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ミモザの恋が実る時
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今日はなんだかおかしい。ずっとずっとこんな風にすぐに身体が反応する。いや、違うかも。最近ずっとそうだったかも。
瑞貴からのメッセージの返信を心待ちにしたり、通話したらもう眠る寸前まで声を聞いていたくて、相手が切ってくれないかな、俺からは切りたくないな、でも切られたら余韻が寂しくて、一緒に切ろうとか言い出したら変かなとかそんなことばっか考えてた。
日曜にシフト入れたくなくて、会いたくて、だけどそれを周りに言い返せるパンチ力の低い関係性が嫌で。
何で嫌なんだろどうしてなんだろ。
周りに叫びたい。一番大事な人だから、約束も一番大事にしたいんだって。
だけど友達だと無理なんだ。でもこの関係を変えるのが怖い。すげぇ怖い。
生まれてこのかた、物心ついてずっと傍に居た相手なのに、これからギクシャクしちゃったら何もかもなくなっちゃったら。
怖いよ。怖い。でもでもでも、物足りない。ずっともっと欲しい。瑞貴が俺以外と手を繋ぐなんてありえない。
身体中をぐるぐるぐるぐると渦巻くいろんな感情。
「八広」
名前を呼ばれて、長い指にきゅっと指がからめとられた。
「この1年、ずっと考えてた。保育園から今までずっと八広が傍にいることが当たり前すぎたから。離れたらどうなるんだろう。見当もつかない。って思ってた。いつも八広の事ばっか考えてしまうかもな。どこにいても、何をしていてもきっとね。……実際そうだった。離れていてもいつも、楽しい時も悲しい時も悔しい時も寂しい時も。いつも真っ先に八広の顔が浮かぶんだ。もっとずっと一緒に居たいって俺が一番特別になりたいって思ってた。でも本当の気持ちを伝えたら、この関係が変わってしまうのが怖かったんだ。でも……」
俺は胸に沸き起こった感情の赴くまま、瑞貴の手をぎゅっと握り返した。そしてぐっと瑞貴の腕を引っ張った。人にぶつかりそうになりながら駆け出す。駆け出して、手を繋いだままさっき見かけた花屋さんに飛び込んだ。
「この、ブーケ。一つください」
風に揺れているふわふわと光の粒子みたいに愛らしくて輝かしい花。ミモザのブーケが俺の胸にも勇気の灯りをともす。
言いたいのに言葉にならないんだ。いいの、本当に俺たちの関係を変えてしまってもいいの?
真っすぐに差しだしたブーケ。瑞貴はそれを静かに受け取って、胸に抱いてから、気持ちを落ち着けるように大きく吸って、息を吐いた。その姿に俺は胸がいっぱいで、何も言えないんだ。
「八広、何も言わなくていいよ。わかるから。俺と同じってことでいい?」
目配せだけで俺が行きたいところ、見たいもの、欲しいものを読み取ってくれる瑞貴。今まで一度も疑ったことはなかったから、俺は賭けに出た。こくっと頷いた。
「俺も、同じ気持ちで、あってると思う」
「やったあ!」
雑踏の中でも周りが驚いてこちらを見るほど、瑞貴がこんな風に大きな声を上げたのって、いつぶりだろう。ああ、中三の時にクラス替えで同じクラスになった時以来かな。
『修学旅行ぜったい八広と同じクラスになりたかったんだ。嬉しい、嬉しい』
そんな風に噛み締めてくれた。あの時の笑顔とおんなじか、それ以上の笑顔だ。俺が掴んでいた手を逆にぐっと引かれた。
それで俺は、バランスを崩して瑞貴の胸に体当たりしたら、長い片腕に巻き込まれるように抱きしめられた。
「八広……、八広」
ちょっと屈んだ瑞貴の声が耳の近くで聞こえる。感極まった声色。祭の影響で狭い広場は人でごった返していたのに、一瞬周りの雑音が気にならなくなった。
時間にしたらどのくらいだったんだろう。瑞貴は掴んでいた俺の手を離すと、両手で腕の中に俺を抱え直す。宝物を包み込むような感じ。俺はお前の大事なものなんだなって、すげぇ伝わってくる仕草。
ああ、瑞貴のコートは肌触りも優しい。流石高級品。なんて照れ隠しに必死で別の事を考えないと、どうにかなってしまいそうだ。そしたらぱちぱちぱち、って前から聞こえる。
はっとして音のする方を探したら、花屋さんのお姉さんたちがこちらを見ながら、満面の笑みを浮かべて手を叩いていた。
「み、みずき、人が見てる」
「いこう!」
瑞貴がもう一度俺の腕を掴んで駆け出した。
どこに行くというのだろう。背後の建物の中に飛び込んだ。そのまま階段を駆け上がる。あまり人の往来がないそこは、映画館とは別棟の建物の階段だ。今は夕暮れ時で、踊り場に嵌っているステンドグラスみたいな丸い赤い硝子とアールを描いた鉄の飾りの模様がすごく綺麗なんだ。
小さい頃から俺はここと、建物の間を結ぶブリッジとアーチ形の回廊が好きって思ってた。ごちゃついた雑多な街で、子供の頃から何度も遊んでる街で、ロマンチックの欠片もないけど、ここだけすごく綺麗で、さっき瑞貴からもらった赤いブレスレットを見てここを思い出した。
(俺がここの赤いの、綺麗だねって小さい時に言ったこと、瑞貴はちゃんと覚えていたんだ)
胸が苦しい。涙も出そうになる、なんだろうこの感覚、身体から溢れそうになるこの気持ち思い、愛おしい、感情。何度も来たことがある地元の映画館で、相手は幼馴染の男で、なのにぎゅうって抱きしめられて顔が近づいてきたらもう、映画のドキドキなんて目じゃないほどの興奮が身体中を駆け巡る。瑞貴の真剣な顔を、俺も息を飲んでただ見つめ返す。
「八広の土曜も日曜も全部の時間、俺が好きな時に予約できる権利が欲しい。俺を八広の彼氏にしてください」
「はい」
瑞貴からのメッセージの返信を心待ちにしたり、通話したらもう眠る寸前まで声を聞いていたくて、相手が切ってくれないかな、俺からは切りたくないな、でも切られたら余韻が寂しくて、一緒に切ろうとか言い出したら変かなとかそんなことばっか考えてた。
日曜にシフト入れたくなくて、会いたくて、だけどそれを周りに言い返せるパンチ力の低い関係性が嫌で。
何で嫌なんだろどうしてなんだろ。
周りに叫びたい。一番大事な人だから、約束も一番大事にしたいんだって。
だけど友達だと無理なんだ。でもこの関係を変えるのが怖い。すげぇ怖い。
生まれてこのかた、物心ついてずっと傍に居た相手なのに、これからギクシャクしちゃったら何もかもなくなっちゃったら。
怖いよ。怖い。でもでもでも、物足りない。ずっともっと欲しい。瑞貴が俺以外と手を繋ぐなんてありえない。
身体中をぐるぐるぐるぐると渦巻くいろんな感情。
「八広」
名前を呼ばれて、長い指にきゅっと指がからめとられた。
「この1年、ずっと考えてた。保育園から今までずっと八広が傍にいることが当たり前すぎたから。離れたらどうなるんだろう。見当もつかない。って思ってた。いつも八広の事ばっか考えてしまうかもな。どこにいても、何をしていてもきっとね。……実際そうだった。離れていてもいつも、楽しい時も悲しい時も悔しい時も寂しい時も。いつも真っ先に八広の顔が浮かぶんだ。もっとずっと一緒に居たいって俺が一番特別になりたいって思ってた。でも本当の気持ちを伝えたら、この関係が変わってしまうのが怖かったんだ。でも……」
俺は胸に沸き起こった感情の赴くまま、瑞貴の手をぎゅっと握り返した。そしてぐっと瑞貴の腕を引っ張った。人にぶつかりそうになりながら駆け出す。駆け出して、手を繋いだままさっき見かけた花屋さんに飛び込んだ。
「この、ブーケ。一つください」
風に揺れているふわふわと光の粒子みたいに愛らしくて輝かしい花。ミモザのブーケが俺の胸にも勇気の灯りをともす。
言いたいのに言葉にならないんだ。いいの、本当に俺たちの関係を変えてしまってもいいの?
真っすぐに差しだしたブーケ。瑞貴はそれを静かに受け取って、胸に抱いてから、気持ちを落ち着けるように大きく吸って、息を吐いた。その姿に俺は胸がいっぱいで、何も言えないんだ。
「八広、何も言わなくていいよ。わかるから。俺と同じってことでいい?」
目配せだけで俺が行きたいところ、見たいもの、欲しいものを読み取ってくれる瑞貴。今まで一度も疑ったことはなかったから、俺は賭けに出た。こくっと頷いた。
「俺も、同じ気持ちで、あってると思う」
「やったあ!」
雑踏の中でも周りが驚いてこちらを見るほど、瑞貴がこんな風に大きな声を上げたのって、いつぶりだろう。ああ、中三の時にクラス替えで同じクラスになった時以来かな。
『修学旅行ぜったい八広と同じクラスになりたかったんだ。嬉しい、嬉しい』
そんな風に噛み締めてくれた。あの時の笑顔とおんなじか、それ以上の笑顔だ。俺が掴んでいた手を逆にぐっと引かれた。
それで俺は、バランスを崩して瑞貴の胸に体当たりしたら、長い片腕に巻き込まれるように抱きしめられた。
「八広……、八広」
ちょっと屈んだ瑞貴の声が耳の近くで聞こえる。感極まった声色。祭の影響で狭い広場は人でごった返していたのに、一瞬周りの雑音が気にならなくなった。
時間にしたらどのくらいだったんだろう。瑞貴は掴んでいた俺の手を離すと、両手で腕の中に俺を抱え直す。宝物を包み込むような感じ。俺はお前の大事なものなんだなって、すげぇ伝わってくる仕草。
ああ、瑞貴のコートは肌触りも優しい。流石高級品。なんて照れ隠しに必死で別の事を考えないと、どうにかなってしまいそうだ。そしたらぱちぱちぱち、って前から聞こえる。
はっとして音のする方を探したら、花屋さんのお姉さんたちがこちらを見ながら、満面の笑みを浮かべて手を叩いていた。
「み、みずき、人が見てる」
「いこう!」
瑞貴がもう一度俺の腕を掴んで駆け出した。
どこに行くというのだろう。背後の建物の中に飛び込んだ。そのまま階段を駆け上がる。あまり人の往来がないそこは、映画館とは別棟の建物の階段だ。今は夕暮れ時で、踊り場に嵌っているステンドグラスみたいな丸い赤い硝子とアールを描いた鉄の飾りの模様がすごく綺麗なんだ。
小さい頃から俺はここと、建物の間を結ぶブリッジとアーチ形の回廊が好きって思ってた。ごちゃついた雑多な街で、子供の頃から何度も遊んでる街で、ロマンチックの欠片もないけど、ここだけすごく綺麗で、さっき瑞貴からもらった赤いブレスレットを見てここを思い出した。
(俺がここの赤いの、綺麗だねって小さい時に言ったこと、瑞貴はちゃんと覚えていたんだ)
胸が苦しい。涙も出そうになる、なんだろうこの感覚、身体から溢れそうになるこの気持ち思い、愛おしい、感情。何度も来たことがある地元の映画館で、相手は幼馴染の男で、なのにぎゅうって抱きしめられて顔が近づいてきたらもう、映画のドキドキなんて目じゃないほどの興奮が身体中を駆け巡る。瑞貴の真剣な顔を、俺も息を飲んでただ見つめ返す。
「八広の土曜も日曜も全部の時間、俺が好きな時に予約できる権利が欲しい。俺を八広の彼氏にしてください」
「はい」
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