23 / 47
フリージアを嫌わないで
23
しおりを挟む
彼はどんな気持ちで何も知らない透にそう告げたのだろう。
フリージアの小さなブーケは、純粋な愛だけを込めた贈り物。その思い出を歪め踏みにじるような言葉を紡ぐ透の話を、どんな気持ちで聞いていたのだろう。
「ごめんなさい。僕、何も知らなくて」
申し訳なくて涙ぐむ透の目じりに伏見は唇を押し当ててきた。慰める仕草の優しさに触れると、余計に涙が止まらなくなる。
「花束の思い出も、あんな風にひねくれて解釈して、君の真っすぐで綺麗な思いを……。僕は、本当に、愚かだ」
「泣かないで。透さん。帰国してすぐ、貴方のお店を探して『フリージア』なんだってわかった時、俺はすごくうれしかったから」
伏見はベッドの縁に腰を下ろすと、大切な宝物のように透の薄い身体を抱きかかえた。
「君、ライ君だよね。そうだ、君の名前。伏見雷君。こんなに大きくなって……」
「そうだよ。透さん、やっと思い出してくれた?」
アルファ性を持つ逞しい若者に成長を遂げる前、当時の彼は寧ろ同級生の間でも身体が小さく細かったように思う。
「苗字が……。ああ、そうだった。すぐに気づいてあげられなくてごめんね」
朔の両親は高校生の頃に弟の小学校の卒業を待って離婚をしていた。弟は確か母親に引き取られて海外に渡ったと聞かされていた。当時一緒に遊んであげていた弟分を失って、透は寂しい気持ちになったものだった。
(似ているわけだ。朔の弟だったんだもの)
「今、だから朔に似てるんだって思った?」
「思った」
正直にそう話せば、伏見は切なげに男らしい眉を寄せる。そして彼もまた素直に心情を吐露し始めた。
「俺たち顔は全然似てないけど、親にも骨格とか雰囲気とか特に声が似てるって言われてるから。透さんが俺の姿を見ながら兄貴のこと思い出してるんだと思うと、すごく嫉妬してたよ。貴方はほんと、綺麗で優しくて、それでいて罪深い人だよね。まだ小学生だった俺を、あんなに夢中にさせてさ」
「まさか小さな君が僕を思っていてくれるなんて知らなくて、ごめん」
「そういうところが罪深いよ。俺はずっと、貴方に焦がれてた。兄さんとの事後の部屋で一人で置き去りにされて泣いてる姿見て、俺なら絶対に貴方を泣かさないのにって、俺は自分の年の差が、小さな身体が、貴方の元を離れなければいけない運命が、全て歯がゆかった。こんな風に貴方を抱きしめたかったんだ」
小さな身体いっぱいに溢れる感情を秘めていた幼い伏見を想うと、透も彼に駆け寄って抱きしめてあげかったと思った。
「おませだね、雷君。そんな風に思ってたんだね」
そんな風に笑うと、伏見は色気を含んだ眼差しを向けた後、身体をよじって腕の中にいたはずの透は再びベッドの上であおむけに押し倒された。もう子どもだとは揶揄えないような艶っぽい口づけに蕩ける透に、降り注ぐ甘い香りはフリージアのそれに似ている。
「俺はもう子供じゃないよ。貴方を護れる。こんな風に、貴方を愛せる」
この声で囁かれると弱い。そんな顔をしたらまた、兄の影に瞳の奥が焦れた伏見がいじらしくて可愛い。
フリージアの小さなブーケは、純粋な愛だけを込めた贈り物。その思い出を歪め踏みにじるような言葉を紡ぐ透の話を、どんな気持ちで聞いていたのだろう。
「ごめんなさい。僕、何も知らなくて」
申し訳なくて涙ぐむ透の目じりに伏見は唇を押し当ててきた。慰める仕草の優しさに触れると、余計に涙が止まらなくなる。
「花束の思い出も、あんな風にひねくれて解釈して、君の真っすぐで綺麗な思いを……。僕は、本当に、愚かだ」
「泣かないで。透さん。帰国してすぐ、貴方のお店を探して『フリージア』なんだってわかった時、俺はすごくうれしかったから」
伏見はベッドの縁に腰を下ろすと、大切な宝物のように透の薄い身体を抱きかかえた。
「君、ライ君だよね。そうだ、君の名前。伏見雷君。こんなに大きくなって……」
「そうだよ。透さん、やっと思い出してくれた?」
アルファ性を持つ逞しい若者に成長を遂げる前、当時の彼は寧ろ同級生の間でも身体が小さく細かったように思う。
「苗字が……。ああ、そうだった。すぐに気づいてあげられなくてごめんね」
朔の両親は高校生の頃に弟の小学校の卒業を待って離婚をしていた。弟は確か母親に引き取られて海外に渡ったと聞かされていた。当時一緒に遊んであげていた弟分を失って、透は寂しい気持ちになったものだった。
(似ているわけだ。朔の弟だったんだもの)
「今、だから朔に似てるんだって思った?」
「思った」
正直にそう話せば、伏見は切なげに男らしい眉を寄せる。そして彼もまた素直に心情を吐露し始めた。
「俺たち顔は全然似てないけど、親にも骨格とか雰囲気とか特に声が似てるって言われてるから。透さんが俺の姿を見ながら兄貴のこと思い出してるんだと思うと、すごく嫉妬してたよ。貴方はほんと、綺麗で優しくて、それでいて罪深い人だよね。まだ小学生だった俺を、あんなに夢中にさせてさ」
「まさか小さな君が僕を思っていてくれるなんて知らなくて、ごめん」
「そういうところが罪深いよ。俺はずっと、貴方に焦がれてた。兄さんとの事後の部屋で一人で置き去りにされて泣いてる姿見て、俺なら絶対に貴方を泣かさないのにって、俺は自分の年の差が、小さな身体が、貴方の元を離れなければいけない運命が、全て歯がゆかった。こんな風に貴方を抱きしめたかったんだ」
小さな身体いっぱいに溢れる感情を秘めていた幼い伏見を想うと、透も彼に駆け寄って抱きしめてあげかったと思った。
「おませだね、雷君。そんな風に思ってたんだね」
そんな風に笑うと、伏見は色気を含んだ眼差しを向けた後、身体をよじって腕の中にいたはずの透は再びベッドの上であおむけに押し倒された。もう子どもだとは揶揄えないような艶っぽい口づけに蕩ける透に、降り注ぐ甘い香りはフリージアのそれに似ている。
「俺はもう子供じゃないよ。貴方を護れる。こんな風に、貴方を愛せる」
この声で囁かれると弱い。そんな顔をしたらまた、兄の影に瞳の奥が焦れた伏見がいじらしくて可愛い。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
【完結】エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる