フリージアを嫌わないで

天埜鳩愛

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フリージアを嫌わないで

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「じゃあ、一つだけ聞かせて。透さんは俺の事嫌いですか?」

 再び引き寄せられて耳元で囁かれると、その声はかつて愛した人に少し似ていた。
 途端に遠い日の恋の熾火に煽られ、胸が締め付けられるように苦しくなる。

「それは……」

 彼がアルバイトの応募をしてきた時、電話越しに聞いた低く滑かな声が気になってしょうがなかった。
 実際に会ったら感じが良い上、非の打ち所がない好青年だった。きっとアルファだろうと直感的に思った。アルファは絶対に採らないと思っていたのに、どうしても不採用にできなかった。
 彼は透の中で初めから常に意識してしまうような、大きな存在だったのだ。

「嫌いだったら家にあげてないよ……」

 語尾が消え入るような小さな呟きを聞き逃さず、伏見はどこか誇らしげににこりと笑う。

「それが告白の答えなら、貴方は俺のことが好きだ」
「アルファらしい、台詞。自信家なんだね?   無理もないか。その容姿で凄く優しいんだもん。今まで君に惚れない人なんていなかったでしょ」

 透を覗き込んできた彼はゆっくりと首を振って、少し寂しそうに口元を歪めた。意外な仕草に目を奪われると抱く腕に力が篭もる。

「じゃあ、貴方も、俺のこともっと好きになって。俺に委ねて。俺に貴方のことを大切にさせて。俺を貴方の彼氏にして」
「……大切に、してくれる?」
 かつての恋人に言いたくて言えなかった言葉を、たどたどしくぶつけてみる。
「大切にするから、俺に透さんを下さい」 

 迷いなく誓いを刻むように再び口づけられた唇は熱い。迷いなく差し入れられた舌を受け入れながら、口先だけの言葉であったとしても、こんな晩は逞しい腕に縋りついてしまいたくなる。
 そんな自分を学生服を着たもう一人の自分が『これじゃあの時と同じだろ』とせせら笑い、透は溺れかけた熱情から無理やり這い上がった。キスを無理やり中断して、彼の胸をぐっと押し返す。

「だから、無理っ」
「どうして?」
「だって僕、ベータだから。君はきちんと番になれる人と付き合った方がいいって」
「そんな理由?   なら、引き下がれない」
「教えてあげるから、聞いて。君が知りたい、元彼の話。もうちょっと、お酒飲ませて。そしたら喋るから」

※※※

「元彼とは高校の時の同級生で大学卒業した後まで、長く付き合ってたんだ。高校は超がつく進学校で、周りはアルファのやつが多かった。僕も中学の時は成績が良かったけど、だんだん周りのレベルについていけなくなった。男子校で僕、見た目もこんなだろう? 美人だって結構モテて言い寄られること多かったんだよね。おい、伏見君。ここ笑うとこだぞ」
「笑いません。透さん綺麗だし」

 酒が入ってもう大分気が大きくなってしまった。実際のところはそんなに酔ってはいない。酔っているふりをして言葉遣いもあったものじゃなく、何もかも洗いざらい喋って彼に受け止めてほしかった。
 ソファーで隣同士に腰かけて、透が寄りかかったぐらいで彼はびくともしない。
 大きな身体の温もりが心地よくて、透はまた一口酒をあおる。

「あ、どこまで話したっけ?」
「透さんがモテた話」
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