37 / 47
リナリアを胸に抱いて
11
しおりを挟む
「ごめん。……雷くんは、学校を休みがちだって聞いたよ。あまり、勉強とか嫌い? 僕でよければ教えてあげるけど」
顔に出してしまったせいで、変な心配をされてしまった。誰からどう思われても良かったが、この人に兄より劣っていると思われるのは癪だった。
「勉強は、別に嫌いじゃない」
コントローラーを置いて立ち上がった雷はそのまま、母が手配した家庭教師が置いていった課題を透の前に広げて見せた。
「え、これやってるの? 高校でやる問題だよね?」
「学校の勉強は、退屈なんだ」
「……そっか。雷くんは雷くんで、色々大変なんだね。朔も、この大きな家を継いで行くために、沢山努力してるみたい。学生なのに、お父さんの仕事も手伝ってるって言ってた」
(……兄さんは昔よりずっと、真面目にやってる。父さんに透さんとのことを、認めさせたいからなのかもな)
「透さんさ、ベータなのにオメガに無理やり変化させられて、それで本当に兄さんと番になりたいの?」
「え……」
「どうして知っているかって? 兄さんがそう言ってたから。でも、透さんがオメガになったとして、幸せになれるとは限らない。うちの一族はアルファ同士でしか婚姻を認められない。結婚したって、愛情なんてないんだ。僕も兄さんも、この家を継ぐために無理やり産まされた命だ。兄さんはまだいい。この家を継ぐっていう意味がある。でも僕の人生は本当に、何の意味もない。ただの保険か、スペアみたいなものだろうな」
自嘲気味に呟いてソファーに腰かけ直した雷に、透が「そんなことない!」といいながら飛びかかるように抱き着いてきた。
思わずソファーのひじ掛けによろけて、雷は透の背中に手を回して慌てて抱き留める。
「そんなこと、言っちゃだめだよ。そんな風に、言わないで」
「……透さん」
「僕もだよ。僕も、そう。母さんは僕を産んだ後、家を出て行ったから、僕はまだ学生だった叔父さんと、今は亡くなった祖母に育てられたんだ。僕を捨てるぐらいなら、産まなければよかったのに、寂しい、哀しいって泣く俺に、叔父さんが言ったんだ。『お前がそこにそうしているだけで、嬉しくて仕方ない人に、いつか必ず未来で出会える。その人の為にも毎日元気に生きなさいって。それに俺も、ばあちゃんも、お前のことが大好きだ』って。だからね」
「……」
「僕は、雷くんが隣で笑ってくれることが、すごく嬉しいよ。君もね。傍で笑ってくれる人がいたら、その人を好きになってみるといいよ。雷くんは素敵な子だし、きっとみんなも君の事、大好きだと思う」
(……みんななんていい。あんたがいい)
そう叫びだしたい気持ちを抑えながら、雷は透にしがみ付いた。
(透さん、少しは僕の事、好きですか。兄さんに与えるほど、沢山の愛をくれなくたっていい。僕のこと、少しは……)
抱き着く腕に力を籠める雷を、透もまた応えるように強く抱きしめ返して、その後雷の顔を覗き込んできた。
「僕も君の事、大好きだよ」
透の大きな瞳から、ぽろぽろと透明な涙が落ちる。雷はああ、美しいなあと胸が熱くなる。
(これは、僕のためだけの、涙)
頬を伝い、落ちていくのがもったいない気がした。これは世界中でたった一人、透が雷を想って流してくれた、想いの結晶のようなものだ。いわば情け、いわば愛情だ。
雷は思わず手を伸ばして、その頬をそっと撫ぜようとした。
「透さん……、僕……」
(僕も、あなたを……)
思わず口につきかけた言葉、溢れそうな思いにぐっと胸が詰まる。もしかしたら彼に愛を告げてしまいたかったのかもしれない。
「何をしてるんだ」
しかし開きかけた口を留めたのは、兄の地を這うような低く冷たい声だった。
顔に出してしまったせいで、変な心配をされてしまった。誰からどう思われても良かったが、この人に兄より劣っていると思われるのは癪だった。
「勉強は、別に嫌いじゃない」
コントローラーを置いて立ち上がった雷はそのまま、母が手配した家庭教師が置いていった課題を透の前に広げて見せた。
「え、これやってるの? 高校でやる問題だよね?」
「学校の勉強は、退屈なんだ」
「……そっか。雷くんは雷くんで、色々大変なんだね。朔も、この大きな家を継いで行くために、沢山努力してるみたい。学生なのに、お父さんの仕事も手伝ってるって言ってた」
(……兄さんは昔よりずっと、真面目にやってる。父さんに透さんとのことを、認めさせたいからなのかもな)
「透さんさ、ベータなのにオメガに無理やり変化させられて、それで本当に兄さんと番になりたいの?」
「え……」
「どうして知っているかって? 兄さんがそう言ってたから。でも、透さんがオメガになったとして、幸せになれるとは限らない。うちの一族はアルファ同士でしか婚姻を認められない。結婚したって、愛情なんてないんだ。僕も兄さんも、この家を継ぐために無理やり産まされた命だ。兄さんはまだいい。この家を継ぐっていう意味がある。でも僕の人生は本当に、何の意味もない。ただの保険か、スペアみたいなものだろうな」
自嘲気味に呟いてソファーに腰かけ直した雷に、透が「そんなことない!」といいながら飛びかかるように抱き着いてきた。
思わずソファーのひじ掛けによろけて、雷は透の背中に手を回して慌てて抱き留める。
「そんなこと、言っちゃだめだよ。そんな風に、言わないで」
「……透さん」
「僕もだよ。僕も、そう。母さんは僕を産んだ後、家を出て行ったから、僕はまだ学生だった叔父さんと、今は亡くなった祖母に育てられたんだ。僕を捨てるぐらいなら、産まなければよかったのに、寂しい、哀しいって泣く俺に、叔父さんが言ったんだ。『お前がそこにそうしているだけで、嬉しくて仕方ない人に、いつか必ず未来で出会える。その人の為にも毎日元気に生きなさいって。それに俺も、ばあちゃんも、お前のことが大好きだ』って。だからね」
「……」
「僕は、雷くんが隣で笑ってくれることが、すごく嬉しいよ。君もね。傍で笑ってくれる人がいたら、その人を好きになってみるといいよ。雷くんは素敵な子だし、きっとみんなも君の事、大好きだと思う」
(……みんななんていい。あんたがいい)
そう叫びだしたい気持ちを抑えながら、雷は透にしがみ付いた。
(透さん、少しは僕の事、好きですか。兄さんに与えるほど、沢山の愛をくれなくたっていい。僕のこと、少しは……)
抱き着く腕に力を籠める雷を、透もまた応えるように強く抱きしめ返して、その後雷の顔を覗き込んできた。
「僕も君の事、大好きだよ」
透の大きな瞳から、ぽろぽろと透明な涙が落ちる。雷はああ、美しいなあと胸が熱くなる。
(これは、僕のためだけの、涙)
頬を伝い、落ちていくのがもったいない気がした。これは世界中でたった一人、透が雷を想って流してくれた、想いの結晶のようなものだ。いわば情け、いわば愛情だ。
雷は思わず手を伸ばして、その頬をそっと撫ぜようとした。
「透さん……、僕……」
(僕も、あなたを……)
思わず口につきかけた言葉、溢れそうな思いにぐっと胸が詰まる。もしかしたら彼に愛を告げてしまいたかったのかもしれない。
「何をしてるんだ」
しかし開きかけた口を留めたのは、兄の地を這うような低く冷たい声だった。
18
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
【完結】エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる