香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
35 / 222
再会編

レイ先生4

しおりを挟む
「アン、すまない! レイの発情に充てられた。俺の車の座席横にある革の小物入れの中に抑制剤が入ってるが、もう間に合わないかもしれない…… ラットが起きる前に俺の腕を縛り付けてくれ」

 しかし腕の中のレイが顔を真っ赤にさせながら、なおも唇を震わせ泣き叫んだ。

「いや! いいの。離さないで! カレブ。噛んで! 僕を噛んで!」
「レイ! 正気なの?! 発情に引きずられてそんなことを口走ってるんじゃないの?!」

 ぎょっとしたアンもレイを止めようと言い募るが、レイはアンに向かって静かに頷いた。だるそうではあったが、瞳の中に僅かだが普段通り彼の穏やかな光を感じる。

 アンは胸を絞りつけられる心地がした。レイが中央からここに来るまで通り抜けてきた苦難の日々を、同僚であるアンは知っているからだ。

 レイは中央にいた頃、アルファである学生時代からの親友に裏切られ、夢であった教職に仕事に就けるように取り計らう代わりに、自分の番になるように強要されていた。

 信頼する大好きな友人だったが、番として愛することはできなかった。無理して番になり関係が歪むことをレイは良しとせず、彼に背いたことによる嫌がらせにあいながらも、レイは沢山傷つきながらこの仕事をやっとみつけてここに来た。

「いいんだ」

 紅潮した頬、涙にぐしゃぐしゃになった顔のまま、レイはカレブに向き直り、大きな声ではっきりといった。

「ずっと迷っていたけど。さっき倒れたカレブをみて、決心がついた。死ぬ瞬間まで、一緒にいたい。僕たち番になろう?」

 そういうと、彼に熱烈な口づけを送ったのでアンはヴィオの頭を抱えて目を遮った。

「レイ、愛してる」

 フェロモンが迸り弾け、バニラの甘い香りと他を圧倒するアルファの森林の中のような深い香りが混ざる。それは頭を抱えられたヴィオの鼻にもわずかながら届いていた。

 寝台の上に重なり合っていく二人を見て、アンは結い上げた金髪を振り乱し、へたりこんだヴィオを引きずるようにして廊下まで出すと、何とか扉を閉めて彼の耳を塞ぐようにして抱きしめた。

「ヴィオ、しっかりして。下まで降りるわよ」

 ぺしぺしと頬を叩かれるが、身体は大きくなっても心はまだまだ柔く未成熟なヴィオにはとにかく刺激が強すぎたのだ。すっかり腰が抜けてしまって、アン先生に抱えられたまま廊下に崩れ落ちてしまう。ヴィオは言いようのない気持ちに囚われて涙が止まらず、若いアン先生も泣いていた。

 塞いでも耳を割って聞こえてくるレイ先生の甲高い嬌声に、唸るようなカレブの声。発情期のアルファとオメガ二人きりの世界の中には何人たりとも踏み込むことはできない。中の様子はあずかり知ることはできないまま、アンはなんとか自分より大きいが身体は細いヴィオを抱えて引きずると、部屋から一番遠く階段の一番上までやってきてヴィオを抱きしめて「大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けた。何が大丈夫なのかもわからないまま、アンはそう言い続けたのだ。

 さらに半刻ほどたって、帰ってきた学校長と用務の男性がヴィオを抱え上げて一階に下がってきた。ぐったりと身体中の力が抜けたままのヴィオは学校長の部屋で休まされ、用務の男性が父親を車で呼びに行くまでそのまま寝かされていることになった。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります! 表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡ 途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。 修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。 βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。 そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

Accarezzevole

秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。 律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。 孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。 そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。 圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。 しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。 世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。 異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。

【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる

grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。 幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。 そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。 それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。 【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】 フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……? ・なぜか義弟と二人暮らしするはめに ・親の陰謀(?) ・50代男性と付き合おうとしたら怒られました ※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。 ※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。 ※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!

処理中です...