にいよりさらに心配性だから、すごく口うるさいんだ」
「えー、でも。お前黒羽大好きじゃんか。ちっちぇ頃は大きくなったら黒羽と結婚するんだあとか言ってたくせに。黒羽だってあんなイケメンが本命の恋人も作らないで何かにつけて弟優先ってさあ。お前を1人にしとけないって無理やり帰国するんだろ、あいつは心底……」
ガタンっとグラスを置いた深森にぎょっとしつつも卯乃は真っ赤になって兄の口を塞いだ。
「うそうそうそ! 恥ずかしいからやめてよ!
それならオレ、ちっちゃい頃紅羽姉さんとも結婚するって言ってたもん」
紅羽は黒羽の双子の姉でとっくに結婚して家を出た既婚者だ。幼い頃の卯乃は二人にべったり構ってもらっていたから、大好きな二人とずっと一緒にいられたらいいなあ、ぐらいの気持ちでそう思っていただけだ。
卯乃は赤面しつつ、話題を変えようと、兄に提言してみた。
「この際だからはっきり言うけど、オレも睦にいみたいな制服がいい。あの格好恥ずかしすぎて……、今まで深森にもバイト先内緒にしてたんだから」
「そうなのか?」
「えー。可愛くないか? 俺はかわいーの大好きなんだ。自分の身の回りか可愛いもんで溢れていて欲しい。彼氏さんだって卯乃のあの格好可愛いって思っただろ?」
「制服の件、俺からもお願いします」
深森まで急に頭を下げたので、熊獣人が大声で後ろで笑い出した。睦月は口を尖らせて「可愛いのに」と呟いたあとつまみの枝豆を口に放り混んだ。
「まあ、でも。確かに今日みたいなこともこれからもあったら困るもんね。可愛すぎるのも考えもんだ。制服の件考えとくよ」
「今日みたいなこと?」
「あの高校生の子たちが……うぐっ」
兄が色々と余計なことをいいかけたのでぎょっとした卯乃は「そろそろ家に帰んないと、まずいんじゃない」とセロリスティックを兄の口の中に無理やり突っ込んだ。
意外と話し上手な深森の友人のおかげで、睦月も良い酒が飲めたようだ。
大分酔っぱらて、タクシーに乗り込むまで笑いながら卯乃の子供の頃の話をあれやこれやと深森にしてきた。卯乃はそのたびに赤面するやら兄の口を塞ぐやら忙しくて堪らなかった。
「じゃ、また飲み行こうね。今度は黒羽も一緒がいいかな」
「黒羽さん、ですか」
「でもまあ、ほんとに。こっちに戻ったらきっと、君らのこと邪魔するかもね。あいつはね。心底、卯乃を愛してるから……」
「もう、睦にい、酔っ払いすぎ。変なこと言わないで」
兄をタクシーに押し込むと卯乃大きく手を振った。後ろに控えていた深森が複雑そうな表情を浮かべているとも知らずに。
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